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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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そろそろ準備が始まるが、準備の為の準備もしないとならないし、忙しいのだ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

JAXAもNASAも、同じ名前のをモデルにした似て非なる機関と思って下さい。

アメリカから教官が来る。

有人宇宙飛行の管制について、日本人に教える為である。

無人機の管制とはまた一味違う。

人間の健康状態や精神状態を送られて来る数値から読み取るのだ。

さらに、座っているだけでなく、船外活動用の監視も必要である。

宇宙服の酸素残量、空気圧、温度。

宇宙飛行士が船外活動をしている周辺の温度や紫外線、放射線の量。

まだ行けると言っても引き揚げさせる時間や状況もある。

ドッキングする場合、相手と我との気圧差や空気の状態の確認。

軌道計算も、わずかにズレただけで大気圏再突入で燃え尽きたり、逆に宇宙に弾き飛ばされたりする。

だからシビアに計算し、体重の変化、持ち込んだ荷物の重量でズレが生じないかを確認する。

全てを「予兆」のうちに見つけ出し、潰す。

それが人の命を預かる仕事なのだ。



ところで秋山たちは、別な仕事をしている。

彼等の宿舎の手配をしていた。

名簿を渡された時から、

・家族の同伴はあるか?

・自動車の有無、無い場合は送迎は必要か?

・喫煙の有無

等を鑑みて、住宅の調査を行っていた。

秋山は監督してるのだが……。


喫煙は、最近のNASAの管制官はまずしない。

健康の問題もあるし、精密機械の中で煙を吐く等もっての外である。

しかし派遣される教官は、NASAを退官した者主体である。

彼等の若い時分は、成功すると葉巻に火を点けるという儀式を行っていた。

そういう細かいとこも気をつけないと。


宿舎の手配が済んだら、その賃料や購入費をまとめて報告する。

運転が好きな人には、希望の自動車を手配する。

サイクリングが趣味ならば、自転車もだ。

ネットワーク回線も家まで繋げる。

場合によってはハウスクリーニングも定期的に予約する。

それらにかかった費用もまた報告する。


生きた人間が一番大変なのは、宇宙まで行かずとも分かる。

教官たちが日本で快適に生活する為の気遣いも、これで中々大変なのだ。




日本側は、本来の有人飛行計画に関わっていた職員を中心に、管制業務の勉強をする。

なお、衛星部門、惑星探査機部門、宇宙ステーション部門の職員からは

「ライブで忙しい、管制中だから、そっちには顔出せない」

と言われ、断られた。

実際に管制業務をしているプロではなく、これからの職員中心となる。

……一からの学習で、中々大変そうだ。


模擬の管制センターの建築も進んでいる。

ビル内でやろうかと思ったが、教官に研究員にさらにそれを見ながら学習する職員(新人)も居る為、手狭になる。

そこで実際のNASAの管制室をコピーし、さらに観察ブースも設けた「疑似管制センター」とした。

ここには大型コンピューターも入れて、様々なシチュエーションの事故を体験出来るようにする。

一部、何も無い部屋、というかホールが出来た。

ここには有人宇宙船の地上シミュレーターが置かれ、NASAの教官が想定した意地悪な事故の体験を、宇宙船側と管制側で出来るようにする予定であった。


意外なことだが、宇宙飛行士は現在ここに一人も居ない。

彼等はアメリカで訓練を受ける為、ここには居ないのだ。

アメリカで訓練を受け、アメリカから打ち上げられ、アメリカの領海に帰還する、当分はそうする予定である。

やがて打ち上げは日本から行われるようになる。

現在基地設営準備委員会が候補を絞り込んでいる。

種子島宇宙センターは、漁業の関係で打ち上げ可能な季節が決まっている。

内之浦も似たようなものだ。

そこで有人宇宙船用の打ち上げ基地を用意するのだが、歓迎と反対の声は半々である。

反対派の漁師の家には、代々日本酒を持って妥協点を探るのが伝統だそうだ。


帰還の方も重要だ。

上手く着水させなければならない。

そこは、出来るだけ波が荒くなく、天候も晴の日が多い場所が望まれる。

そして打ち上げと回収は出来れば同じ基地で行いたい。

打ち上げ基地があり、別に回収部隊の待機する基地も用意するとなると、予算的にも問題が……


と思ったら、政治家先生たちから横槍が入れられた!

別々にしろ、と。


地域振興の利害が絡んだ為、打ち上げ基地は1ヶ所、回収基地は2ヶ所になった。

打ち上げは延期出来るが、帰還は場合によっては延期出来ない。

しかし片方の基地が時化で出航出来ない場合、もう片方を使おうという事だった。

理由はともかく、誘致の関係でそういう妥協が起こったのは分かる。

そして、説得しないとならない反対派の漁師さんは3倍に増えた。


「有翼宇宙船じゃダメだったんですか?」

秋山は部下から質問された。

「ダメだった」

「どうしてです?

 有翼型なら適当な飛行場まで自力で飛行して辿り着く事も出来るでしょう?」

「その飛行が問題だったんだ。

 宇宙船はどこを飛行する?」

「空ですが?」

「空は全部日本のものか?」

「え? 言ってる事が分かりません」

「横田空域とか聞いたことない?

 米軍基地の上空とか、日本機は通れない空があるんだよ!」

「あ!」

「日本上空を通らないとなると、海に着水しかない。

 着水するなら翼は必要ない、と」

「でも、将来の事を考えたら、太平洋上の島に着陸するとかですね……」

「アメリカが有翼型を嫌ったんだ。

 主翼の付け根の辺りにどうしても負荷がかかってしまう。

 スペースシャトル『コロンビア』の分解事故で、どうしても有翼機の宿命で避けられない欠点と分かった」

「ですが、リフティングボディのような、明確な付け根のないような設計にするとか、手はありますよね?」

「おいおい、君まで政治家先生たちと同じような事を言わんでくれよ。

 それはいつ完成するんだい?

 今回の宇宙飛行計画の骨子は、本音は貿易黒字削減の為の生贄なのだが、

 アメリカのデルタ、日本のH-2A、欧州ESAのアリアン等、各国主力のロケットの直径4~5メートルで、

 共通に使える安上がりで安全な宇宙飛行、なんだ。

 リフティングボディとか、フェアリングが特注になるようなのは問題外だ。

 そして、来年か再来年、今の総理の任期中の打ち上げスケジュールになっている」

「面倒っすね」

「面倒だよ。

 このマネジメントを全部私に丸投げされてるんだ。

 私としては……」

「秋山さんとしては?」

「出来るだけ単純化した上で、それなら分かる人に放り投げて、管理だけに徹したい……」

「はあ……」

「管理だけでも大変なんだって!

 全体のスケジュール把握して、遅れを取り戻して、場合によっては遅れの原因を説明して時間調整して。

 ああ~、管理職なんてなるもんじゃないなあ」


部下は思った。

この人、そういうのが面倒で小所帯の有人宇宙船開発計画部門に行ったって言ってた。

いきなり去年というか数ヶ月前に、開発計画が飛行計画に変わり、予算も人もいきなり増えた。

とりあえず、やりたかった事だから頑張ってるけど、イライラはしてるんだろうなあ。


俄管理職の秋山は、日本史で言うところの「位打ち」に遭ってるようなものだ、そう思っていた。

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