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上手くいき始めたら注目されるようになった

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカでの試験は全て上手くいった。

2人目の打ち上げも成功し、いよいよ日本で、日本製のロケットに載せての打ち上げとなる。

徐々に注目されて来たのは秋山らJAXA職員も実感していたが、いざ打ち上げ近しとなったら、某球技のワールドカップよろしく「にわか」宇宙飛行士マニアが大発生し始めた。

というのも、正式名称は後で総理が発表するのだが、現在のとこ「ジェミニ改」または「ジェミニ2」と呼ばれているこの宇宙船は、1960年代に使用されたジェミニ宇宙船の発展改良版である。

つまり、ジェミニ計画についてある程度知れば、この機体についてそこそこ語れるようになるのだ。

……航空分野では、大きさが変わる、細部のデザインが変わると、重心やら空気抵抗やらが一変し、

「全く別の機体」

となるのだが、そういう話を含めて色々語ってくる。

面白い事に、マスコミ関係者の方がその辺は不勉強なのだ。

趣味でやってるか、仕事でやってるかの違いだろうね。


そこでマスコミや動画配信者、一般記者対策が必要となって来る。

マスコミは本来科学関係用に準備が出来ていたのだが、宇宙飛行士となると「人間」が対象であり、芸能記者も取材に来るようになった。

特にLCCのパイロットから合格した橋田倫飛行士は、

「日本中の中年サラリーマンの星!」

「脱サラして宇宙へ!」

等と取り上げられている。

……彼も元々は、他の飛行士同様航空自衛隊でパイロットになり、退官後に民間機のパイロットとなったに過ぎないのだが、現役自衛官からではなく、企業でワンクッションあった事でマスコミが持て囃すようになった。


以前と違うのは、動画配信サービスの投稿主が多く取材に来る事だ。

時代のせいだね。

それは日本人に限らない。

こういう事が大好きなアメリカやヨーロッパからだけでなく、次の顧客と見込まれている東南アジアやインド、中東からも来る。


「絶対に邪険に扱わないように!」

とは総理官邸からの指示である。


「NASAやB社もそういう人よく来ますけど、ちゃんと対応してますよ。

 つーか、アメリカは軍隊でもそういう取材は慣れてましたね」

とはアメリカ帰りの小野の意見である。


小野は官邸や国会に出向く用事が増えた為、別な者が取材対応担当となる。

秋山は総責任者だから、おいそれと表には出せない。

そこで秋山の下で一から補佐していた小野田研究員が、プロジェクトサブリーダー(仮)という肩書になって対応する事になった。


そして混乱が生じる。

官邸や国会関係で名が出るのは「小野」研究員である。

JAXA内で対応するのが「小野田」PSLである。

苗字が似ていて、特に大手マスコミで記述ミスが連発した。

そしてお互いに「言った」「言ってない」という発言の主探しになる。

「もうちょっと違う苗字の職員に代えて貰えませんか?」

とお互い言って来たが、リソース不足なんで却下となった。


しばらくして、小野田はプロジェクトサブリーダーから、プロジェクトマネージャー補佐に正式に肩書が決まる。

計画の責任者はマネージャーで、その下にリーダーがいるのだが、小野田については特定のチーム、例えば宇宙飛行士の選抜チームや計画立案チームという特定のチームには所属せず、横断的に色々やっていた。

その中で多いのは書類業務なのだが、これは秋山がリーダーを兼ねている。

なので宙ぶらりんに「サブリーダー」という仮称にしていたが、誰かが

「プロジェクトリーダーより、マネージャーの補佐の方が上っぽいですよね」

と言った為、そのように決まった。


……のだが、最初の挨拶で

「アイドルにもいらっしゃいますが、今のところは『かっこ仮』です」

なんてツカミで言った為に、名前の紛らわしさからいつの間にか「かっこかり」さんと非公然に呼ばれるようになってしまった。

本人「言うんじゃなかった……」と後悔していたが、秋山は

「いいじゃないか、休日コンサートに行った事くらい、伝え聞いてるぞ」

と言われ、小野田は撃沈した。


一方、かっこ無しの小野の方は、日本に居る内は政治家づき合いが仕事になってしまった。

何気にこちらも、彼には苦痛なのだ。

同レベルの人間と専門用語を交えて話す分には彼は問題無く話せるし、ジョークも飛ばす。

アメリカでは、時間はかかったが、こういう感じになって来た。

しかし、素人並か、中途半端な知識があるくらいの政治家相手だと、辛い。

注目され始めた今、何とか一丁噛み出来ないか、乗り気になってる政治家が増えて来た。

地元に色々誘致したいが、それは既に先行された。

では、個人的に何か関係して得票に繋ぎたい。

社会人1年生の若造を買収しようとかそういうのは無いが、女性秘書を接触させたり、大学の先輩に当たる秘書(お互い顔は知らない)を使って来たり、色々と聞き出そうとして来る。

そして、そういう与党推進派に対し、何か買収されなかったか、根掘り葉掘り野党とマスコミが聞いて来る。

次第に「そうやって接近して来て、学術的に無関係な事で繋がりを持とうとされる」事自体が苦痛な人なんだと、少数は分かって来たようだが、顔を売ってナンボの商売の人と、他人の気持ちなんか関係なく「報道の自由」をかざす人には「え?なんで苦痛なの?」とまるで分からないようだった。


(放牧でいいから、アメリカに帰してくれぇぇぇ)

泣くような気持ちで思っているが、日本での打ち上げ、9号機(無人)、10号機(日米共同)そして11号機(日本人のみ)までは彼の手を離れない為、日本に居る必要がある。


忙しくなって来た2人を他所に、企画立案系のチームは次第に楽になって来た。

実運用チームに仕事をバトンタッチし、後は「まとめ」に入っているのだ。

実運用チームに仕事を渡すに際し、「初めて関わる人が読んでも、誤解無く、確実に一つのシナリオで計画を進められるように」徹底的に話を煮詰めた。

おかげで無人機の打ち上げチームから借りた人員も「これなら分かる」と問題無さげである。


次第に定時に帰宅できるようになり、家族と夕食を摂れる者も出て来た中、悪魔がボソリと呟き、仕事を増やしてくれやがりました。


その日、青い顔をしてJAXAに戻って来た小野が、秋山を訪ねる。

「どうしました?」

「総理より難題です」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………伺いましょう…………………………」

「凄い間が空きましたね。

 去年、宇宙ステーションでの実験計画まとめて出しましたよね?」

「出しました。

 OK貰いましたよ」

「覆りました」

「は???」

「総理が、『もっと見映えのする実験中心でいきましょう』と言って、突き返して来ました」

計画書が渡される。

あちこちに朱書で「地味」「追試の必要無し」「ISSに回す」「次回以降」等と書き加えられていた。

「どういう事でしょう?」

「注目度が上がった以上、もっと画になる実験にして欲しいとの事です。

 実用性については二の次で良いそうです。

 テレビを見ている子供たちが食いつくような、派手な実験が良いそうです。

 宇宙でロボット飛ばすとか、変形ロボット動かすとか……」


先年、助けて貰ってまとめた計画が今になって潰され、新しい計画を2ヶ月以内にまとめる事になった。

秋山は、中々定時に帰れない……。

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