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「訓練の時の方が苦しかった、本番は大した事なかった」というのがアメリカ式

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

湾岸戦争に従軍した兵士が言ったという:

”戦闘自体は大した事が無かった。

 訓練通りにこなせば良かっただけだから。

 訓練の時の方が苦しかったよ”


宇宙飛行の訓練も大詰めを迎えている。

宇宙に運ばれていって、研究をする「ミッション・スペシャリスト」じゃなく、宇宙船の操縦士(パイロット)である以上、訓練は厳しくなる。

特に今は、日本ではあまりノウハウの無い「非常脱出訓練」をしている。

座席射出(ベイルアウト)からパラシュートを使った脱出、着陸または着水、着水の場合は水中での逸早いパラシュート外しと、沈まないよう浮き具の展開。

個人の脱出でなく、カプセルを使ったロケットからの離脱と、その後の操作。

訓練中の山口飛行士と尾方飛行士(両方とも元航空自衛隊)が

「我々は空挺隊に転向させられたらしいな」

と言い合ったくらい、降下訓練は頻繁に行われた。


小野が驚いたのは、実物大のロケットを作り、予備機を載せた上で実際に爆発させて、非常時に仕様通り動くか確認していた事。

その時のデータを元に、事故から何秒以内の判断が必要かを求めていた事。

そして、また実物大のロケットと宇宙船の模型を使い、低いとこからの座席射出(ベイルアウト)と着地の訓練を何度も何度もしていた事。

とにかく、広い敷地を使い、実物大及び実際と同じ爆発を再現するというのは、その為だけの実験に予算を使うとうるさい日本よりアメリカの方が良い。

(火薬の爆発って、こんなに凄いんだ。

 特撮ヒーローやってた人たちって、この熱や爆風を背後から浴びていたんだなあ)

それは昔の話で、最近はCG処理をする為、火薬戦隊と言われたヒーローや、ショットガンと爆発が売りな警察ものや、異次元にある帝国を丸ごと亡ぼしたヒーローの最終回の大爆発等は、もうお目にかかれないようになった。


既に、高空からの降下訓練、高G下での訓練、低酸素状態での訓練等は済ませたようで、最後に実機に近いものを使った、現物を使った訓練となった。

書類・仕様専門の小野が、B社スタッフと共に呼ばれたのはその為で、例えば爆発時に熱膨張でハッチが開かないとかそういう仕様ミスが無いか確認させている。

幸い、どれも問題なく作動し、飛行士たちも「問題無かった」と証言した。




ついに全てのチェックが済んで、有人飛行を行う事となる。

小野は「長かった……」と思ったが、B社の人間は

「短過ぎて不安だ。

 まあ、きっちり作ったから大丈夫だ。

 それにしても、なんで君たちの国は、出来たらすぐに使おうって焦るんだい?」


日本は製作までに仕様をガチガチに決める。

ありとあらゆる不具合を、製作開始前に潰す。

そして固まった仕様から、1ミリの逸脱も許さずに製作する。

ここまでが長い分、作成後の研修は比較的短い。


アメリカは設計はかなり自由である。

大まかな仕様を伝えたら、その範囲内で製作をする。

出来た後に、製作に使用した部品から実機の耐久性まで、念入りに検査する。

その為、試作機と言えど10機近くを納入する。

壊したり、壊れる一歩手前と計算した事故想定で耐久試験したり、実運用に近い形で試したり、とする為、完成後に実際に運用されるまでが長い。


両方とも短い国もある。

大体の仕様を示したらすぐに製作、現場で運用しながらテストを行う。

10回に7~8回は成功するから、すぐに進んでいるように見えるが

「怖くて飛行士(アスロノート)は預けられん」

との事だ。


計画を統括している秋山から、テレビ電話が入る。

最初の飛行士は尾方飛行士に決まった。

その事について、山口飛行士への慰めと尾方飛行士への激励の為だった。


「どうしてそういう決定になったの?」

「7号機、つまり次の機体はアメリカ人が船長を務める。

 8号機で日本人が船長を務める為、そこで判断が速い方か、諦めない方か議論になったそうです。

 そして、諦めない方を船長にという事で、山口さんが8号機に回りました」

「そういう理由なのか。

 では尾方飛行士、無事に帰って来て欲しい。

 君の安全を祈る」

「運が悪い時は地上を歩いていても車にひかれますよ。

 だから、人為的ミスで死なないよう、全力を尽くします」




そして打ち上げ日。

日本とアメリカは時差があって、片方が昼なら片方は夜だったりするが、日本のテレビ中継で見られる時間に打ち上げ時間を設定してくれたのは、アメリカの粋な計らいという奴だろう。

「ISSにドッキングさせる為の軌道計算が必要ないので、比較的自由に時間設定できるんですよ」

と、小野がアメリカから秋山にメールでツッコミを入れる。


Ten....Nine....Eight....Six....Five(Ignition!)....Four....Three....Two....One....

LIFT UP!!


アトラスV改(やはり有人用に、Gを小さくし、代わりに燃焼時間を延長させた)が順調に上昇していく。

しばらくして、無事に軌道に投入されたという連絡が入った。


大丈夫だ、何度も検査をして来た、手順は間違っていない、そう分かっていても、やはり人間が無事に宇宙に到達するというのは嬉しい事で、管制センターは無人機だった時より大きく拍手が鳴り響き、クラッカーが鳴らされ、職員同士が握手をする。

小野も付近の人間から握手を求められた。

日本のマスコミ関係者がフラッシュを光らせ写真を撮って来る。

このコミュ障は気持ち良いとは思わず

(うぜえ)

と思っていたが、口に出さない程度には大人だった。


地球を5周し、その間に操縦の確認、視界の確認、改めて無重力状態での宇宙服の着脱の容易さ、ドッキングポートまでの移動、飲料水の出(これは意外に重要で、変な出方をすると船内に水をまき散らす為、確認の必要あり)、トイレの確認(これも言うまでもなく、極めて重要)を行う。

操縦については、船長だけでなく、座席を代わって尾方飛行士も確認する。

今後、日本人だけで操縦する事になるのだから。


ポジティブチェックを一通り終えて、帰還時刻となる。

事故を想定したネガティブチェックは、次回以降行われる。

宇宙滞在7時間半で、ジェミニ改は機械船とドッキングポートを切り離し、帰還カプセルだけの形となった。

そして大気圏再突入(リエントリ)


彼等は無事に帰って来た。


3日後、尾方飛行士は記者会見の場に居た。

もっともありふれた質問が来る。

「宇宙飛行士として、実際に宇宙に出てどうでした?」

彼はこう答えた。

「訓練の方が大変でした」

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― 新着の感想 ―
[一言] なお、日本には“訓練で泣いて、実働で笑おう”という、スローガンを掲げている部隊があるとか
[一言] seven……
[一言] 拡大試作の十二試艦戦を、中国で実戦投入したお国ですからねぇ。完成品を使うなと言うのは無理でしょう。
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