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「空飛ぶカプセルホテル」の住み心地

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

最近のカプセルホテルは随分と過ごしやすい。

両手を伸ばしてぶつからないくらいには広く、内装も随分オシャレになっている。

「空飛ぶカプセルホテル」とネタにされている「こうのとり改」は、内径4.2メートルだが、様々なモジュールが壁に設置されていて、最終的には横幅と高さ2.2メートル、奥行3メートル程になっている。

ドッキングポートから入ってすぐのとこに、トイレとシャワー室がある。

水物はなるべく機械から遠ざける為にこうなった。

壁面は、半回転させて利用する。

ベッドも、牢屋のベッドと同じだが、壁から引っ張り出す折りたたみ式である。

牢屋よりも酷いのは、寝る際に体を縛るベルトがついている事か。

だが、これが無いと寝ている人間は宙に浮き、どこかに体をぶつけてしまうかもしれない。


寝袋はベッドのところに一緒に入っている。

冷蔵庫は壁にドアがある為、観音開きで開ける。

円形の壁に合わせている為、中央部の奥行きが深い。

クローゼットもある。

中に入っているのは室内作業着と船外服だ。

船外活動は今回のミッションには入っていない。


宇宙ステーションの奥の方には、暴露部に搭載されている機器の操作卓(コンソール)と、暴露部のハッチを通って船外に出る為のエアロック、エアロックの空気を調整するパネルが、これは剝き出しの状態で設置されている。

エアロックを通っての船外作業だが、伸縮するアームに観測機器や実験資材を取り付ける作業もある。

だが、船外活動にせずとも、室内からの取り付け作業も可能である。

空気に晒す事が問題にならない機械ならば、アーム収納時の室内に入っている部分に設置して、後はアームを伸ばして宇宙に出せば良い。

今回はそういう装置ばかりを持って来た。

基本的にカメラや赤外線観測装置、射出器(ランチャー)に入った相乗り衛星(某アフリカの国と南米の国の大学で作られたもの)。

これらを取り付け、宇宙に露出させる。

後は船内のコンピュータに接続し、操作したり計測したりする。


室内にある内に、コンピュータとは接続しておく。

最近はWiFiだのBluetoothだのがあって、接続しやすい。

そんなチープな機器で良いのかって?

意外に侮れないものですよ。

今回のカメラは、実は市販品を保護ケースに入れたものでしかない。

宇宙でも普通に民生品が動くのが、アメリカも認める日本の面白さである。

望遠レンズを使って、日本上空に来たら撮影をする予定になっている。

データは地上に送信されているが、一応SDカードでも持ち帰る。

民生品のカメラと民生品のカードで、どこまで耐久出来るかの実験でもある。


壁から室内撮影用カメラ(常時モニターする管制官用のものではなく、テレビ撮影用のもの)と中継用操作卓(コンソール)を展開し、これから船内の実況中継に入る。

撮影はライナー飛行士が行う。

地上への中継の他、ディレクティングも中々大したものだ。


「こういうのはスペースシャトルでもISSでもよくあるよ」

との事。

つまり、アメリカ人飛行士は自撮り中継とかは慣れっこなのだ。

……無論、苦手な人もいるが。


谷元飛行士が2人しかいない空間で、ぎこちない笑顔で番組を始める。

棚から宇宙食を取り出す、飲料水を丸く水玉にして浮かべる、膝を曲げて浮かびながら回転する、もうどっかで見たようなものばかりだ。


「よし、リハーサルは終わりだ。

 録画を見て、今からダメ出しをするぞ」

ライナー飛行士、ノリノリである。

「リハーサルとか必要あるんですか?」

「練習で出来ない事は本番でも出来ない。

 宇宙飛行士の訓練で教わらなかったか?」

「ああ、ここでもそれっすか……」

 日本上空を通るまで、まだまだ時間は有るのだった。




地上の管制センターにいる秋山と小野は、ひとまず肩をなで下ろした。

忙しいようだが、まだ問題は出ていないようだ。

日米の飛行士のコンビネーションも問題無く、運用試験は順調である。

谷元飛行士はずっと食欲が無いと言っていたのが不安ではあるが、それは

「よくある事」

だそうだ。

人間、2、3日食べなくても死なない。

ただ、栄養剤は飲めってのがアメリカからの指示だった。


そして時が来る。

JAXAの広報ルームに集められた小学生、総理官邸、それらと宇宙を結ぶ中継が始まった。

谷元飛行士は、ぎこちないながらも、

「リハーサルの時と違って、レスポンスが有るから、反応が自然だった」by ライナー飛行士

といった感じで、日本からの電波が送受信出来る間に中継を行った。

受け答えも問題が無い。

多少品の無い発言もあるが、最初にジェミニ改で宇宙に行った山口飛行士や尾方飛行士との違いは、率直に話すとこである。

山口飛行士や尾方飛行士は、余りに真面目で業務報告に徹する為、こういう中継には向いていない。


小学生から

「今日、何食べましたか?」

と聞かれ

「具合が悪くて、何も食べてないんですよ」

と答えると

「体を壊すので、きちんと食べて下さい」

と返された。

失笑しながらいると、カメラマンのライナー飛行士が宇宙食を出して来る。

「じゃあ、おじさん食べるからね!」

とサービス満点な中継をした。


その後、総理から

「顔色良くないね、宇宙酔い?」

と聞かれるも

「宇宙酔いでは無いですね。

 何と言うか、むくんでる感じ。

 胃もガスっ腹というか、ちょっと食欲無いんですよ」

と返答。

「無理はしない方が良いが、それでも食事はしっかり摂った方が良いよ」

と言われ、また失笑しながら、ライナー飛行士の差し出す宇宙食を食べてみせる。


テレビでその様子も流れ、中々視聴率も良かったようだ。




そして、アラートは翌日来た。




「こちら『こうのとり改』、緊急事態」

「こちらつくば管制センター、状況を報告されよ」

「こちら『こうのとり改』、トイレが逆流した」

「…………、了解した。

 調査するからしばらく待っていて欲しい。

 汚物はB7収納庫の吸引式掃除機で吸い取っておくように」


しばらく調査…………


「こちらつくば、『こうのとり改』よろしいか?」

「こちら『こうのとり改』、どうぞ」

「空気吸引を動作させるセンサーが動いていない。

 念の為に聞くが、しっかり座って用を足したんだろうな?」

「用は足していない」

「????

 意味が分からない。

 汚物はタンクの中に有るようだが、トイレを開けた瞬間に逆流したのか?」

「違う、宇宙酔いで吐いたのだ」

「ゲロか?」

「ゲロだ。

 それが吸い込まれなかった」

「…………着座の代わりに、顔面を便器に押し当ててだな……」

「こちら『こうのとり改』、つくばへ送る。

 殺されてえか?」


かくして、宇宙酔いの時の吐き戻しをトイレに流す(吸い込ませる)場合の方法について、対策会議は始まった。

なお、実際の宇宙での吐き戻しは、ビニールパックの中に戻して蓋をしてました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無線定型文からの火の玉ストレートすぎる発言に思わず笑ってしまった いやまぁ、その方法を押し通してたら下船してからゲロ袋を担当管制官のデスクにブチ負けに行く案件ですけども
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