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料亭政治みたいなのを味わってみた

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカとの貿易で黒字を減らす為に始められた有人宇宙飛行だったが、今のところ失敗も無く上手くいっている。

「いつか独自で有人宇宙飛行する時が来たら」という、if it were(~だったらいいなあ、という妄想)だったいくつかの計画が実現し、取りたいデータも取れた。

国民も久々に盛り上がっている。

予算に対する決算でも、多少赤字になったが、予定以上に宇宙ステーション構想が進行している為であって、野党以外は文句を言わない。

野党はあれこれ絡めて文句を言うので、焦点が宇宙計画には合っていなく、問題視されない。

そんな中、財務大臣から秋山と彼の上長に「今晩予定空けといて」という伝言が有った。

要は「会いたい」って事だ。


秋山と上長は料亭ってとこに入る。

上長は経験があるようだったが、秋山は初めてだった。

秋山は技術系官僚としては脂が乗っているが、政治家や経営者とかの世界だとまだ若造と言われる年齢で、料亭とかは使う用事は無い。


「おう、よく来たな」

財務大臣がネクタイを緩めて、先に飲んでいた。

「遅れて申し訳ありません」

「いや、俺の方が先に来て、先に一杯 ()ってたんだ。

 気にすんない」

相変わらずべらんめえ口調だ。


酒を大臣自ら注いでくれる。

「秋山君はイケる方か?」

「あまり飲みません」

「ロシアじゃ大活躍だったって聞くんだが?」

「あれは、無理やりにでも飲まないと生きていけない世界です」

「そりゃあそうだわな」

ガッハッハと笑う。


「まずは有人宇宙飛行、宇宙ステーション滞在、おめでとう!」

「ありがとうございます」

「乾杯!」

「乾杯」

酒を飲む。

(え? これ美味しい)

それを察したように大臣が

「あるとこには美味い酒があり、それをきちんと温度管理していて、美味しく飲ませる店もあるのさ。

 ボトルキープとかは蒸留酒とかでやるのはいいが、日本酒の瓶をデーンと置いとくのは、俺ぁ感心しねえなあ」

と語る。


そして

「労いたくて呼んだんだけど、美味い酒飲ませて酔っちまう前に、先に難しい話をしとくわ」

と正座している膝の向きを変えて、居住まいを改めた。


「確かさ、東南アジア諸国やインド、アラブ諸国から色々引き合いが来てるよね」

「はい、来てます」

「話、半分に聞いておけよ」

「はい?」

「御世辞みたいなもんだからよ」

「はぁ……」

大臣は、最近いくつかの国の大使と会って、事情を聞いたと言う。

「言ってる事は正しいんだ。

 測地や気象衛星が欲しいってやつ。

 あと、宇宙基地が欲しいってのも合ってる。

 だけど、そこに置かれるのは日本(うち)のロケットじゃねえぞ」

「インド、ですか?」

「おう、流石だな。

 あっちの方が安いし、打ち上げ回数も多いし、何しろ近い。

 売り込みも日本より積極的だ。

 日本(うち)のイプシロンのモバイル制御……でいいんだよな?」

「はい、PCが2台あれば管制出来ます」

「あれも魅力的だが、何せ安いに越したことはない。

 日本を出汁に、インドに更にサービスさせる為のものだ」

「つまりは、我々は相見積もりの相手って事ですか?」

上長がピッタリな表現で、質問形で確認をする。

「そういう事だ。

 安売り競争になったら日本(うち)は手を引かざるを得んだろ。

 ただ、基地や研究所といった土木工事に関してはODAが出るし、日本(うち)が受注するかもしれん」


夢の無い話は続く。

「モバイル管制、あれを彼等の本音は軍事に利用したい」

「なんと!」

「いつどこでもミサイルを打ち上げ管制出来るってのは魅力的さ。

 だが、そのミサイルを向ける相手が問題なんだ。

 どこだと思う?」

「中国ですか?」

「……の国もあるが、多くは隣国だ。

 そんな近い相手にイプシロンはオーバースペックなんだ」

イプシロンロケット(全長26メートル、直径2.6メートル、三段式)はピースキーパーICBM(全長21.6メートル、直径2.34メートル、四段式)とほぼ同サイズである。

これより大きいのはタイタンやアトラスというICBMで、ピースキーパーも含めて全部退役している。

北朝鮮の火星15が全長22.5メートル、直径2.4メートルで近いサイズだ。

要は大きいし、大陸間弾道して撃つ敵国はいないし、イプシロンロケットは大気圏超えて宇宙を目指すものだから軍事転用するとなると改良の時間を必要とする。

それを開発した日本が法律の制約でやらないとなると、

「日本にはこんな技術がありますよ」

というのを出汁に、実際にミサイルを売ってくれる国に掛け合う事になる。

いや、さらには「そう言っている」という事を漏洩(リーク)して、相手国にプレッシャーをかけられたらそれで良い。

実際に軍事的に対立し、すわ戦争!という状態ではない。

起きても国境紛争の小競り合い程度で、ミサイルを飛ばす必要等無い。

だが「やれる」という潜在能力(ポテンシャル)を示せば、それだけで妥協を引き出せる。


「とまあ、夢も色気も無え話だ。

 そんで日本(うち)としては、軍事的に張り合う種を売るより、根本的に問題解決させる方に動くよ。

 その方があんたたちにも良いだろ」

確かに、自分たちのロケットを軍事的な道具にされたくは無い。

「平和ボケの学問馬鹿」と呼ばれようが、宇宙開発やってる人間はそう思う。


「まあ、それでもあっちの大学から来てる奴らは真剣だから、そいつらには今言った事は黙って、色々教えてやってくれ。

 いつか奴らも、軍事とか外交駆け引きとか無しで、純粋に技術だけで宇宙開発を出来るようになるかもしれん。

 その日を夢見ようや」

「…………ですね」

「まあ、我々としても教育する、教育用の衛星打ち上げに協力するとかは、望むとこです」

「うんうん、細けえ思惑とかはこっちに任せてさ、あんたらはあんたらの仕事してくんねえ。

 あ、そうなると夢みてえな予算はつけられねえから、そこは我慢な」

「……低予算でやるのは慣れてますよ。

 今回の案件が異常だったんです」

上長が答えると

「そう言ってくれると、嬉しいんだか、申し訳無えんだか……」

と大臣は返した。


「よし、そういう訳だから、仕事は多少減っただろ。

 さ、飲んでくれ、食ってくれ。

 今日はちゃんとした労いの宴だからな。

 足崩して、くつろいでさ!」

政治家相手にそうも出来ないが、まあ、何となくは有難かった。


そして次の日、今度は総理から

「今晩予定空けといて」という伝言が入った……。

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