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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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プレゼンテーションが上手い人って、時々詐欺師のように感じてしまう、技術畑の人間

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

総理がアメリカに到着した。

話には聞いていたが、本当に分刻みのスケジュールなのね。

小野は、ツッコミ厳しい官邸付や総理府付のベテラン官僚へのレクチャーで、疲れてダウンしていた。

ダウンと言っても、部屋帰って寝ている訳では無く、いつ呼び出されるか分からない待機部屋でグッタリして座っているだけだが。


(どうか呼ばれませんように)


そう思うと呼び出しを食らうのがジンクス。

「小野君、ちょっと来てくれ」


(ああ、来てしまったか)


ネクタイを直して、スイートルームの奥の方、総理の元に出向く。

「はい、お疲れ様です」

「あ、あの、総理も、どうも……」

「単刀直入に聞きます。

 20機でいいの?

 もっと買えって言ってない?」


成る程、実際にB社に長く詰めていた自分で無いと分からない質問だ。

それ以外はレクチャーを受けて分かったようだ。


「本音はもっと買え、です」

「何機?」

「何機でも」

「それじゃ困る。

 具体的な数字は無いの?」

「損益分岐点がプラス20機で、プラス40機からは大幅に利益が出ます」

「プラス30機だと?」

「その辺は損益分岐点の幅に入ります。

 万が一何かあって開発費が更にかかれば、プラス20機でも赤字、30機でやっとトントンでしょうか」

「本当?」

「彼等はそう言っていましたし、彼等の出した部品調達価格だの人件費だのを考慮すると、大体自分も同じになりました」

「総理、彼が言ってるのは正しいです。

 自分もB社に問い合わせて、彼が言っていた金額を教えて貰って計算したら、プラス20機が現在の損益分岐点でした」

「分かった。

 じゃあ60機くらい買おうか」

「…………はぁ?」

「君、総理に対して失礼だぞ」

「アハハ、いや、あっけに取られたのならそれで結構。

 君がそうなら、きっと大統領も想定外として喜ぶだろうね」

「あの、どういう事ですか?」

「ギリギリの数字言って来る事なんて、アメリカのスタッフは想定してるのだ。

 その上でもう少し上の数字を呑ませようとしてくる。

 日本としては、それを上回るようじゃないと、商売人の現大統領とは上手くやっていけないよ」

「はあ……、なるほど」

「ま、今回の発注はプラス20機にしておくけど、裏ではね。

 君もSNSとかに余計な事書いちゃダメだからね」

「分かってるよね、君」

小野もその辺は分かっている。


彼の大学の同窓生、と言えば聞こえが良いが、単に同じ大学にいた顔も名前も知らないチャラい奴が、バイト先でやらかした事をSNSに晒して炎上しただけでなく、大学も途中で辞めたらしいという話を聞いていたので、SNSとかに下手な情報を漏らす気はサラサラ無い。

それ以前に

(SNSのアカウント取るの面倒だし)

というコミュ障以前のぐうたらであった。




翌日、フロリダまでやって来た大統領と総理は、仲良く宇宙センターを見学していた。

そして会議室に入り首脳会談。


「長いな……」

秘書官が呟く。

「揉め事ですか?」

小野の質問に、周囲は呆れた視線を向ける。

「あの2人は馬が合うから、揉め事は無いよ。

 ただ、余計な仕事増やしてくる事が多いから、予め用心してるだけさ」


優秀な官僚に見えた人たちだが、この人たちも無茶ブリ食らって仕事増やされているようだ。

ほとんどの時間、苦痛とか一切見せないが、「長引いている」事で「次は何が来るやら……」とウンザリした表情が一瞬見えた。

(上に上がっても、苦労は尽きないってわけね)

小野は妙に納得した。


2時間越すかな?と思った頃、首脳2人は笑いながら出て来た。

総理の笑顔を見ている官僚たちの表情が、心なしか強張っている。


そして記者会見。

まずは食糧輸入の話。

聞いていて「特に問題が無いのでは?」と門外漢の小野は思ったが、昨日紹介された農水省の役人さんの表情が硬くなっている。

続いて自動車の問題。

アメリカ国内に工場を増やすとか何とかで「まあそれならそれでいいのでは?」と思う門外漢の小野の傍で、

「どうやって企業説得すんだよ……。

 工場作るのは民間なんだぞ……」

とかぶつくさ言っている。

航空機や防衛装備についても話がされて、小野は「へえ、それは良いのでは」と思ったりするが、担当者は愕然としていたりした。


そして会見も後半に入って、やっと日本の有人宇宙飛行計画の話。

「宇宙先進国アメリカの協力を得て、我々も自分たちのロケットで人間を宇宙に飛ばせそうです。

 誠に感謝をしています。

 あそこにモックアップですか、等身大の模型があり、実際に乗り込む事が出来ます。

 既に実績がある、何度も宇宙を飛び、かの月着陸最初の宇宙飛行士等を育て上げた素晴らしい宇宙船をベースに、現在の技術をも組み込んだ素晴らしい船です」


(え? 1960年代の旧型カプセルを、当時の部品はもう手に入らないから所々現代の部品で置き換えて、再設計したものを、こんなに立派に語るんだ?)

小野はある意味感心した。


「ただ、残念な事に日本が出した要求のせいで、急いで完成させざるを得ず、我々は3人乗りを求めていましたが、2人乗りとなりました。

 ですが、まずは間に合ってくれた事を感謝します。

 そして、2人しか乗れないのであれば、回数を増やす事で、当初想定していた人数の訓練を行う事が出来ます。

 残念ながら日本の宇宙基地は年間使用回数に制限がありますので、アメリカから打ち上げて貰います。

 つまり、計画を増強して新たに20機の発注をする事を、大統領にお願いしました」


(そういう理屈で「赤字になるからもっと買って」っていうのを誤魔化したのかい!)


「日本としても、第二次、第三次の宇宙飛行士育成計画を立てますが、この素晴らしい宇宙船を日本単独で使用するには勿体ない!

 アジア、アフリカ諸国にも呼び掛けて、彼等の使用も促したいと考えております。

 昨今の地球温暖化、異常気象など、地球を宇宙から見る目は、増えて困る事はありません。

 全世界規模でこの機体を使うよう、我が国から働きかけていきます。

 まあ、アメリカには優秀な宇宙産業がありますから、もっと大きな宇宙船をチャーターする国も出るでしょうし、そちらの方がアメリカとしては嬉しいかもしれませんね」

会場が笑う。

大統領が

「素晴らしい提案だ。

 だが、国際宇宙ステーションISSの予定は詰まっていて、余分な時間は無い。

 私は日本が打ち上げる小型宇宙ステーションが、ISSで処理し切れないミッションを補完してくれるものと期待している」

そう語る。


(って事は、外国に日本の宇宙計画に参加を促すプレゼンテーション資料を作成し、

 外国から上がって来る宇宙ステーション使用計画を吟味し、

 2人乗りの片方を外国人の為に空けるって事になるよな。

 飛行計画とかは秋山さんがやるのか?

 プレゼン資料は誰が?

 一番知ってる俺か??)

小野は段々と血の気が引いていっているのを感じていた。


総理は

「思ったより座席が狭いですね。

 アメリカ車はもっと贅沢じゃなかったですか?」

と冗談を飛ばし、大統領も

「日本向けにケイ(軽自動車)にしたんだよ」

と軽妙に返す。


記者が爆笑している中、小野は隅っこで

「その軽の推薦パンフレットを、一体誰が書くんだよぉ……」

と力なく呟いていた。

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