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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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あんな予算案が本当に通ったなら、それはそれでやる事が増えて大変なのね

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

JAXAもNASAも、同じ名前のをモデルにした似て非なる機関と思って下さい。

JAXAの有人宇宙技術部門で、担当の秋山は頭を抱えていた。

「なんであの予算で通ったんだよ………」




国会にて。

ぶっちゃけ野党の反対は全部無視でも予算案は通る。

それだと「国会軽視だ!」と言われるから、会期末まで審議はするが。

怖いのは、同じ与党内の議論だった。


しかし、今回最も怖い「国産派」がいないに等しかった。

農作物輸入拡大! ⇒米を守れ! 輸入反対!

牛肉輸入拡大! ⇒狂牛病検査だ! 国産牛を守れ!

関税の緩和 ⇒国内産業に影響が! 町工場を守れ!

戦闘機の全面輸入 ⇒出来れば国産で さもなければライセンス生産を


有人宇宙飛行船の輸入 ⇒あ、いーんじゃない?


…重要度からして扱いが悪かった。

2人程「可能ならば国産でやった方が、今後の技術獲得に良いのでは」

と意見を出したが、JAXAの統一見解を逆用された

「まだ造れないそうです。もっと基礎研究が必要なようです」


比較的強い反対は、額と必要度合いからのものだった。

「JAXAでは有人計画は元々入ってませんな。必要なんですか?」

「国際宇宙ステーションに行ける有人機がロシアのソユーズしか無いんです。

 アメリカは同盟各国に有人飛行計画を立てて貰い、

 どこからでも行けるようにして欲しいとのことです」

「アメリカ企業は民間有人宇宙船を完成させていますな。

 それに相乗りじゃダメなのかね?」

「アメリカの機体はアメリカ人が使う。

 日本の宇宙開発計画は、日本でやれた方が良いとのことです」

「じゃあ、やっぱり国産で……」

「出来ねーと言っております」

「それにしても額が莫大ですなあ」

「NASAに比べたら、雀の涙からダチョウの涙に変わったくらいの額です」

「いや、これはやはり額が多いよ。これだったら地域振興に……」

「最も大きい額は、新基地建造費です。

 そう言えば先生の地元、宇宙基地の誘致とかしてましたよね」

「協力させていただきましょう!」


額と必要度合いについての反対意見は、党内だけでなく野党からも出された。

もっと福祉に使え、と。

しかしこれには総理は勝算があった。

「かつて科学振興に必要な予算をバッサリカットした後で、

 我が国の小惑星探査機が成功して帰還すると、手のひらを返した政党がありました」

『暴言だー!』

『何を! 事実を言って何が悪い?』

「我が国は科学に使う予算が少な過ぎるのです。

 この額だって、国民1人当たりで割ったら、大した負担ではありませんよ」

『詭弁だ!』

『目的もなくバラマキやるよかマシだろ』

『何を!? 撤回しろ』

『分かった。目的も無くを撤回する。外国人の為にバラマク、だ!』


(乱闘、一時休会)


「新しい宇宙基地を造ることもあり、地域振興にも役立つものと考えます。

 地域に新しい産業が出来れば、野党の皆さんの求める地域活性化にも良いのでは」


議会における「有人宇宙関連審議」はこれだけで終わった。

野党がもっとマスコミ受けするスキャンダルの方に攻め手を変えたからである。


そして審議最終日に採決。

「審議が為されていない!」

「国会軽視だ!」

「内閣不信任だ!」

とシュプレヒコールを上げるも、宇宙関係予算は注目もされず、

あっさり他の予算と同じ日に通過した。






「どうしてあれが通ったんだ……」

財務、総務、人事揃って頭を抱えた。


「通ってしまった以上仕方無い!

 人を増やします。

 大学関係に求人の連絡を出さないと」

「基地用地買収もだ。

 総理は某先生の地元が名乗り上げてると言ったようだが、

 あんな北じゃISS軌道投入するのに燃料かかり過ぎるだろ!

 入札にかけよう」


宇宙ステーションに行く為のロケット打ち上げ場は南に作った方が有利なのだが、

何故か! 北の選挙区からばかり招待のコールが来ている……。


「予算は、使途を決められた増額だ!

 他の部門に回せない。

 だから、ミス無く上手く使うように!」


JAXA内がバタバタし始めた。

本来なら、新しいプロジェクトが動き出すのは喜ばしいことだった。

自分たちから言い出したのなら。

政治的な事情で決められた為、慌てている。


彼等とて、打診があった日から何もしていなかった訳ではない。

単に人が少ない、その中で色々プロジェクトが動いている、

ゆえに職員の容量(キャパ)超えの仕事になっていただけだった。

そして

「準備はしたけど、予算決まらないと動けない」

為、止まっていたのだった。




大学関係は大喜びだった。

研究職の就職先が拡大したのである。

それも「え?」って言う人数で。


理系の、大学や研究所に残れなかった学生は潰しが利かない。

修士から博士、ポスドクに上がれば上がる程、

一般企業は持て余す

専門機関はもっと若くて優秀なのが先に就職決めてしまう

となり、あとはどこかの大学の教員の空きを待っていたりする。


この物語の2人目の主人公・小野 (たつき)はそういうポスドクだった。

宇宙工学を専攻していたが、ロケットの噴射とか太陽電池とかそういう部門でなく、

もろに「有人宇宙飛行」「生命維持装置」についてだった為、

大型ロケットを生産している企業からは「ご縁が無かった」とされていた。

要は

「引き取り手のいない秀才」

だった。


小野は指導教官に呼ばれると、JAXAの「用途限定」求人を見せられ、即決した。

推薦書を書いてもらい、受験する事にした。

自分の研究テーマを纏め、発表用に整理し直し、

「君は発表内容よりも、早口で何でも言おうとするが為に、どこがメインか分からない

 プレゼンテーション能力の低さが問題だ」

という指摘から、何度も練習を繰り返した。


同様の学生、否、学者になり損ねた連中が喜び、願書を出した。

無論、現役の学生も負けていない。

理学部・工学部・理工学部の就職戦線は活況を呈した。

(農学部「けっ、うちにゃ関係ねーのかい」)

(理論物理&天文学「うちにも求人来てねーぞ! 一見如何にもなんだが」)


理系だけではない。

事務系業務も人手不足であり、大量に採用枠が出来た。

広報や肝心の宇宙飛行士も。

文系に体育会系にも雇用の枠が出来た。


宇宙飛行士の方は別枠として、総務と人事は1年かけて試験や面接を繰り返し、

組織として「有人宇宙セクション」を作り上げる事になる。

だが、出来上がるまで何もしない訳にはいかない。


「秋山君、君のとこで何とかしてね」

予算はともかく、足りない人員(リソース)でしばらくはやっていかないと…。


人手不足用件過剰業務(デスマーチ)がやって来た。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 無粋なツッコミですが、ISSの軌道傾斜角はロシアが参加したために高緯度向けになってて、51.6度もあります。 北緯52度は北海道大きく超えて樺太です…。 (軌道傾斜角と一致する緯度が最…
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