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おフランス登場

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ヨーロッパには欧州宇宙機構(ESA:イーサ)という組織が存在する。

これは複数の国がまとまって宇宙開発を行っているものだ。

それとは別に、各国の宇宙機構も存在する。

フランス国立宇宙研究センター:CNESクネス

ドイツ航空宇宙センター:DLR

イギリス宇宙局:UKSA

イタリア宇宙機関:ASI

オランダ宇宙局:NSO

といった機構は、ESAとはまた別に活動していたりする。

例えば日本の小惑星探査計画に相乗りしたのは、ESAではなくCNESとDLRが共同開発した観測機だった。

この中で、フランスが日本の計画に参加したいと言って、人員を派遣して来た。

また1言語増える……と秋山は頭が痛くなっていた。




フランスはプライドの高い国である。

この国もこの国で、独自の有人宇宙飛行をしたいと思ってはいる。

しかし、アメリカの下についてはやりたくない。

欧州という枠ではアメリカと協力するのも問題無いが、単独のフランスだとアメリカの風下に立つのを嫌う。


面倒臭い。


だが、対日本では妙に親しげになる。

今回のジェミニ改を使った「宇宙飛行士の訓練」及び「独自の宇宙ステーション使用」について、

「有益と見たので、日本の計画に参加したい。

 アメリカに直接言えって?

 まずは日本の計画で費用対効果や実際の運用を確認して、それからにしたい。

 ついては日本に、アメリカへの仲介をお願いしたい。

 ただ、フランス独自仕様も有るので、アメリカの規格そのままでは買わないとも伝えて欲しい」

要は

「日本からアメリカに上手く渡りをつけて欲しい」

という事だった。


それでいながら、欧州宇宙機構の一員としては、アメリカの月探査計画に参入を申し込み、欧州として宇宙飛行士の派遣や訓練もアメリカで行わせている。

「欧州って枠があるから、フランスだけ足並みを乱したくはないし、仕方ないね。

 でもフランス独自でもやりたいから、日本も協力してよ」

とも言っている。


しかし、宇宙飛行士の派遣計画は無いと言う。

無いのに訓練カリキュラムが欲しいと言い、英語版を渡すと、読める癖に「フランス語にしてくれないか?」とか言い出し、さらに「コスト面での資料も付けて欲しい」とか注文が増える。


秋山はフランスの真意が分からなかった。

何か、ただ口喧しいのが来て、資料だけ漁り、協力すると言いながら飛行士の派遣も何もする気が無いのを訝った。

こういう時は、人をこき使う者を逆に利用しようではないか!




官邸から秋山への呼び出しは何時でも出来るが、逆は難しい。

秋山は官邸の秘書官に連絡を入れた。

用件を聞かれ、フランス参加についての総理が知っている情報を伝えて欲しい、と言う。

こういう時に「フランスの意図が分かりません」と言ってはならない。

「自分で考えろ、総理はそんなに暇では無い!」と言われるのが関の山である。

故に総理しか持ってない情報を伝えて欲しいと先に言い、何故そんな情報を求めるのかを聞かれた時にも、事情を説明しつつ、「分からない」ではなく「対処法が変わって来る」というような言い回しにする。

「いつでも質問し給え」と言いつつ、聞けば「こんな事も分からんのか?」というようなブラック上司を相手にするような気遣いだ。

結果、翌日の昼食時に別件と合わせて小ミーティングする事に決まった。




「どうしてこうなったのか、手短に説明するね」

総理は知っている人間の前では前置きをしない。

テレビでは温厚そうに見せているが、しつこい不毛な質問に時々キレかかってるのが伝わって来るように、この人は割と気が短いのだ。

「日本は先日の成功をもって、正式にアメリカの宇宙産業の代理店となったのです」

総理はそう言うが

「分かりません!」

としか返しようが無かった。

総理は感情を害した風でも無く、淡々と

「世界には、アメリカの物を買いたいけど、国内感情で買えない国が有るんです。

 日本はそういう国用の窓口なんです」

それは何となく分かった。

フランスなんかはまだかわいい方で、世の中には政策で反米なのに、宇宙開発とかでは出来ればアメリカと組みたい国も有ったりする。

ロシアなんかは、堂々とお互い批判し合っているのに、宇宙開発関係では堂々と手を組んでいる。

こういう図々しさを全部の国が持っている訳ではない。

その為の仲介が日本だと言う。


「裏の事情は分かりました。

 ですがフランスはそれ以上に注文が多く、何を望んでいるのか情報が足りません。

 知っている事が……」

総理は手で制止し、説明を続けた。

「フランスはね、結局はアメリカ追随したいんだけど、自分で考えましたよって過程が一個欲しいんですよ。

 それで日本に来てあれこれ調べて、これなら良いんじゃないかと国民に説明した上で、改めてアメリカと契約する。

 ヨーロッパ諸国は、政治ではEU、通貨政策ではユーロってのが有って、独自の事はやりづらくなっている。

 欧州で皆でやってるのに、どうして自国でもやるんだ?ってのも出て来る。

 だから、日本でやってるのを見せて、国民に”いいなぁ~”って思わせて、コスト的にもこんなもんですよと説明があれば、向こうもやる気を出すわけですよ。

 あれこれ言って来るのは、そういうプレゼンテーション用の情報が欲しい、実験をして欲しい、映像を出して欲しいって事です」

秋山はしばらく考えてから聞いてみた。


「もしかして、フランスから来た彼って、戦力になりません?」

「どうしてそう思ったの?」

「何となく、要求して広報に励むだけで、技術的な事はこちらを見てるだけ、さっきの説明からそういう感じがしたんですが」

総理は親指を立てて

「正解!」

とだけ言って笑う。

そして

「フランスに都合の良い報告をする為に来たのであって、技術的な知識はあっても、基本手伝ってくれないから、そのつもりで」

とか言いやがった。


秋山は

(なんだよ、だったら技術官とか派遣要員とか言わないで欲しいな。

 分かりやすい肩書で来てくれたら良かったのに)

と心の中でぶつくさ言いながら、フランス人の立ち位置を理解した。


そして総理より報告。

「同じようなのが、今度東南アジアと西アジアの方からも来るから、よろしく相手してやってね!」


言うのは楽だよね~。

誰が対応する事になるんだか…………。

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