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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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良い宇宙飛行士とは?

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

JAXAもNASAも、同じ名前のをモデルにした似て非なる機関と思って下さい。

最初に月に降り立った男を「ファーストマン」と言う。

その男を選ぶのは、NASAにとって判断は容易だったが、決断は難しかった。

結局「いい写真を見せてやるぜ!」という見映えのする、国民的に人気の有った男ではなく、

「誰が最初とか興味が無い、如何に成功に導くかを考えるのみだ」と言う技術者的な男に決まった。

だから、あの有名な映像の、月着陸船を下りて来た男はファーストマンではない。

ファーストマンは人知れず先に下りていて、カメラマンとして待機していたのだ。

ファーストマンが月に居たという姿は、同時に下りた飛行士のヘルメットに映り込んだもののみだと言う。


今回の計画において、ファーストマンを選ぶのは特に難しい事ではない。

まず日本人初の宇宙飛行士なんてのは、とっくに某民放の局員がなっている。

NASAと組んでの宇宙飛行士も、もう結構な人数がいる。

「日本の技術での」という冠も、今回は極めて怪しい。

それでも注目をされ始めた今回の計画なのだが、飛行士たちの中で大体序列が出来てしまい、

「最初の一人は彼にして欲しい」

と大体決まってしまった。


山口理人、航空自衛隊の操縦士である。

派手ではない、冒険家的でもない、顔はやや良い。

一番の評価ポイントは、冷静さがとんでもない事だった。

輸送機を操縦していたそうだが、きちんと定刻通りに届ける腕と、それに奢らず悪天候等の問題を回避する判断力、そして危機に陥った際の冷静さと、相反するようだが最後まで諦めない粘り強さに、関係した誰もが感心した。

宇宙飛行士志願で除隊を申し出たのが「唯一の我がまま」で、自衛隊時代のあだ名は「良い意味で昼行燈」だった。

これは「昼行燈と呼ばれた『忠臣蔵』の大石内蔵助のように、ボーっとしているように見えるだけで、実際は凄い人」という意味だ。

それを聞いても

「へえ、そうなんですね」

と素っ気ない。


序列2位は尾方一茶、やはり航空自衛隊の操縦士で、実は最年長である。

冷静さは山口飛行士に次ぐが、彼の場合原因究明能力が高く、反射神経は随一でありつつ、神経が図太い。

戦闘機乗りだったそうで、直感やちょっとした変化に気付くのが圧倒的に速く、某アニメのように「新しいタイプの人類の目覚めじゃね?」と言われるが、本人曰く「宇宙飛行士にはあまり関係の無い気質だと思う」そうだ。

何かあって、直感を働かせてクリアするよりも、何も起こさないのがベスト、と言ってのける。

ただ、山口飛行士が「何が有っても任務を遂行する」というタイプなのに対し、尾方飛行士は「危険と判断したら即座に中止をする」タイプであり、この辺

「輸送機乗りと戦闘機乗りの気質の差かもしれないね」

という評価だ。


他の飛行士の事は後に回し、まずはこの2人がアメリカに行き、2人乗りとなる為アメリカ人のペアと一緒に訓練を受ける事になる。


英語は……

「アメリカには何遍も派遣されましたから」

「通常の任務も英語は必須ですんで」

だそうで、全く不安が無い。

日本にも人材ってのはいるものだ。




さて、飛行士の訓練は最終段階に入るが、それとは平行して、ついに「有人宇宙船」を無人で打ち上げ試験する日がやって来た。

打ち上げはアメリカのアトラスVロケット。

当初でデルタIVヘビーロケットにする予定だったが、どうもオーバースペックなようだ。

そこで「有人用じゃないんだけどね」というアトラスに搭載された。

宇宙船の無人試験だから、キャリアはどうでも良いようだ。


カウントダウンがゼロになり、爆音と共に宇宙船は試験航行に出かけた。


試験はこの日の内に終わる。

まず打ち上げ後、10分もしたら宇宙船は軌道に投入される。

だが、その軌道は本来の目的の軌道ではない。

宇宙船単体の推進システムを使い、目的の軌道に乗せる試験を行う。

今回の予定は、軌道周回は10回。

地球一周は約90分なので、15時間したら今度は大気圏再突入の試験に入る。

初号機は、ほとんど何の問題もなく、チェック項目表をOKで埋めていく。

酸素漏れ無し、熱が籠る事無し、推進能力は計算通り、予定軌道には周回3周目で投入成功。

「ついでだから、もう打ち上げられた日本ステーションとランデブーしませんか?」

と上長がポロっと口にしたが

「スケジュールに無い危険な事はしない」

との返答。

計画通りに行わないと、何が起きるか分からないのが宇宙空間だ。

ランデブーも、一見ただ接近しているだけだが、あれは基本両者とも秒速7.9キロで移動しているものだからね。


早朝4時に打ち上げられ、19時30分には大気圏再突入に入る。

打ち上げたフロリダはもう夕暮れだが、回収する太平洋側はまだ昼間だ。

最終チェックは、一番か二番目に宇宙飛行士を生命の危機に晒す「大気圏再突入フェーズ」で、

・無事に突入コースに入れるか

・耐熱シールドは機能するか

・宇宙船内が高熱にならないか

・宇宙船に空中分解に繋がる損傷を受けないか

・その後でパラシュートはきちんと開くか

・着水し、救助が来るまでの間は沈没せずにいられるか

・通信可能高度から、位置情報をきちんと連絡してくるか

といったチェック項目が、その詳細チェックとともに並んでいる。


大気圏再突入。

数分間、高熱に包まれる宇宙船との交信が途絶える。

スペースシャトル等は、高温プラズマの無い上方、つまり通信衛星を経由して、大気圏再突入時でも通信が可能だったという。

この「ジェミニ2」は小型で、通信可能域が狭い為、丁度上空に通信衛星が居ないと大気圏再突入中の通信は出来ない。

その為、今回は無人だった事もあって、通信衛星の補助は受けずにテストをした。


やがて通信が回復し、船内の情報、船外の情報、そして機体の位置情報を送信して来る。

特にGPSが出来た為、ジェミニ宇宙船が現役だった時のように、海域を大きく探し回る手間が省けた。

ヘリコプター搭載の駆逐艦が着水した宇宙船を発見、回収した。

中の人形は、黒焦げとかにならず無事なままだ。

NASAが言うに、現状フルサクセスだそうだ。

細かい数値を解析して判断が変わるかもしれないが、




さて、我らが期待の山口、尾方両飛行士はこの間何をしていたか?

彼等はそれぞれのペアとシミュレータの中に入り、試験飛行と同じ手順で操作を確認していたという。

「見ていたって、上がりましたね~って感想しか無いですからね」

「16時間の飛行時間、宇宙服を着て、宇宙では脱いで、自分たちが耐えられるかのテストもしていました。

 同じ状況で日本では耐えられましたが、試験は何回やっても良いですからね」


 彼等に対しNASAの採点官はやはり「フルサクセス!」と評価していた。

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