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より良き放任とは

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

現在、3人の政治家が宇宙に行く為の最終選考をされている。

出来レースではあるが、きちんと選考したという結果が欲しいからだ。

この中で元財相と野党の若手執行部は対照的な態度である。

元財相は、出来レースで自分が当て馬である事を良しとしている。

その為、演技はともかくやる気は全く無い。

訓練における態度にもそれが現れていた。


政治家は宇宙に行ったって何の意味も無い。

宇宙で政治をする意味は無い、地上でやれば良い。

「国境の無い世界を実際に目で見てみる」「地球という儚い環境を天空から見てみる」というのも、極端な話飛行機で十分だ。

だからJAXAスタッフもNASAスタッフもこう言う

「より良きお荷物に徹してくれ」

と。


元財相はそれが分かり切っている上に、前総理が選ばれ自分が「選ばれない原因」を作る必要があると思っていた。

よって、基本的に何もしない。

空いた時間は無駄話をしているだけだ。

最終選考に残った、残された?、だけあってそれなりのスキルは発揮する。

言われたら手伝う。

指示された通りにも動く。

だがそれまでだ。

受動に徹している。

自発的に動くのは、無駄話をする時くらいだ。


一方の野党若手幹部は、出来レースで自分が当て馬である事を納得していない。

どうで出来レースだとしても、自分が選抜されて当然の成績を残そうと考えた。

その上で前総理が選ばれたなら、癒着とか権力の濫用とかで責めようと画策している。

故に張り切り過ぎた。

自分がやろう、やろうとした結果、失策をしてしまった。

マスコミに見られているという事で、熱意が空回りしたきらいもある。

ある意味、老政治家の元財相が言ったように、若かった。

無難にやっていれば、もしかしたら彼が望むように

「何故若くて成績も良い彼が選ばれず、政治家としては働き盛りと言っても、客観的には老人の部類の前総理が選ばれるんだ?」

という姿を見せられたかもしれない。

どうも目立ちたがり屋に見られる、派手にタップダンスを踊って地雷を踏むような事をしてしまった。


では前総理はどうか?

基本的には受動、それは元財相と変わらない。

素人が口出ししても失敗する、それを理解している。

前総理は、航空事故を扱ったケーブルテレビの番組を視聴していた為か、飛行機なら機長、宇宙船なら船長を頭ごなしに叱れる存在が何か言うと、それだけでプレッシャーとなってミスを誘発すると考えていた。

実際に起こった某国の大統領搭乗機の墜落事故では、度々大統領の側近が機長に圧をかけていたという説も出ている。

前総理は、それ故に無駄話をして相手の時間を取る事もせず、淡々と言われた通りに行動していた。


最終選考で課される「難題解決」がこの訓練機に発動される。

この課題は解決する事を見たいのではない。

いかに解決するまでにチームワーク良く動けるかが見どころだ。

前総理は同乗のクルーに対して言う。

「船長がこの場において、僕なんかよりも偉い。

 僕なんかはただのお荷物だ。

 だけど、この場には4人しかいない。

 僕ものうのうとお荷物に徹している余裕は無いんじゃないかな。

 だから、僕もこき使うような指示を出してくれたまえ。

 これで駄目でも、船長のせいといって責めない事を約束するよ」

そうは言われても、かえって緊張してしまう。

それを見てか、前総理は笑って言った。

「秋山さんは、この度の宇宙行きには反対のようだね。

 失策を見て、大義名分を得て計画を中止させるかもしれない。

 まあその時はその時さ。

 運が無かったと思って諦めるよ。

 本当に、ただの問題解決ゲームと思ってリラックスしてやろうか」

さらにこうも言う。

「まあ、本当の事故なら僕もこんな余裕じゃいられないだろうけどね」

率直な言葉に思わず笑いが起こる。

こうしてリラックスした一同は、まず段取りを話し合い、それに沿った行動を各自で取った。

置物でもなく、かと言って出しゃばるでもなく、一方で「人との関わり方が生命線」である政治家らしい振る舞いで周囲を動かす、自分を動かすように促す、こういうやり方に感心する人も多数居た。

そうでない人も観察者の中には存在するが。


そうでない人、まずは最初から「批判する事に決まっている」マスコミ及び野党関係者である。

「適当な事を言って、結局自分からは何も動いていないだろう」

「あれに比べたら、失敗しても自ら何かをしようとした方が良いだろう」

なんて言っている。

……その結果、生命を失う事故になってしまったら……とは考えないよう思考停止をしていた。


感心していない人、その中には秋山も含まれる。

(外堀を埋めてしまって、現場の人間が仕事せざるを得ない状態を作り出す。

 前総理の上手いやり方だよなあ。

 褒める、責任感を刺激する、既に決定事項としてしまう、周囲を動かす、環境を整える、等々。

 自分は何度も何度も、やりたくないのに、あの手法でやらざるを得ない仕儀に追いやられたものだ。

 政治家として立派なんだろうな、こうやって人を動かすやり方っていうのは。

 でも自分は、軽くトラウマを呼び起こされてしまう……)


何度も何度も無茶ブリをされ、それを形にする仕事をして来た秋山。

今見ている光景もそれだ。

ここまで上手くやられると、選考せざるを得ないではないか!

宇宙行きにNGを出す理由が無いではないか!


海千山千の官僚を動かして来た政治家からしたら、基本的に技術家肌、学者肌のJAXA職員や宇宙飛行士とチームワークに見せた、多くを他がやって自らもきちんと動いているように振る舞う事は訳も無い事なのかもしれなかった。

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