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認めたくないものだな、若さゆえの(以下略

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「保守政党の与党ってのはなぁ、楽なもんなんだよ」

最初から余計な事をしない、口を挟まないと決めている元財相は、空いた時間に自分の専門について語る。

どうせ前総理が宇宙に行くのは決まっているのだが、最初から結論ありきでは批判されてしまう。

だからアリバイ作りに「他にも何人か候補者が居ました」とやっているのだが、前総理より年長の元財相も、最初から落選が分かった最終候補者として訓練に参加している。

だから変に目立つ気もないし、無理して動く気もない。

平々凡々に過ごしている。

まあ、後援会の手前「やってる態」は見せる事になるが。


さて、元財相の政治講座である。

「俺たちは、上手くいってるなら変える必要は無いって立場だ。

 こうして欲しいって要望は聞くよ。

 だが、法律で規制されているなら、それ以上は動けない。

 だから既得権益を守るって言われるんだよな。

 否定はしねえが。

 一方の、革新系政党の野党ってのは辛い立場なんだ。

 与党と同じ事を言ってたら誰も支持しねえ。

 例えそれが内心正しいと思っていてもだ。

 あえて与党と反対の事を言わなければならない。

 変化を主張しないとならない。

 要は、違った事をして目立たないと埋没してしまうんだ」

「はあ……。

 言ってる事は分かります」

「そんでなあ、若い議員ってのは鉄砲玉みたいなもんでなあ、そういう与党にケチをつける際に、合ってようが間違ってようが先陣に立ってまくし立てるんだよ。

 若い政治家は色々汚れ仕事もする。

 雑巾がけって言ったりする。

 そういう実績を積んだ奴が、上に行けるのよ」

「それって、古いやり方なんじゃないですか?」

「否定しねえ。

 正しいやり方だなんて言えねえな。

 だが、現状こうなっているって話なんだよ。

 新しいやり方が上手くいってねえ以上、こういうやり方を踏襲せざるを得ねえ」

「はあ……」

「不満そうだが、話を続けるぜ。

 若い議員ってのは、それくらい元気がねえとやっていけねえ。

 誰が大人しいだけの、何もしない奴を助ける?

 そんなわけで、革新系の野党の若い奴ってのは、目立とうとするのが生き方なのさ」

「はあ……」

「本題はここからだ。

 そうして政治の世界で生きて来た若い奴は、他の世界でも同じ事をやらかす場合があるんだよ。

 テレビ番組とか見てみねえ。

 目立とうと必死で、他人の発言中にも食い気味で自分の話をし始める」

「もしかして、もう一人の候補者の事に繋がりますか?」

「おうよ。

 経験を積めば、出る時と引っ込んでる時の呼吸が分かるようになるんだが、あの若いのは今が一番血気盛んだからなあ。

 まして取材陣がモニターの向こうで視てるなら、張り切り過ぎるんじゃねえかね」

老人の元財相がそう語る。

まあ語ってる人は、経験豊富な癖に舌禍になる発言が多く、人の事をとやかく言えないのでは? と同室の飛行士は思ったりしていた。




その若手政治家は、最初の方は絶好調であった。

体力低下を防ぐトレーニングも、今いる政治家の中では一番若い事もあり、ハッスルしながら挑んでいた。

ちょっとした訓練に対しても、積極的に挑む。

採点がここまでなら、明らかにこの人を選んだ方が良いだろう、と見えた。


この閉鎖空間での訓練は、チームワークを見るものである。

如何に協調性を持っているか。

チームで難題を解決出来るか。

その為に、突発的に難題が投下される。

以前は「あと2時間で墜落します、制御装置は全て故障しました、電気はあと30分しか持ちません、ハッチも故障し脱出不可能です」なんて難題を出した事もある。

要は有り合わせのもので修理しろ、修理が間に合わなくても生き残る方法を最後まで考えろ、というものだ。

それに比べれば、遥かに難易度が低い

「二酸化炭素吸着フィルターが故障しました。

 このままでは3時間で二酸化炭素中毒になるので、対処して下さい」

というものがアナウンスされる。


ここで悪い癖が出てしまった。

「これは有名なアポロ13号の事件の再現だな。

 私は知っているぞ。

 サイズが合わない箱を繋ぎ合わせるものだ。

 私がやる!」

「いや、先生、そんな分かり切った問題は出しませんよ」

「いいから、探してくれ。

 それと、ビニール袋を用意するんだ。

 どこかにあるから」

「いやいや、予備は同じ規格のものが有るので」

「だったらそれを渡してくれ。

 私は答えを知っているんだから、私がやるから」

「では、これですので。

 って、何をしているんですか?」

「ビニール袋で空気漏れしないようにしている」

「それをやるとサイズが合わなくなります。

 アポロ13のは司令船と月着陸船の規格が違うから、そうする必要があっただけで、同じ規格なら必要ありません。

……って、話を聞いて下さい!」

そのまま無理矢理ねじ込んだ為、ビニール袋は破けてしまった。

更に、この問題は別の部分に罠が潜んでいる。

それは「予備のフィルターにも欠陥がある為、交換する前にそれを見つけ出す」というものであった。

若い政治家が、これはアポロ13号のケースと同じだと早合点した為、スタンドプレーで突っ走ってしまったのだ。

目立とう精神が悪い方に働いてしまった結果である。

更に悪い事に、そのビニール袋は第二の課題

「電源に異常発生、有毒ガスが発生している」

における、異常部分の隔離用のものだったのだ。

2枚重ねて異常部分を密閉し、口にホースを付けたものをトイレから宇宙に放出する、という使い方の予定が、無理なねじ込みによって2枚とも破いてしまったのである。

「なんで私を止めなかった!?」

後から色々分かって怒ってしまったが、これも減点項目である。

協調性の無さ、感情を抑え込めない未熟さ、クルーにも悪影響を与える行動。


(いやあ、これは美味しい。

 今は俺たちが嫌いな前総理を叩きたいから使わないけど、いつかは記事に出来るネタだよ!)

既に与党批判という結論ありきな姿勢で取材に来ている報道陣だったが、その彼等から見ても

(こりゃ落選だな)

と思わせる醜態を晒してしまったのだ。


後にこの政治家は悔やんでこう言う。

「認めたくないものだな、自分の若さゆえの過ちというやつは……」

※一応フォローすると、与党でもこういうスタンドプレーの後に自滅する人はいる、と言っておきます。

野党だからって事はないです。

そして、何かあればメッキが剥がれてしまうのは、自分も含めて全ての人にある事だと思ってます。

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