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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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勝手に国際案件に格上げされたから、しばらくしたら留学生とかの扱いも発生するんで、使えそうなのをアメリカに放牧した

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

JAXAもNASAも、同じ名前のをモデルにした似て非なる機関と思って下さい。

世の中、言うのは簡単でやるのは難しい。

中途採用でいい人材が採れる事はあるが、大量には中々採れない。

予算つけたんだから、それで教育しろと偉い人は言う。

……大学院出たてなんて、中々即戦力になんかならん!!


即戦力は仕事があればこそだ。

ところが今年すべき事は、どんな仕事が必要かの選定である。

だけど学生は先に採っておいて教育しておかないと、必要な時に役に立たない。

「仕事」が先か「仕事できる奴の確保」が先か……。


うだうだそんな事を考えている内に、総理がまた仕事の為の仕事を増やしてくれやがった。




総理は国会終了後、アフリカ諸国を訪問した。

そして

「衛星開発とかODAで支援しますよ。

 あと有人宇宙飛行計画がありましてね、一緒にやりませんか?

 支援ならしますよ!」

ということで、何ヶ国かの共同プロジェクトになってしまった。


「共同プロジェクトって、何するんですか?」

「一緒に宇宙飛行士の訓練して、一緒に実験して、一緒に帰って来ましょうっていうの」

「管制は?」

「アメリカか多分うち」

「あっちの国はお客さん」

「そう」

「何の必要があってそんな事を……」


理由はあった。

かつて為替相場に投資ファンドが攻撃を仕掛けて来た時に、日本政府は恐怖の「日銀砲」を使って撃退した。

その副産物で大量の「ドル」を貯め込んだ。

このドルを円にして国内で使うと、円高になってしまいかえって経済に悪影響である。

そこでドルをドルとしてどこかに投資する必要がある。

貯めておけって?

運営もしないで塩漬けにしとく程無駄な金はない。

貸し付けていたのだが、その利息とかでまた増えてしまった。

なので「まあ無駄遣いに見えるな」って案件にぶち込んだのだ。


無駄遣いに見える案件ではあるが、その無駄遣いにこそ意味がある。

有人宇宙船を作れる国はアメリカとロシアと中国(疑惑あり)しか無い。

アメリカから買えば貿易黒字の削減になるから、外交問題一個解決だ!

だが、宇宙産業はアメリカでも「要らないんじゃね?」と言われる事が多い。

NASAは必死になって「新しい居住可能な惑星を数百光年の彼方に見つけました!」とか「生物の起源となる物質を、火星からの隕石から見つけました!」と、予算を減らされない為の成果発表をする。

NASAの苦境の原因の一端は日本にもある。

低予算でたまに物凄い成功をする為、

「日本と同じ予算でやったらどうだ?」

と言われたりする。

そこで、国際案件にして「お金かかりますが、仕方ないですね、途中でやめないで続行して下さいよ」とする必要があった。

……有人宇宙飛行計画をうまい「犠牲の山羊」に出来たのに、これが中止になったら別な犠牲を探さないとならない。


さらに昨今の環境問題や自然災害の問題で、アフリカ諸国も宇宙からの観測が必要となる。

衛星からの観測で十分なのだが、科学を志す子供を増やす為にもシンボルが欲しい。

そこで宇宙飛行士だ!

となった。




考えるだけなら楽なんだよね……。

繰り返しになるが、この無駄遣いは円高誘発するから、国内には向けられない。

国内は相変わらずシビアなのだ。


責任者に祭り上げられた秋山は、勉強会をあちこちに立ち上げた。

実は一番楽なのが、独自宇宙ステーション開発部門だった。

既に使い回しが出来る宇宙船がある。

宇宙ステーション補給機「こうのとり」を改造するのだ。

ロケットも既存のものを使用可能。

あとは熱が籠らないように太陽電池をパネル式にして、生命維持装置を長時間使えるようにし、与圧室をもう少し人間用に改修する。

「言うのは簡単でやるのは難しい」

と「こうのとり」を作っている企業には文句を言われるだろう。

与圧室を伸ばしたりするだけで重心の位置が変わるし、積むべき荷物が無いと重量不足で振動を起こす。


それでもなお、どんな形にするか「ドッキングポート以外決まっていない」有人宇宙船よりはマシなのだ。



秋山は、新しく入った学生の中で、留学経験がある者を調べ、何人かまとめて呼び出した。

「君たちにはアメリカに行って貰う」

彼等は緊張した。

当然、有人宇宙飛行計画において、宇宙船に関係する仕事を与えられると悟ったからだ。

「えー、君はR社に顔を出して。

 君はB社、君はG社……」

「はあ? ここは航空会社ですよね?」

「そうだよ」

「行ってどうするんですか?」

「今挙げた会社は、日本の有人宇宙機の設計・開発をやってくれるっていう会社だから、

 行って責任者と顔を繋いどいて」

「では、どのような仕様となるかを詰めるんですね?」

「そんな権限は我々にはありません」

「では、開発の補助とか?」

「そんな難しい仕事はベテランに行かせます」

「じゃあ、何の為に行くんですか?」

「結構外国の企業って、計画だけでかいの出して来て、途中でダメでしたってのが多いんです。

 だから、計画出して来た時に、それを徹底的に調べて、翻訳してマニュアル書いて下さい。

 翻訳してる内に、これは構想こそ凄いけど無理だろう、とか分かるだろうし」

「つまり、僕たちは何をするんでしょう?」

「勉強」

「勉強?」

「企業に入った事もないペーペーにすぐ任せる仕事なんて有りません。

 航空開発会社に行って、仕様書の書き方、報告書の書き方、マニュアルの作り方等勉強して来て下さい」

「すみません、こんな言い方でなんですが……、我々は放牧されるのでしょうか?」

「うん、いい表現だ。全くその通り。放牧するからアメリカで勉強して下さい」

「せめてNASAとかジェット推進研究所とか……」

「あっちは研究積んでる上の者がいきます。

 つーか、アメリカの企業をナメないで下さいね」

「ナメてなんかいませんよ」

「マニュアル作るって、そこの棚に入ってるクリアファイルを想像したでしょう」

「いや、そんな事はないです。

 アメリカから何か取り寄せると、分厚い辞書みたいなのが来ますから。

 僕たちも大学院でそれくらいは勉強してますよ」

「分かった。だったらあの棚上から下まで埋まる量のマニュアルを書けるって事だね?」

「は? そんなに何を書くんですか?」

「自衛隊に研修にいきますか? 戦闘機のマニュアルってそんな感じで細かいとこまで書いてますよ。

 君たちの担当は有人宇宙船ですよ。

 すぐには修理出来なかったりするので、無線でどこがどうおかしいかとか判定して、無事に生かして帰すのです。

 それには相当数のケースを考えて、まとめるのです」


新卒の職員たちはうんざりした表情になった。

研究職として入った筈なのに、文章屋か……と。

そんな彼等の感情を無視して秋山は続ける。

「企業には企業の文化っていうか、言い回しだったり、書き方の癖がありますからね。

 一応アメリカはそういう個々の癖で、文章読む人が混乱しないよう心掛けていますが、細部に出る時があります。

 だから、中に入ってそういうのを見て来て下さい」

「質問」

小野が挙手をした。

「マニュアルを書くって事は、実際の運用時にその者が一番宇宙船に精通してる事になりますよね?

 つまり、実際に運用する段階では一番の担当になるのですか?」

「それはその通りだ。

 だけど、そうなる為には本人の能力も必要だよ。

 場合によってはマニュアルを読み下すだけの指導員で終わるかもしれないから」


夢の無い言葉をガンガン浴びせられる。

入所早々に、何か心が折れそう。

でも、花形のアメリカでの勤務は良い事かもしれない。


そう何とか自分に言い聞かせて彼等は承諾し、来月からの長期出向の準備を始めた。


秋山は思う。

「いや、アメリカは基本ホワイト企業だから、マニュアル書きとかデスマーチでやらせないよ。

 だからこそ問題なんだ。

 彼等は優秀なのを集めるから、それくらい『出来て当然』なんだ。

 だから、落ちこぼれずに頑張ってな……」


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