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意外とスケジュール的な事に関しては理解してくれた

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカから、最初の日本での打ち上げに同乗する宇宙飛行士4人が来日した。

本命とバックアップクルーである。

これから10号機と13号に乗り組む日本人飛行士とチームを組み、2人一組で最終訓練を行う。

本命が打ち上げに適さない場合、怪我や病気等だが、バックアップクルーにチームごと入れ替わる。

その為、如何に短時間のフライトであっても、チーム内意思の疎通でミスを犯さないようにするのだ。


アメリカ人飛行士たちは官邸に総理大臣を表敬訪問する。

その場に小野も呼ばれ、宇宙船について補足で意見を言う役となる。

総理はレクチャーを何回も受けているから、もう間違って変な事を言う心配は無いが、それでもそれこそ万が一のバックアップの為に呼ばれたのだ。


その席と、その後に官邸で開かれた昼食会の話を小野から聞いた秋山は、無茶振りが好きな総理の意外な面を知る。


総理は4人の飛行士たちと記念撮影した後、マスコミ抜きで会談した。

そして、ロシアのソユーズに乗った経験の有無を質問した。

現在アメリカの有人機はストップしている為、全員飛行士はソユーズで打ち上げられている。

全員の「有ります」という回答を聞くと、総理はロシアの国としてのバックアップについて質問した。

4人は顔を見合わせながら、サービスは無い、極めてビジネスライクだと返答した。

「君たちは、アメリカ以外の国での打ち上げについて不安は有りませんか?

 ロシアは何度も打ち上げ成功しているから良いかもしれませんが、我が国は有人は今回が初めてです。

 何か不安は有りませんか?

 我々に何か出来る事は有りませんか?」

と問う。

飛行士たちは気遣いに感謝した上で

「アメリカと日本の宇宙機構は、何回も打ち合わせをし、実地検証をし、不安を潰して来ました。

 だから不安は有りません。

 貴国は有人打ち上げは初めてですが、シミュレーションではもう千回打ち上げ、五百回以上失敗の経験も積み、今ではNASAのスタッフが作成したかなりの難問もクリアできるようになったと聞いています。

 日本を信用します」

(アメリカが作ったカリキュラムをこなしたんだから、信用もするよな)

とは小野の内心の毒吐き。


飛行士たちが辞した後、軽い食事となった。

カレーライスが出前で執務室に運ばれる。

「シミュレーションって、そんなに失敗させるもんなの?」

総理が小野に聞く。

君も食って行きなよ、と誘われた時点で小野は質問攻めに遭うのは予想したという。

「わざと失敗させるんですよ。

 NASAから来たスタッフが、失敗するケースを設定し、事前チェックでどれだけ見つけられるか、事故が起きてからの対応、事故調査について学んだそうです。

 既に大気圏再突入状態に入ってから、イレギュラーの宇宙塵スペースデブリがぶつかり、耐熱シールドにヒビが入った、なんて設定も有りました」

「それはどうなりました?」

「飛行士は全員死亡、ミッション失敗です」

「ふ〜む」

「以降、イレギュラーすら見つける監視網を作り、NASAの連中も驚いたそうです」

「そのスペースデブリって、どれくらいのサイズですか?」

「その時はネジ一個って設定でした。

 ただ、かなりの高速でレーダーの探知圏外から飛来したって事です」

「それ、どうやって防ぐの?」

「進路クリアにして大気圏再突入に入りますが、一度コースに乗ってしまえばもう軌道変更出来ません。

 だから進路クリアを判断する探知範囲を拡げたのです。

 アメリカの衛星を利用して」

「日本だけじゃ無理だったんですか?」

「海外や衛星軌道上に探知システムが有るなら可能ですが、今すぐは無理です。

 そこで、ハッキングに近い事をして、アメリカのデブリ探知網のデータを利用し、事故を起こし得るデブリを全部監視したそうです。

 2回目にイレギュラーデブリを設定して失敗させようとしたNASAのスタッフは、自国の監視網を使った進路クリアとなるデータ、つまり失敗の為のインプットは絶対にあり得ない不可能条件インポッシブルケースにされた為、そこでシミュレーションは中止。

 まさか同盟国相手にハッキングするとは、良い度胸している、と笑いながらアメリカの監視網のデータも無償でリンクさせてくれる事になりました」

(禁止したり制限したりしても、どの道ハッキングされると見たから、だったら最初から見せてやれ、って事だろうな)

これも小野の内心の毒である。


その後、政策スタッフの1人が

「今回の日米同乗が終わると、次からは日本人だけの運用になります。

 与党内から、無人の12号機のテスト飛行を止めて、スケジュールを繰り上げて、もう上がっている宇宙ステーションとのドッキングをして、実験したらどうかという意見が出ています」

 と報告した。

冗談じゃない、と小野が言う前に総理が

「ダメですね。

 必要な手順は飛ばせません。

 人間の命が掛かってるのですよ。

 『ついで』はまだしも、飛ばすのはダメです」

と言った。

そう言えばこの総理、ギリギリの線はついて来るし、ついでで色々やらせたがるし、仕事に空白を許さないが、必要な手順は飛ばさない。

話がポンポン進むから、独断専行に見えるが、部署間に話は通ってはいる。

『言ってる事は正しいんだが、誰がそれやるんだよ』

と目一杯担当者に負荷を掛けるスタイルではあるが……。

総理は「この時間は予備です」や「休憩時間です」を許さない。

「休養は必要不可欠な仕事で、その為の時間を確保したのがこのスケジュールです」

と言われ、納得すると、今度はそれを絶対に変更しない。


「だから、計画に追加はあっても、変更は無いっぽいですね」

小野の感想に秋山は今更ながらに

「そういう人なんですね。

 今回はそれで、スケジュール短縮させられずに済んだ、と」


何となく今後の話の持って行きようが分かったような気がした秋山であった。

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[一言] NASAから来たスタッフが、失敗するケースを設定し、事前チェックでどれだけ見つけられるか、事故が起きてからの対応、事故調査について学んだそうです⇒うらやましいです! 「休養は必要不可欠な仕事…
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