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アメリカ主導の月探査計画

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカ主導の有人宇宙飛行計画は、短期の間に何とか達成出来た。

秋山たち準備組は、これで運用組にバトンタッチし、元のお気楽部門になれる筈、だった。

そこに新案件がブッ込まれてしまった。

1個は後に書くが、今回書く案件は寝耳に水の話である。



秋山は上長と共に総理大臣に呼ばれる。

総理はご機嫌で

「いやあ、よくやってくれました。

 注目も集まりましたし、少年少女が科学に対し、きっと前向きに取り組むようになるでしょう」

と笑っていた。

(お褒めの言葉を貰っておしまいかな)

そう考えた秋山は、己の浅はかさを呪う。


総理は2人に椅子にかけるよう勧め、秘書から資料を受け取る。

「先日ですね、打ち上げの後でまたNASAの長官と会いましてね」

そこから経緯説明が始まった。


NASAでは再度有人月探査計画が動き出す。

それに日本も協力して欲しい、と言って来た。

お金の事ならば何とかなる。

飛行士の教育も、宇宙船の設計や打ち上げもアメリカが全面的に行う。

NASAの要求としては、バックアップとしての日本の働きに期待したい、という事だった。

ジェミニ改宇宙船は宇宙飛行士訓練用の機体として作成された。

そこで、宇宙飛行士の訓練を日本でも行って欲しい、という事だ。


秋山はここまで聞いて、質問する。

「訓練の内容は何でしょうか?」

総理は眼鏡をかけ、資料に目を通す。

「船外活動、低重力下での着陸船の操縦、ドッキング、その他とありますねえ」

資料を上長と秋山に手渡す。

「はあー、成る程、アメリカでも行う訓練を日本でもやって欲しいって事ですね。

 では、そのミッション用の機体の購入は?」

「当然、買います」

B社のボーナスが増える事だろう。

「では、運用チームの方に話を通し、月計画用の訓練スケジュールも組み込むように言っておきます」

これで済む筈だ、否、済まして欲しい……。

だが、無茶はやっぱり振られて飛んで来た。


「と同時にですね、我が国でも月に行く宇宙船を開発して下さい」

「は?」

「我が国でも月に行く宇宙船を開発して下さい」

「月まではアメリカの宇宙船で行くのでは?」

「秋山君、君は咸臨丸の太平洋横断の話は知っていますか?」

「はい、知っています」

「あれは日米条約の批准書をアメリカに届けるのが目的で、正使はアメリカのポーハタン号で渡米したのです。

 では咸臨丸は?

 万が一の事があったら、と副使として日本が派遣したのです」

「……つまり、その咸臨丸に相当する船を作れ、と」

「分かってくれましたか!」

分かりたくなかった……。


「残念ですが、我が国のロケットでは月まで行く宇宙船を打ち上げる事は出来ません」

事実から説明する。

月往復を行ったアポロ宇宙船は総重量30トンで、これに月着陸船の約17トンが加わる。

日本最大のロケットH2Bは、宇宙ステーションまで最大17トンの補給機と物資を送るのが精一杯だ。

開発中のH3ロケットにしても、そう大きくは変わらない。

アメリカのサターンVロケットやアレスVロケットは、いわば桁外れのロケットであり、そういうものを使わないと無理なのだ。


だが総理は曲者である。

それくらいは分かった上で言っている。


「日本独自の宇宙ステーションがありますよね。

 あれは何日生活出来ますか?」

「一回の補給で2人が最大約1ヶ月生活出来ます」

「それを改良しましょう」

「はい??」

「飛行士はジェミニ改で打ち上げられ、宇宙ステーションにドッキングし、同じサイズの月往復船に乗り換えて月まで行くのです」

「燃料や酸素は?」

「その都度打ち上げて、往復船に入れます」

「月着陸船は?」

「アメリカが作ったのを使います」

「では、毎回着陸船だけの打ち上げを行うのですか?」

「秋山君、咸臨丸は副使ですよ。

 緊急時じゃない限り、着陸船は使いません」

「となると、往復船と着陸船は何度も再利用し、飛行士を送るジェミニ改と燃料や酸素モジュールだけ、必要な度に打ち上げるという訳ですか?」

「分かってくれて嬉しいです」

今度こそ、本格的に分かりたくなかった秋山であった。


「アメリカとしてもですね、アポロ13号がもう一回起きるのを警戒してましてね。

 可能なら2隻体制にしたいそうなんですよ」

「2隻体制……。

 となると、万が一アメリカの船に支障が出た場合、アメリカの人員を救助して一緒に帰って来る必要がありますね」

「御名答!」

「となりますと、日本側は2人だとして、オリオン宇宙船は4人乗りですから、計6人分のスペースを確保しないとなりませんね」

「1人じゃ行けませんか?」

「いざという時は月着陸船を使うんですよね?

 多分、月で事故が起きた時に救助するとか」

「そう考えています」

「そうなると、着陸船を操縦する飛行士と、軌道上で待機する飛行士で最低2人はどうしても必要です」

「そうですね、君の言う通りです。

 そのようにして下さい」


総理としたら、ここまで仕様を自分が決めたのだから、後は何とかなるだろう、って意識である。

「これは本決まりですか?」

「議会はこれから通します」

「て事は?」

秋山は起こり得る悪夢を想像した。


「君には議会提出用の計画書、宇宙船の仕様書、月観測の意義についての資料、実現性について、概算予算、波及効果、その他諸々の資料を作り、準備委員会を発足して貰います」

そら来た!!!!


唯一の慰めは

「この前と違って、ジェミニ改の方でまだする事あるだろうし、今年度の話ではないから、急がないでいいからね。

 来年度以降になります。

 NASAの方から本決まりになったら言って来るので、その頃までに出来ていればいいよ」

と、急ぎ仕事ではないと言われた事くらいである。


……「NASAの方から言って来る」、それは何時なんだ??

来年度以降の何時か分からない、期日切られるよりさらにストレス溜まる命令を受けてしまった秋山である。

デスマーチからは解放されたが、それに近いものが手ぐすね引いて待っている様が脳裏に浮かんでいたのであった。

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