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国際化して良かった人、迷惑被った人

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

我の強い外国人が集まって、日本で打ち上げられる宇宙ステーションの仕様を決めさせているが、まあ中々決まらない。

彼等は出来るだけ日本の計画にただ乗りしたいのだ。

余り無理を言い過ぎても、日本は物理的に不可能がある。

そうなると「自分の国でやって」となるが、その下準備というか、本命とは違うとこから来ている為、自国に持ち帰りとなると「話を纏めて来られなかったのか!」と叱責される。

無難なとこに落とし込む事になるが、それと「その中で可能な限り自国の都合を優先させる」考えな為、揉める揉める。


その話とは別に、フランスのミュラ氏が秋山に話しかけて来た。

「フランスの広報センターを開きたいのだが」

こういうのは欧州勢は得意だねぇ。

どこで聞いていたのか

「ロシアの広報センターも用意して欲しい」

と要求して来た。


実はこの要求、秋山には有難い部分もあった。

何故なら、彼は総理だけでなく、他の政治家からも

「何か利権くれ!」

と陰に陽に迫られているからだ。

土木を必要とする施設建設、海に面している必要がある回収基地や積み出し港等は、限られた都道県しか対象とならない。

だが、広報センターならば全然地理的な制約を必要としない。

それに、都市部が基盤の政治家からしたら、フランスとかロシアとかの広報センターは

「割とオシャレ~!」

で、泥臭い土木事業よりも金は落ちないが票の足しに多少なる。

さっさと開設出来るから「成果」として強調もしやすいし、外交を志すならコネが作れる。

てなわけで、東京・神奈川・大阪・兵庫の方の政治家先生に打診してみた。

神奈川がフランス、兵庫がロシアで決まる。

東京は島嶼部に回収基地の方を頼むという事だった。


ロシアのバイコヌール宇宙基地は、北緯45度という「赤道に近い方が有利」とされる宇宙基地としては、例外的な高緯度にある。

ここから打ち上げられる衛星は、傾斜のついた軌道を公転する。

このバイコヌールからの宇宙船を管制し、かつこちらにも打ち上げ基地(予定)や回収基地(ロシア式は着陸なので陸地)を用意する為、日本でも同緯度の場所を選定する。

北海道しか無い。

ここへの選定だったが、ここは与党が少数なせいか

「要らない、原生林の方を大事にしろ」

と知事や野党議員たちから強烈に言われた。

秋山は次点で、かなり南になるが、青森に依頼を出す。

青森は2つ返事で受け容れた。

額も額だしねえ。

大湊の海上自衛隊も

「通常業務としては無理だが、緊急時は協力する」

と言ってくれたし、レーダー追跡や飛行管制のバックアップは米軍三沢基地が

「是非とも協力させてくれ」

と言って来た。

……そのサポート分、協力費を出すよう裏で取引があったようだが。


すると北海道勢から文句が来た。

秋山は

「要らないって言ったじゃないですか!

 原生林が大事なんでしょ!」

と返すが、あちらの政治家先生たちは

「そこはあれだ、三顧の礼というか、説得に来てくれないと困るじゃないか!

 それに、費用がこんなに出るって話をしたか?」

「経費について話はしましたが、はした金って言ってましたよね?」

「いやいや、原生林とかに手をつけるなら、その費用プラス環境維持の予算というかだね……」

「もう無理です!

 そんな腹芸要求されても、技術屋の自分には出来ない相談です!」

「でも、ロシアの何とか基地と同じ緯度じゃないとダメなんだろ?

 だったらもう少し予算を増やした上で説得に来たまえ。

 上手く道民を説得出来たら、認めてやらんでもない」

「同じ緯度なのは『そうであれば望ましい』であり、絶対的な条件じゃありません!

 もう決まった事なので。

 遅きに失しましたね!」

実は道民及びそちらで宇宙関係の事業をしている企業は期待していたようで、最初は

「青森の莫大な誘致接待によってそちらに行った」

とか悪い評判が立ったが、すぐに政治家の駆け引きの失敗と知れ渡り、彼等は批難される事になる。


一方のフランスは、ギアナ高地に打ち上げ基地を持つ。

赤道に近く、日本に同緯度である北緯5度の場所は無い。

なので、日本でフランス宇宙船の管制とかの声は上がらなかったが、意外なとこから声がかかった。

パラオ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ブルネイが

「必要なら是非、うちを利用してくれ!」

とアピールして来た。

無論、無償ではないが。

彼等はODAとして資金よりも、宇宙基地を作るなら自分たちも使えるようなものを作って貰い、そこから自前のロケットを打ち上げたいようだ。

「連中、衛星打ち上げロケットなんて持ってました?」

部下からの質問に秋山は

「うちのイプシロンが欲しいようだよ」

と答える。

JAXAのイプシロンロケットは、ノートPCが2台あれば発射管制が可能だ。

搭載量は小さいが

「静止軌道に置く気象衛星や地球観測衛星でなく、

 より陸地に近いところで観測するローカルな衛星が欲しいとの事だ。

 異常気象の事前検知や、災害後の速やかな測量に使いたい。

 だから長期運用も必要なく、3ヶ月もしたら運用終了で十分な衛星が欲しい、と」

という事で、日本としては援助もしやすい案件である。

秋山は裏の事情も察しているが、口には出さない。


(イプシロンの技術はICBMに転用可能。

 実際にはオーナースペックなのだが、出来る技術を持つのと持たないのでは、外交プレゼンスが違うからなあ)


様々な思惑が動く。

その裏で各種官僚や事務官が

「秋山君! 仕事増やさないで!!」

と文句を言って来る。

書類業務は大切なのだ。




……そして、秋山らがバタバタしている内に、インドは独自のコネクションから東京都に話をつけ、西葛西他のインド人の多く住む地域に、公民館への展示レベルでインド宇宙機構の広報センターをさっさとオープンさせていたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで参加国が増えると本編では見えない国主導の宇宙開発以外もにぎやかになってそう。 畑違いの分野から新規参入してきたり、ベンチャー企業が増えたりすれば経済効果も出てきて業界全体が大きくな…
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