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相乗りさせろだと?

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋山はロシアから帰国した。

結構色々な要求を出され、無理なものは無理と言って来た。

向こうもそれはある程度理解している。

つーか、流石は「宇宙旅行の父」ツィオルコフスキーの国だ。

最初に「何でもいいから宇宙計画でやりたい事出せ」と言って、SFに走った我々も驚くようなアイディアを出しまくって来た。

面白いのは、連中も菌を使った実験を考えていた事だ。

宇宙でも黒パンを、発酵の段階から作ってみたいそうだ。


細かい事は後で報告しよう、と秋山は一日休んでも胃のムカムカが取れない状態で事務室に入る。


『秋山サン! ロシアでは一人で(ウォッカ)飲んでるのは悪人なのです。

 何かを企んでいると思われるからです。

 お酒は皆と一緒に飲みましょう、乾杯(ダヴァーイ)

『秋山サン、ロシアではね、”お(ヴォーダ)”と”お(ヴォートカ)”って似た発音なんですよ。

 だから酒飲むも水飲むも一緒ネ、乾杯(ダヴァーイ)


そうやって会議終わる度に飲まされた後遺症が出ているのだ。


頭痛の中、さらに頭が痛くなる事が重なる。

「秋山さん、内線〇番に電話です」

取ってみると

「ミスタラアキヤマウィアルヒンディスペースオルガニゼイション」

と早口巻き舌の英語……。

この訛りといい、インドだな!

なんで直接この番号に電話して来るんだよ!!

そう思いつつも、ゆっくり喋って貰う。

が、気を抜くと次第に早口になるのがインド人の悪い癖。


要は、

・インドでも有人月探査計画を考えている

・有人宇宙飛行は自力で行いたい

・月飛行が予定より早くなりそうだから、相乗りさせて欲しい

・アメリカにも要求するが、日本にも頼みたい

・あとはロシアで出たように、宇宙ステーション使わせて欲しい

・宇宙ステーションで乗り換えて月まで一緒に行きたい

・その際、探査機も一緒に運びたい

というものだった。

それで、(きょくちょう・ぶちょう)(しょくいん・かかりちょうもすっ飛ばして、直接秋山に電話かけて来たのだった。

そして

「後でメールしておく」

(順番逆だろ!!)


朝イチで早口英語で会話し、しかも長電話で疲れた。

さて、ロシアの件の報告をまとめよう。

と、そこに官邸から呼び出しがかかる。

官邸と言えば小野の出番なのだが、彼はB社の宇宙船仕様書を持って、独自拡張型宇宙ステーションの仕様決めの方に駆り出されている。

まあ誘っても「嫌だ」の三音で断ってくるだろう。


官邸に顔を出すと、財務大臣も何故かそこに居た。

そして総理が困った表情で

「ロシア行お疲れ様でした。

 それで本題なんですが、隣国から月探査計画に相乗りさせろって言う依頼が来ましてね」

と切り出す。

(来たか!)

嫌な予感が当たって、頭がさらに痛い。

「ちょっとあの国とは問題を抱えているので、断ったんですが、何度も何度もしつこくてね」


秋山がロシアに行っている時に、勝手に向こうの報道官が

『我々は数年以内に日米の月飛行計画に共同参画して、月に我が国民を送り込む』

とテレビで発表したのだと言う。

日本は

「そんな事は言っていない、初めて聞いた」

と否定するも、

「一度発表したのだから、我が国の感情を理解すべきである」

という高飛車発言から

「友好を回復する為に、どうか参加させていただきたい」

と下手に出て来たりと、何かと面倒だった。

日本のマスコミにも

”近隣諸国との友好の為なら、安いものではないか”

と、つい先日

”宇宙計画、回収効率の低い投資、それくらいなら福祉に”

と刷った同じ輪転機でそう論じて来た。


「そこでね、友達のインドの首相に話してみたら、あちらにも月探査計画があるようで、是非協力したいって言ってましてね。

 君が責任者と言ったら、是非話したいと。

 ロシアに行ってると言ったら、帰って来たら連絡するって言ってました」

ああ、なるほど、またアンタですか!

帰国してすぐに直通電話来ましたよ。

(聞けば、帰国すぐで休んだ日にも電話が来ていたようだ)


「ああ、もう電話来ましたよ」

と答えたら、総理も「早いねえ」と苦笑い。

そこに財務大臣が口を開いた。


「インドの方は共同計画だし、ある程度自分でも準備する、協力費は払うって言ってんだ。

 隣の国は、早い話、ただで乗せていけ、自分たちの技術が貢献した事にしろってんだ。

 だから、隣の国のは断ったが、その理由としてインドの方が先に話が来ていたって事にした。

 済まんが、よろしく頼むよ。

 インド断ったら、隣国の方を断るいい口実無くなるからさ」

余計な仕事を潰すのに、余計な仕事をもってするって、一体どういう事だろう……。

文句はあるが、厄介なモノを堰き止めている事には感謝するしかない。

インドの件は、受諾で話を進める事になった。


帰省した秋山に、今度は

「内線×番に、また国際電話が来てます。

 30分置きにずっとです」

と言われる。

「インドから?」

「違いますね、癖のある日本語でしたが……」

ピーンと来た秋山は、

「それ、総理案件だから、この電話番号に転送して!!」

と頼んだ。

面倒事はあっちで食い止めて欲しい。

そして、今後自分宛ての電話は取り次がないように頼んだ。


そして、拡張宇宙ステーションの方のミーティングに出席する。

ロシアに行っている間に、案は大分煮詰まったと言っていたが、

(すまん……)

秋山は心の中で先に謝り、ミーティングの冒頭でも

「みんな、すまん……」

と謝った。


訝しげに秋山を見るメンバーたちだが、何となく事情が呑み込め始めたようだ。

総理官邸帰りに「すまん」とか言い出した時は、無理難題押し付けられたんだろうと予測がつく。

かくして、「月探査計画」と「拡張宇宙ステーション計画」は統合され、月探査船への乗り換え、ロシア規格の宇宙船との結合、インドモジュールも優先結合と説明した。

ドッキングポート、5つじゃ足りやしない。


嬉しい話としては、ロシアもインドも資金は出す事と、ロシアが

「アンガラロケット使ってもいいよ。

 なんだったらエネルギア使って!

 久々にあれ打ち上げたいから、エネルギア! エネルギア!」

とペイロードの大きいロケット使用の目途が立った事である。


……いや、かえって面倒事だったかもしれない。

エネルギアとは、ソ連製スペースシャトル「ブラン」打ち上げに使われた大型ロケットで、

現在使い道が全くなく、計画中止になったロケットです。

月軌道に最大32トン、低軌道なら最大100トンの物資を打ち上げられます。

中止になったとは言え、復活するなら向こうの技術者は嬉しいだろうなあ。


アンガラは次世代のロシア最大ペイロードロケット。

アンガラ A5で低軌道に24.5トン、構想中のアンガラ A7Vだと40.5トンを運ぶ。

(H2Bは低軌道に19トン運べるが、問題は打ち上げ可能な期間に制限がある事。漁業権の関係とかで)

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