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日本の宇宙基地から日本のロケットで有人宇宙船が打ち上げられる日

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ついに10号、有人機が種子島から打ち上げられる日が来た。

来てしまった。

予定に入っていたとは言え、NASAの長官が来日して、打ち上げから回収までの2日間を見届けるそうだ。

と言うのも、アメリカ本土、ロシア・バイコヌール以外で有人機打ち上げ可能基地が増えるならば、運用が色々と柔軟になるから、成功を見届けた後に「日米相互宇宙基地利用協定」を締結する事になる、その為の滞在だそうだ。


また、総理大臣、文部科学大臣も来島し、打ち上げを観る。

NASAの長官とは鹿児島市内のホテルで会談し、一緒に打ち上げを観た後、総理一行は帰京する。

文部科学大臣が協定に署名する為に残る。


流石にこの大一番に、秋山や小野たちは管制センターに入りっぱなしで、雑事には関わっていない。

彼等は後で知らされたが、周りは大変だったそうだ。


種子島への交通は、大人数を想定していない。

計画初動の白けっぷりが嘘のように、急に盛り上がった事で、島内の宿泊施設、島への便はキャンセル待ち状態となった。

そう言う場合、打ち上げを遠方から見られる鹿児島県内に見物客が集まる。

こちらも宿泊施設は軒並み満室。

そこで公園や道端で

「ここをキャンプ地とする!」

とテント張るならまだしも、寝袋だけで野宿を始める者が多発し、鹿児島県警は大忙しとなった。

JAXAの広報部門も、過去最大のアクセスを想定し、サーバダウン、ネットワークのパンク、回線の遅延が起きないように対策していたが、本番前になりいよいよ緊張していた。

広報部門は他に、マスコミ取材の対応も仕事だ。

今回は記者、カメラマン、レポーターが今まで以上に多い。

種子島に向かったマスコミ連中は、何と言うか横柄に「取材を受ける以上、宿は用意して置いて貰いたい」とか言って来たが、この辺は予想通り、きちんと先んじて予約をしていた。

……あと少しで抑えていた部屋数をオーバーしそうで焦ったが。

だが、「設備が良くない」「近くに店が無い」とか文句言って来る。

繁華街じゃないので、そもそも有りません、等等懇切丁寧に対応したが、絶え間無さ過ぎてキレる一歩前まで来ていたそうだ。

なお、急遽取材入れて来た北海道の某テレビ局がギリギリ最後の部屋だったのだが、

「なんで俺たちは4人部屋なんだ?」

と文句を言って来たが、その宇宙ステーション輸送機と似た名前の局は4人部屋がお約束と聞いていたが?

広報は更に、一般からの問い合わせにも対応する。

打ち上げが早朝な為、最初の一周は日本上空を通過する様子が見える。

その見える場所や時間に方角等は新聞や天文系雑誌には掲載されているのだが、それでも直接問い合わせの電話をしてくる人がいる。

「ホームページを見て下さい」だけで済ませられず、これもきちんと説明しなければならない。



さて、そうこうしている内に打ち上げだ。

「10、9、8、7、6、5、4、3ゴゴゴゴゴ、2、1、0、1、2、3、4、5……」

そう言えば、アメリカと日本はカウントダウンの途中で点火し、ゼロと同時に打上(リストアップ)する。

ヨーロッパ宇宙機構は

「cinq、quatre、trois、deux、un、zero……シュボッココココゴゴゴゴ」

とカウントゼロ後に点火されて打ち上げられるから、日米式からしたら時差を感じる。

ロシアのソユーズは日米と同じカウント5では既に火が入っているタイプ。

中国の長征はヨーロッパと同じ、カウント0後にエンジンに火が入る方式。


(どうしてなんだろう?)

と秋山は、折角の打ち上げの時に無関係な事を考えていた。

なんか、今日はまだ書類業務をする日で、打ち上げって来月じゃなかった?

そんな感じのフワフワした感じである。


(いかんな、これでは……)

と、数日間外部から隔離されて、現実離れした自分を元に戻す。


そして夕方、無事に帰還してくれた。

管制スタッフが握手をあちこちでしている。

アメリカのスタッフもハグをしながら涙ぐんでいる。

計算尺とか使っていた爺さんたちからしたら、我々は直弟子のようなものらしい。

「この一からやっていく経験を継承していって欲しい」

……って、アメリカ人だが職人のような事を言って来ている。




一連の打ち上げから回収までが成功したなら、また外部との接触がやって来た。

夜20時よりマスコミ取材。

プレスルームに向かい、水色の作業着に着替える。

流石に今回は科学畑のベテラン記者が来たようで、質疑応答に遊びが無い。

今更な質問も無いし、芸能畑のようなずれた質問も無い。

「今後の計画についてお聞かせ下さい。

 今回の計画は日本独自の有人宇宙飛行計画の流れで出来たのではなく、

 アメリカからの要望が大きかったと聞きます。

 今後は国際宇宙ステーション計画の補助として、ドッキングや輸送を行うのでしょうか?」

いつも政府批判ではこじつけに近いいちゃもんを言って来る新聞社だ。

だがここは、科学部門は専門雑誌も出してる関係か、正統派である。


「補助ではなく、補完という形式になります。

 現在国際宇宙ステーションでの実験スケジュールは立て込んでいて、

 各国で自分の宇宙ステーションを用意し、出来る事はそちらでする、

 という事になります。

 先日先行して打ち上げた独自宇宙ステーション『こうのとり改』はその為のものです」

先程の記者が質問をする。

「それは国際宇宙ステーションの理念に反してはいないでしょうか?

 宇宙計画が高額化したから、アメリカ主導で宇宙ステーションを作り、国際利用しようという。

 なのにスケジュールに難が有るから各国で行えというのは、身勝手な要求ではないですか?」

これには想定回答を用意している。

「そうです。

 高額化している為、商業利用、現在は宿泊等を行っています。

 ですが、やはりそういう利用は想定外。

 本来の科学利用については国際宇宙ステーションで行いますが、宿泊等は自前の方が良いとの事です」

記者は再度質問する。

「それだけであれば、日本には少数しかそういう富豪はいない訳で、日本が率先して行う意味は無いでしょう?」

「先程の今後の計画に関する事です。

 国際宇宙ステーションでは行えない実験も出て来ました。

 例えばライフサイエンスに関するものですが、国際協力のものは極端に加熱されるものはダメ、発酵のような実験は出来ない、匂いの発生するものは審査が厳しいという制限があります。

 我が国のものは、NASAの基準に倣ってはいますが、制限は少し緩く、その辺りの実験も行う事が出来ます」

「分かりました。

 今後のスケジュールは主にライフサイエンス系の実験となりますね」

「そう思って貰って結構です」


秋山は内心で思った。

(ライフサイエンスという名の元に、納豆卵かけごはんを食べる実験なんて言ったら、酷い記事書かれて批判されるんだろうなあ……)

確かに「なったまご飯」はあるが、ちゃんとした生物分野の実験も抑えているから良しとしよう。

(なお、「なったまご飯チャーハンは作れるか?」という提案も出ている)



終わって寝る為に自室に戻ろうとし、ふと気になって広報に聞いてみた。

裁き切れなかった質問、問い合わせは無かったか?と。

苦笑いしながら、メモの束を渡された。


”どうして曇りの日に打ち上げた?

 見たかったのに、見えないではないか?”

知るか!

鹿児島と種子島は晴れてたんだ!!

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[良い点] 四人部屋wwww [気になる点] 藩士?
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