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役割分担いたしましょう

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ジェミニ改宇宙船は、2人乗りで最大28日の飛行が可能である。

1960年代のジェミニ宇宙船の1.5倍のサイズ(容積はその3乗)で、トイレ、シャワー室、倉庫も一応ある。

あくまでも一応。

スペースシャトル用の豪華なものではなく、閉所恐怖症ならパニックを起こすような狭い箱に、身体を屈めて入って湯を浴びたり、用を足したりする。

あくまでも訓練機だから、必要最低限の機能しか無い。

そこで、宇宙ステーションとドッキングし、本格的な訓練はそこでする事になった。

ジェミニ改は、宇宙ステーションまでの往復機としての使用となり、単独で長期使用はしない。


という事で、秋山は責任を分散する意味でも、自分の仕事を減らす必要からも、部門を分ける事にした。


■往復機部門

打ち上げ、帰還、回収、事故時の対応、将来の拡張計画を担当する。

製作したB社の事情に詳しい小野に、新人ながら実質的な責任者、「係長代行」を押し付けた。

「係長」には、コミュニケーションに難がある(と自分で言ってる)小野に代わって、上と交渉出来る者を充てた。


■宇宙ステーション部門

●運用チーム

宇宙ステーションの使用について担当し、必要な物資を補給するよう手配したり、部品交換スケジュールを立てたり、高度維持をしたりする。

稼働中の「ISSきぼう」及び「こうのとり」の運用部門から人を分けて貰った。

……ただでさえリソース不足なのに……と文句を言われながら。


●設計チーム

現在の「こうのとり改1号機」の次の、拡張版の仕様を決める。

言い出しっぺの朝倉研究員を、同じく「係長代行」として実質的にリーダーとした。

「係長」はやはり、他部門や上との折衝に長けた年長者とした。


●実験チーム

訓練機であるジェミニ改では本来する予定は無かったのだが、宇宙ステーションを運用するとなった為、「ついでに」独自実験もしようと言われた為、その選定作業や、選んだ実験に沿って機材を発注する部門である。

小野田研究員を「係長代行」とし、やはり年長者をその上に置いた。


■庶務部門

●宇宙基地選定チーム

利権絡みになる。

どこの地域に、管制センター、広報、訓練所、回収基地、そういったものを置くかを決める。

秋山が長だが、金銭絡みに巻き込まれたくなかった為、関係省庁に頼んで人を派遣して貰い、会議で決める事にした。


●書類管理チーム

・国内班:国会や地方議会、官邸用の書類を書く、保存する、コピーする等。

・海外班:翻訳担当。



注目を浴びた事で、臨時予算がついて、臨時職員として翻訳業者を雇える事となった。

ただ、機密管理、書類やPCの持ち出し/持ち込み管理等で、外注の場合はそれはそれで面倒臭い。

さらに、いくら「外国語出来ます」って言っても、専門用語が分からなかったら意味が無い。

知らない癖に「出来ます」と言って紛れ込んでくるのがいるから面倒。

試験官よろしく、使えない人は早めに見切って採用しない。


それも英語なら良い。

ロシア語をどうすりゃいいんだ??

インドはまだ英語で済むから問題無い。

これで某隣国だったら、もう1ヶ国語増えていた。

そう思うとゾッとする秋山である。




だが、ロシア語問題は意外に早く解決した。

ロシアから人員が派遣されて来たのだ。

その男、ミハエル・ノヴィコフ氏は

「ボクは外務省の通訳で、専門用語とか詳しくないんですヨ。

 なのに大統領から『行って来なさい』と言われました。

 大統領、使える人には仕事何個も何個も何個も入れるクセ有るシ……」

なんか、同じ苦労してる人だった。


インドからも人員が派遣されて来た。

滅茶苦茶早口で日本語も話す。

何でも大学院時代に日本留学していたそうで、日本の事はよく知っているとか。

問題は、どうしても話す時に平坦で母音強調のジャパングリッシュと、巻き舌早口のインド英語でお互いに「???」となる点である。

アメリカ人が通訳するのだから、面白い事になっている。


ロシア人のノヴィコフ氏は書類の確認、仕様の伝達、運用方針についての説明、ロシアが関係している他国の事情等、複数の件を全部1人でこなす事になっている。

インド人のシン氏は、「日本の宇宙機構で勉強して来なさい」と言われて来た為、割とのほほんとしている。


これで書類チームは何とか国際業務もこなせるだろう。




だが秋山の仕事は終わらない。

何てことはない、科学とか技術とは関係の無い仕事が残っていた。

上長に呼ばれて、

「チーム分けたんなら、キックオフのミーティングとパーティー開きましょうね」

と言われた。

今まで少ない人員(リソース)で一人一人に仕事をかぶせながら回して来た為、ついぞそんな事は頭になかった。

「会議室確保して、顔合わせのミーティングして、あとは……すみません、どうするんですか?」

「適当な宴会場探して、予約入れる。

 ただ、アメリカ人含めてロシア人にインド人といるから、宗教的に食べられない物ないか、確認しといてね。

 酒がダメな場合もあるから、そこは注意しよう。

 日本的な飲み会じゃ外国人に嫌がられるから、少しは気取ったとこにしようね。

 あと、なるべく身内同士で固まらないよう、幹事は気をつけてね」

「私が……幹事……なんですか?」

「そういうのも、上の役に就く人の仕事だよ。

 今まで他人に任せっきりにしてたけど、そろそろ君の番だからね。

 そういう仕事からも逃げちゃダメだよ」


秋山は、役割分担の為にかき集めた人全てに、都合や食べられないもの等を聞いて回り、会計に申請出して費用出して貰い、帰りはタクシーが必要な人用に配送とか手配するという、今まで避けて通って来た事に頭を悩ませる日々を送る事となった……。

チームが大きくなると、リーダーは仕事以外の面倒事もしなければならない……訳ですな。

やりたくない人はとことん嫌な仕事。

でも、向いてる人には天職。

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― 新着の感想 ―
[一言] 外国人だと住宅の世話やトラブルなく日常生活を送れるようにゴミ出しから病院や商店の買い物のルールの説明も。 妻子持ちだと家族が孤独で鬱にならないようにフォローもしなれけばと仕事は尽きない・・・…
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