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立つ「こうのとり」跡を濁さず

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙飛行は、極論を言うと極限環境での人体実験でもある。

微小重力の場に長時間人間を置いておけばどうなるか、衰えが出るとしてもどうすればよりそれを減少させられるか、人間が生活する上で閉鎖空間はどう変化し、その中の人間にどのような影響を与えるか。

将来的に他の天体に移動し、そこで何らかの産業活動をするとしても、現在はその準備段階に過ぎない。

なにせ、月以外には行った経験もなく、火星が現在の技術でギリギリの惑星であろう。

そして手段としては慣性航行しかなく、長時間かかり、かつ往復も時期が限られる。

だから長時間宇宙で生活する方法を、生身の人間共々実験しているのだ。




初の日本独自宇宙ステーション「こうのとり改」への滞在スケジュールは5日であった。

今日は4日目である。

到着して、翌日に谷元飛行士が宇宙酔いでダウンするというハプニングは有ったものの、その後は順調にスケジュールをこなし、預かった他国の人工衛星も放出し、後は帰還となった。

帰る時は、成果物から汚物まで持ち帰る必要がある。

トイレも、汚物入れの袋が個人別、日付別に装填されている。

日付は自動で切り替わるが、トイレに入る際はIDカードで個人を識別してからドアを開け、その時にその人のその日分の袋がセットされる。

こうして内容物の状態や量を調べるようにして、消化器の状態を知るのだ。

これに加えて、2日目の吐き戻しの掃除分も、掃除機のパックから外して持ち帰る。

掃除機のノズルは清掃し、消毒しておく。

今回は実験という程の実験はしていないが、汚物袋を触ったり、掃除機を消毒した手袋も持ち帰る。

とにかく、人間不在時に菌が増殖しないようにしなければならない。


「こうのとり改」は無補給で2人を30日分生活させられる。

今回は5日分の酸素と食糧と水を消費した。

この数値は地上からモニターされているが、宇宙でもチェックをする。

そして水漏れ、酸素漏れ、冷蔵庫の開けっ放しは無いかを確認する。

この後、少なくとも14号、15号、16号までは使用が決まっている為、戸締り元栓の確認をきちんとして、無駄に減らす事のないようにしてから次に引き継がせる。

ここではドッキング解除してから

「あ、元栓締めるの忘れた」

とか言って戻る事は難しい。

訓練機でもある為、特にしっかり習慣づける必要もある。

(地上でも元栓は締められるし、対話型コンピューターが船内の状態をチェックもしていて、問題があれば警告を出すが、自分でも行うのが訓練の意義である)


宇宙空間に暴露して操作していた機材も回収する。

今回は船内から設置可能なものばかりだったから楽だ。

だが、折角真空に長時間暴露させたものを、あえて回収時に船内の空気に触れさせないよう、慎重に箱詰めする必要がある。

一方でデータ自体は、既にコンピューターに取り込み、地上にも送信してある。

回収時に既に記録媒体が壊れていても、データは回収済みなので問題無い。

宇宙ステーション内のコンピューターに送信し、保存してあるデータは、地上がちゃんと受信した事を確認の後、削除する。

帰還に当たって、再度削除済みかどうかの確認も行う。


という訳で、帰り支度も任務の一環であり、丸一日とは言わないが、半日かけて作業を行った。

持ち帰るものを全て「ジェミニ改」の荷物室に積み込んだら、人間も「ジェミニ改」に移動する。

電気だけは太陽電池が故障しない限り得られ続けるので、ステーション内の気温を待機状態の低温に設定し、ハッチを閉めた。

地上からの確認でOKが出てから、ドッキングを解除する。

家を出て自動車ですぐに出発!といった具合にはいかないのが宇宙なので、ドッキングを解除した後は、衝突しないよう相対速度ではゆっくり(実際には双方とも秒速8km以上で飛んでいる)離れていく。

「ジェミニ改」が低高度になり、自然と宇宙ステーションを追い越していく。

このまますぐに大気圏再突入ではない。

5日程放置していた宇宙船に異常が無いか、この後地球を何周もしながら確認する。

大気圏再突入はやり直しが効かないので、念入りに、念入りに、さらに念入りに確認する。

そしてここもOKが出たなら、まず機械船部分を切り離す。

これでもう、居住モジュールだけが頼りである。

そして宇宙船を反転させ、大気圏再突入用耐熱シールドを前方に向ける。

飛行士たちは背中から落ちていく感じになる。

そして宇宙船先端のドッキングポート部を切り離す。

ここを切り離す事で、パラシュートが開くようになる。

切り離した機械船もドッキングポートも、帰還モジュールの後で衝突しないように大気圏に突入して燃え尽きる事になる。


そしてついに大気圏再突入。

宇宙船の周囲を炎が包む。

この時に重心がずれていると、真っ直ぐ進まず、ズレて着水予定から外れるか、もっと悪ければ傾き過ぎて居住空間も燃える、或いは大気に弾かれて宇宙空間に再び放り投げられてしまう。

貨物室に積んだ、お持ち帰り品はしっかり所定の場所に固定しておく。


空気が次第に濃くなっていく。

その高度でパラシュートが開き、宇宙船は一気に減速する。

2人の飛行士は、ガクンというパラシュートが開いた事による衝撃に安堵の表情を浮かべた。

もしもパラシュートが開かなかった場合は、一定の高度になるまでに前面のハッチを吹き飛ばし、続いて座席強制排除(ベイルアウト)の態勢に入る事になる。

今回、無事にパラシュートが開いた為、生身で帰還する座席強制排除(ベイルアウト)にならず、ホッとした。


現在は、大気圏再突入中でも、プラズマの影響を受けない上方向にある通信衛星を使って、地上管制センターとの交信は可能である。

地上管制センターも、「ジェミニ改」帰還モジュールからの位置情報を逐一受信していた。

どうやら、予定海域ど真ん中に着水出来る。

その情報を、海上自衛隊輸送艦「くにさき」に送信した。


任務が多い割に人的資源(リソース)不足の海上自衛隊だが、どうにか平甲板型のヘリコプター運用艦艇を融通して貰う事が出来た。

その「くにさき」から回収用ヘリコプターが発艦した。

着水した「ジェミニ改」は、周囲に沈下防止用のバルーンを拡げ、位置を知らせる強信号(ビーコン)を出す。

これを頼りにヘリコプターが来て、宇宙飛行士をまず機内に引き上げ、そして宇宙船を回収用ロープに結び付けて運搬する。


こうして宇宙ステーションを使ったミッションも終了した。

谷元飛行士とライナー飛行士の宇宙飛行(フライト)はここで終了(ミッション・コンプリート)

そして、裏方の仕事が始まる……。

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