外国人は主張が強い……
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
色々要求が多いのはフランス、CNESから派遣されたミュラ氏だけかと思っていた。
日本に派遣されているのは、各国の宇宙機構の二線級の部署の職員である。
一線級はアメリカに派遣されるか、本国の有人宇宙飛行セクションに残っている。
一から開発するより安上がりの既製品を使って宇宙飛行、それも訓練や雑事を行おうというのは、JAXAの秋山がそうだったが、有人宇宙飛行セクションから引き抜かれて少ない予算と人員でこなす新設部門に押し込まれたような者たちだった。
しかし、だからと言って派遣された職員も二線級の人材で無い事を思い知らされる。
ただでさえ外国人というのは自己主張が強い。
その上、部門が二線級で彼等の活躍次第で大きくなるも、解散するも決まるせいか、非常に押しが強くなって来ている。
「大統領が……」
と愚痴を零していたロシアのノヴィコフ氏も、いざ仕様について話すと
「ドッキングポートは1つでは足りない。
2つにすべきなのだ!
これは譲る事が出来ない!」
と強く押して来る。
ロシアの90センチ円形のドッキングポートは、日本の規格とは違う為、再加速して宇宙ステーションを持ち上げる為に、重心の軸上、後方に一個作ろうという構想であった。
だがそれに対しノヴィコフ氏は
「我が国には有人機の『ソユーズ』の他に、無人補給機の『プログレス』が有るのだ。
ドッキングポートが1つだと、『ソユーズ』が連結している時に『プログレス』が補給に行けないではないか」
と言うのだ。
フランスのミュラ氏もそれに乗る。
欧州宇宙機構の宇宙ステーション補給機ATVのドッキングポートはロシア式なのだ。
このATVは「プログレス」より多くの物資を補給出来る上に、再加速や燃料・酸素・水という液体の補給が可能である。
フランスは運用終了したこの機体を、日本の要望という形で、日本の注文で復活させたい。
数多く作れば1機当りの調達価格が下がるし、その安くなった輸送機の何機かを改造し、独自の宇宙ステーションにしたいのだ。
これは日本が、無人輸送機「こうのとり」が既に気密室が有る為、安く小型宇宙ステーション「こうのとり改」にした事と同じ発想である。
生産機数を増やすには、ロシアと1個のドッキングポートを奪い合うような状態でなく、複数のポートで共存する方が良い。
という訳で、ロシアとフランスがガンガン言って来る。
一方、普段からお喋りで口数の多いインドだが、
「『ジェミニ改』は3人乗りや4人乗りに改造出来ないか?」
「改造出来ないなら、それくらい乗り込める宇宙船新しく作れないか?」
「もっと宇宙ステーション広くして、我々を常駐出来ないか?」
と色々言って来る、既に決まって「それでいく」としたものを覆す事を……。
そうなるとロシアも黙ってはいない。
「軌道をもう少し傾けて欲しい。
我等のバイコヌールから打ち上げるのに、この軌道ではロスが多い」
「我々でも居住モジュールを打ち上げるから、それも接続出来ないか?」
とか言って来る。
色々な事を言われているが、これは例えるなら
日本家で改築する家に対し、
・ロシア「うち用の駐車場と車庫作れ」
・フランス「うちのモデルハウスとして相応しいようにしろ」
・インド「うちの遊びに行く部屋を寝泊まり可能にして立派にして、あと泊まれる人数増やして」
・アメリカ「それでまとまったら設計図は提出してね」
・カナダ「重機は貸すからね!」
と要求しているようなものだ。
正直、全部聞く必要は無い。
……のだが、
アメリカ「ロシアの要望には応えてやって、うちも関係するから」
総理「次の営業に関わるから、フランスの要望も聞いてやって」
外相「うるせえ隣国かわす為に、インドの面倒見るの頼むわ」
と注文がつけられている。
全部を満たすのは困難だから、減らそうとすると、彼等は口から泡を飛ばしながら議論を吹っ掛けてくる。
どうしても譲らない。
それでいて就業時間が終わると
「アキヤマー、ゴメンネー、大変デショー。
また飲みに行こうヨー」
とフレンドリーにたかってくる。
外国人ってのは自己主張が強いのは知っていたが、その中でも相手の都合を考えずに主張して来る三巨頭が「ロシア」「インド」「フランス」のようで、
「国際会議でも挨拶というより、演説、意見というより独演会が長いよ」(by総理)
との事だった。
とにかく、話が前に進まない。
たまたま廊下を通った小野が
「なんか喧嘩してたんですか?」
とか聞いて来た。
アメリカに放牧し、アメリカ人に囲まれて宇宙船の仕様決めやら書類起こしやらしていた小野から見ても、騒々しくて、怒鳴り合いになってるように聞こえるそうだ。
「アメリカはああじゃないよね?」
「アメリカは物事を決めようと動きますね。
見た感じ、連中は自分の主張押し付けるだけで、決める気は無いでしょ」
「いや、実際決める権限無いんで」
「じゃあ、なんで来てるんですか?」
「さあ?」
「いっそ、連中に決めさせたらどうですか?」
「我々の宇宙ステーションの仕様をか?
そりゃないだろ」
「いや、彼等の宇宙ステーションの仕様を」
「は?」
「自分なんか面倒臭いから、2パターン作ろうかと思いますね。
自分とこは自分とこで、相手のは相手に勝手に」
という訳で光明が見えた秋山は、上長経由で総理にも話を通す。
総理から3国の首脳に話をして貰える事になったので、思い切って言う。
「国際利用版の『中型ステーション・インターナショナル』は、別建ての計画にしました。
そんで、その仕様決めを貴方たちにやって貰います。
まあ、日本が出来る事、出来ない事あるので、出来る事はそこに資料にして置きました。
基本構想は、コアステーション1機に、モジュール4機が結合、前後にもドッキングポート。
『ジェミニ改』は前のポートにドッキングする。
それ以外は全部任せますんで、好きに決めて下さい。
一応議長も別な人来ますけど、彼は意見まとめるだけですから」
3人は顔を見合わせた。
「我々は外部の人間で、決めるのは日本じゃないですか?」
「そろそろ辞令が届くと思うけど、正式に出向となり、意見を反映させて良い立場に変わります。
貴方がたの国のトップは
『名誉な事だ、彼は優秀だから、きっと良い仕事をするよ』
と言っていたそうなので、期待してます」
なんか3人の『首脳動かすとか、それ禁じ手だろ』という視線が痛いが、シラネ。