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海上保安庁から「この仕事本来の業務じゃないんですけどねえ」と文句言われたが、総理案件なのでお互いどうしようもなかった

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカでの試験が終わり、ついに日本での試験となる。

実機が種子島宇宙センターに輸送されると、流石にマスコミが取材攻勢をかけて来た。

そして

「小さいな」

「旧式だな」

「ちゃっちいな」

「安っぽいな」

と色々ネガティブな事を言って来る。

しかし、テレビの特番になると

「旧式ながらも、実績のある設計で、信頼性が高い」

「これはISSに人を運ぶようなものではなく、訓練機として用いられるものです。

 宇宙飛行士を日本でも育成する為の機体なので、高価なのを1回ではなく、安価なのを複数回という方針で作られました。

 無論、安全性についてはアメリカで1年近くテストを行い、やっと日本でテストという事になりました」

「小さく感じますが、1960年代と違い、中の機器や素材は最新のものを使っている為、余裕が出来ています。

 それと、あくまでも訓練機なので、飛行機のコックピットみたいなもので、コンパクトにまとまっています」

「ああ、成る程。

 確かにリアルロボットのアニメなんかでも、コックピットは小さいですからね」

「訓練機で回数を飛ばすだけに、もしかしたら視聴者の中から、将来乗り込む方も出るかもしれませんね」

と、ポジティブな魔法がかけられていた。

その魔法をかけた張本人は

「あのアニメの下り、そのまま使ったの?

 確かにテレビ局用のアンチョコにはそう書いたけどさ」

と驚いていたのだが……。


打ち上げ後、回収担当は海上自衛隊の平甲板護衛艦ではなく、海上保安庁の「あきつしま」が担当する事になった。

理由は「ヘリコプター護衛艦は4隻しかなく、スケジュール調整が出来なかった」というものだった。

メンテナンス→訓練→現場に配備(国内もしくは国外)というローテーションがあり、そこに今回は仕事を挟めなかったという訳である。

元々プルトニウム運搬船を護衛する為に造られた「しきしま」型巡視船は、プルトニウム運搬任務が無くなって任務が宙に浮いた形になった。

それでも長大な航行性を生かし、近隣国との緊張が強まっている海域を巡回して、警戒・監視活動を行う任務に就いた。

この世界でも最大級、満載排水量9,350トンの巡視船は、後甲板にヘリコプターを2機搭載可能だ。

「しきしま」型準同型船「あきつしま」のヘリコプターEC.225は最大5.7トンの貨物を運搬可能な性能である。

ジェミニ改は、打ち上げ時の重量こそ最大12トンだが、大気圏再突入して戻って来るのはその4分の1より少し多い3.5トンだ。

横浜管区に配備されている「あきつしま」が小笠原諸島沖に出張り、ヘリコプターを使って着水したカプセルを引き上げて来る、こういう事になった。


「知ってますか?

 海上保安庁(うち)は担当海域が広い割に、人手(リソース)が足りてないんですよ。

 そんな中、貴重な長期行動が可能な巡視船を割かなければならなかったんですよ」

海保さんも文句を今まで言いたかったのだろう。

当初、海上自衛隊の護衛艦とヘリコプターの仕事だと思って、他人事としてこの計画を見ていたという。

しかし、今年に入ってから「海自は物理的に艦を出せないから、海保でよろしく」と急に言われたそうだ。

宇宙船の回収なんて仕事はやった事が無い。

急遽訓練を始め、着水した宇宙船(の模型)に潜水士が空中牽引用のワイヤーロープを結ぶ作業、ハッチを開けて宇宙飛行士をゴムボートに一回移し、そこからヘリコプターに収容する作業、懸垂した宇宙船を巡視船のヘリポートにそっと置く作業、宇宙船を格納庫に仕舞う作業を、3ヶ月の内に終えたそうだ。

まあ、宇宙飛行士の収容は、普段の海難事故者救助と同じ要領だが、宇宙船のハッチを開けるという今までは無かった動作がある。

事故の時のように、緊急事態だから窓やドアを壊して人を救い出して良いというものではない。

だから「実機を貸して貰えませんか?」とJAXAに頼みに来たが、まだ余分な機体は無かった為、急遽アメリカに、完成した分を送って貰った。


「全く頭が下がります。

 ですが、総理案件でして、我々としてもどうする事も出来なかったんです」

秋山はもうここ最近、関係各所に頭を下げて歩く事に慣れてしまっていた。

期間が短いと関係各所に負担をかけてしまう。

期間が長くなると「どうなってるんですか?」と問合せが来る。

余りに繰り返された為、彼は


悩むのをやめた。


もう上に責任押し付けるしかない。

元々技術者寄りで、じっくり計画を立てて、無理なく進捗管理するような人物だったが

(段々自分も官僚っぽくなって来たなあ)

と思うくらい、人と接して、頭を下げて歩いて、それで人を動かすようになっていた。


海保にしても、命令された以上、どうにもならない事は分かっている。

その上で愚痴を言う相手が欲しかったのだ。

そのはけ口になるくらい、秋山も仕方ないと思っている。


上長が色々文句を言ってくれたせいか、巡視船の船長は何も言わずに任務に就いてくれた。

こういう体質が無茶ブリを生んでいるのだが……。




かくして、種子島宇宙センターからH2A改(二段ロケットの燃焼時間を延長した)は打ち上げられた。

無事に宇宙空間に達し、軌道に投入された。

日本が打ち上げる5号機は、ロケットの性能試験の意味合いが大きく、軌道を3周、打ち上げから4時間半後には大気圏再突入フェーズに移行する。

(ここで「ついでだから、観測機器載せてみよう」とか「ついでだから、ハッチ開放の試験とそこから小型衛星放出してみよう」と散々言われたが、秋山はアメリカの威を借りて断念させた。

 「ついでだから」で何でもやると、事故が起きた時にどこに事故原因があるか不明瞭になる)

打ち上げは朝6時だった為、正午過ぎに宇宙船は小笠原諸島沖に着水した。

無事にGPSが作動し、どこに落ちたかの情報を送って来る。

20世紀に比べ、着水地点を探す必要はなく、ピンポイントでヘリが着水地点に直行する。

そして潜水士がヘリから飛び降り、宇宙船にワイヤを括りつけて、無事空中に持ち上げた。


そして、無事に「あきつしま」後甲板に宇宙船が置かれた。

その様子を実況中継で見ていた秋山と海保の上長は、思わず握手をしていた。


次も海保さんに迷惑をかける事になるが、6号機の試験が無事終了したら、いよいよ有人飛行である。

あともう一頑張りだ。

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[一言] 「ついでだから」で何でもやると、事故が起きた時にどこに事故原因があるか不明瞭になる⇒勉強になります。肝に銘じます。
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