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天空のイタリアン

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

イタリアンの料理人の悩みの一つは「アルデンテ」というのを理解して貰えない事だ。

特にアメリカ人は、フニャフニャに茹で上がったパスタを好む。

アルデンテは「生煮え」「十分に茹で上がっていない」と言われる。

そんな中、日本に来たイタリアンの料理人は楽だ。

日本人はアルデンテを理解する。

腰のある蕎麦やうどんが好きだったりして、歯ごたえのあるパスタも好んでくれる。


「ただし、ナポリタンはしっかり茹で上がった柔らかいのに限る!」

「茹で置きの柔らかいのですよね」

「ソフト麵も良いなあ」

「チョト待って下さい!

 イタリアにはナポリタンというパスタ料理は有りマセーン!」

「嘘を言うな!

 ナポリターナというスパゲティが有るのを知っているぞ」

「どうしてそんなマイナーな料理を知っているんデスカ!?」

なお、ナポリのパスタと言えばプッタネスカであり、トマトを使っているとこだけ日本のと似ているナポリターナは、実は古典的なパスタであった。


「ナポリターナは生麺を使い、ニンニクやバジルを使った料理デス。

 あなた方のアレとは全然違いマース!」

「いいから、たまには作って!

 たまにはナポリタン食いたい、禁断症状が出るから。

 あと、ミートソースも」

「そのメニューもイタリアには有りマセーン!!」

ボロネーゼが最も近いだろう。


だが、最もアントーニオ氏を悩ませたのは、新潟出身の古関副船長が言った

「イタリアンっていう、イタリア料理じゃない麺料理、知ってる?」

だった。

パルマ生まれ、来日はこの宇宙料理人募集が初のアントーニオ氏が知っている筈もない。

「やっぱり知らないか……」

その正体は、パスタ風に調理されたソース焼きそばである。

新潟の御当地グルメである。

(そんな料理知らないデース)

他にもミラノ風ドリア、シシリアンライスも知らない。

和風パスタとして、たらこスパゲッティやバター醬油を使うパスタ等、未知の料理にも遭遇した。


だが、彼も日本で魔改造されたイタリア料理に驚かされてばかりではない。

ある日作ったスパゲッティは日本人の度胆を抜いた。

「スパゲッティ・ウィズ・ミートソース、カリオストロ風デース!」

「……なんでそのアニメ知ってるんですか?」

「イタリアでもあの怪盗は有名ですヨー」



イタリア料理は、日本で魔改造されるくらいに親しまれている。

アントーニオ氏がフレンチシェフのベルティエ氏よりも上なのは、ジェラートと珈琲(カッフェ)に関してであった。

そして「こうのす」には遠心分離コーヒーマシンがある。

アメリカが開発したISS用エスプレッソマシン「ISSPresso」も導入された。

カフェオレ一辺倒の第一次隊、コーヒーに拘りはなくどちらかと言うとお茶だった第二次隊に比べ、第三次隊はコーヒーに関しては極めて充実していた。


「必死に開発した遠心分離コーヒーマシンがフル活用されている!」

地上の開発班も感涙であった。


「ジェラートに空気を含ませる時は無重力の方が楽デス。

 型に入れて冷やし固める時は重力あった方が便利デス。

 この人工重力マシンは便利で重宝しマス!」

従来の遠心分離調理器は、そこに置いた器を回転させるものであった。

だが新型は、器そのものでなく、器を入れたレンジもしくは冷蔵庫を回転させる。

これによって、加速・停止の際の揺れを外部の箱が吸収して、中の器を守る。

この外部の箱は、加熱用と冷却用を取り換える事が出来た。

ベルティエ料理長、石田船務長ともに柔軟な発想の料理人だが、その2人が持て余した遠心分離調理器も使いやすくなったのだ。

鍋も蓋や取っ手が取り外せ、かつ圧力鍋としても利用出来る物に統一され、遠心分離調理器内に電磁加熱器を置く事で疑似重力下での沸騰も可能となった。


ゼンマイ式コーヒーミルを遠心分離調理器内に乗せ、コーヒー豆をガリガリ砕く。

そのコーヒー粉をフィルターをセットしたエスプレッソマシンごと遠心分離調理器に乗せ、重力(遠心力)を使ってじっくりと淹れて飲む。


「これでデミタスサイズしか許可されないのが寂しいなあ」

そう、ジェラートにせよ、コーヒーにせよ、糖分やカフェイン分を余計に摂取しないよう、嗜好品的料理には量の制限をかけていた。


過剰摂取しない物質もあれば、増やした方が良い栄養素もある。

宇宙ステーションは、大気に守られずに太陽光を浴びる。

紫外線が強いから、直射日光を避けている。

窓はあるがフィルターがかかっているし、ほとんどの空間はアルミニウム合金の壁で閉ざされていた。

その結果、地上より遥かに強烈な日光に晒される高度に居ながら、中の人は日照量不足となるのだ。

そこでビタミンDの補充が必要となる。

これまではサプリメントで済ませていたが、アントーニオ氏にはキノコ料理、魚料理を作って貰い、食品からビタミンDを摂取出来るようにして貰う。

漁師と一升瓶のノリで魚介類持ち込みを決めたのではない、一応。

魚介料理も得意なイタリアンのアントーニオ氏には期待がかかる。


そして、魚介とコーヒーが美味しい宇宙ステーションの話題は、他国をも動かす事になるのだった。

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