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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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仕事ってのは半分書類書いたり相手に説明したりする事だと思おうか

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカ派遣職員の小野は、慣れない作業をしている。

官公庁用の提出書類用の資料作成である。

有人宇宙船の実物大模型(モックアップ)を日本に送る事になった。

法律家大国のアメリカでは、B社専属の法律家が輸出用書類を何冊もサラっと作って輸出管理局に届けている。

日本は?

日本も書類仕事のプロたる公務員が作業をする。

だが、小野は厳密な意味で公務員なのかどうか?

技術関係で入って1年目、研修もろくにせずに人手不足でアメリカに行かされた人間である。

だから、書類そのものを書けという無茶は本国も言って来ていない。

本国の公務員が書類を書くにあたって、必要な資料を書いているのだ。


例えば、アメリカでは許可されているが日本では使用禁止の薬剤が使われていないか。

例えば、特に電子機器等で別途「戦略物資」としての書類を出す必要がある物が使われているか。

例えば、実物大模型(モックアップ)の木材の中に生物が居ないか、チェックは済んでいるのか。

チェックした書類があれば、それらの発行元は? ダミーでは無いか?


「俺はこの宇宙船に乗る事は無いし、製作に関わる事も無いんだろうが、

 部品だのマニュアルだの輸出入の際にどこに何を届けたら代筆が楽かという、

 一風変わったプロフェッショナルになってしまうな……」




この実物大模型(モックアップ)の輸送に関する書類仕事が終わった後、また面倒な仕事が降りかかって来た。

コミュ障の疑いのある小野には、苦手な書類仕事より更に苦痛かもしれない。

この案件を決めた総理大臣が、急遽訪米し、ケネディ宇宙センター前で大統領と一緒に会見をする。

それにあたり、総理大臣にレクチャーしろという指令だった。


日本の総理大臣は、世界各地での何ちゃらサミットとか、何ヶ国経済会議だのへの出席で外国を飛び回る。

たまたま環境関係の会議がアメリカに近い場所だった為、都合をつけて帰国途中に寄るというのだ。


「いや、あの、俺じゃなく、もっと説明上手い人にして貰えませんか?」

テレビ電話で本国に頼む。

全く冗談じゃない、と小野は思う。

そういうのはもっと上の官僚の仕事だろ?


「損益分岐点の問題から、余分に発注しろって話を持って来たのは君だよね?」

「げっ……その件ですか?」

「ほぼそれは通るんだけど、とりあえず言い出しっぺを連れて来いって事だ」

「それを総理に説明する、と?」

「君みたいなペーペーが、いきなり総理と談判出来ると思ってるのか?

 補佐官とか、総理府の担当官僚に話して、そこから総理へってなる」

「ケネディ宇宙って、フロリダ州でしたっけ?」

「そうだ、メキシコ湾を臨む風光明媚な所だ。

 B社のある西海岸北部とはまるで違うぞ。

 チケットは手配した。

 ついでだから、休暇も与えるし、そこで数日休んで来たまえ」

「休みを、心の準備も無しに与えられても困るんですけど……。

 どう楽しむか、調べてる時間も無いじゃないですか。

 それに、休めるのは数日ですか?」

「十分だろ?」


そして手配されたメールから電子チケットを確認する。


「げっ、出発は明後日かよ! なんでこんな急に……」




翌日、B社に顔を出した小野は、計画部門のボスに事情を説明して7日の休暇を貰った。

「もっと休んでもいいぞ」

ブラック企業とはほど遠いアメリカ企業の誘惑に乗りたくなった。

もっとも、長く休んでも遊ぶ金も無いし、計画が無い。

ホテルも航空チケットも他人任せだったから、予定を変えると自腹になる。

出張手当とか相当について、同年代としてはかなり高給ではあるのだが、使うと中々面倒臭い。

完全に私費で使ってしまえば問題無いが、小野も貧乏性だから太っ腹に使えない。

そうなると経費になるが、移動計画書を出し(水増し請求を防ぐ為)、領収書貰い、使途を報告する必要がある。

ちょっとでも瑕瑾があれば、色々つっこまれて面倒臭い。

書類再提出とかで、もしアメリカ側から何かを再発行とかだと、より面倒臭い。

世の中、そういうのが苦で無い人もいるが、小野はそのタイプではない。

結果、他人任せで動く事にした。

食費とかルームサービスとかタクシーとかは、領収書があれば良く、それも形式を気にせずサインと金額が分かれば良いとの事だった。


久々にスーツにネクタイをキャリーバッグに詰め込み、準備を整えて飛行機に乗る。

飛行機を降りると、総理の秘書と言う人が出迎えてくれてホテルに直行する。

総理はまだ他国での会議に参加中で、先行して一部スタッフが来ていた。


「君か? いきなり倍も宇宙船買えって言って来たのは」

いきなり喧嘩腰だったから、小野もムッとして

「倍ってのは損益分岐点でトントンですから、かなり譲歩した数字なんですけどね。

 B社は本来3倍受注してくれって言ってましたよ」

「君はそれを鵜呑みにしたのかね?」

「自分はB社の製作部門に聞かれた事に答えるだけの、外部職員に過ぎません。

 そういう権限で渡米したんです。

 鵜呑みする以外に何が出来るんですか?」

「君自身の計算とかはしなかったのか?」

「しましたよ。

 今のところ、20機追加購入でB社は辛うじて黒字になります。

 しかし、もし何かあって開発費が嵩むと、20機だと赤字転落も有り得ます。

 自分が計算したらそうでしたが、何か?」

総理大臣付きの有人宇宙船計画の官僚は、そこまで言われたら黙った。

そして

「その計算は間違いって事はないか?」

と言って来たので、

「今から説明しますんで。

 ここでしますか?」

「いや、ホテルの中でしよう」


そう言ってチェックインした。


小野はスイートルームというのに初めて入った。

だが、豪華さに感動する以前に、何人もの官僚や秘書や謎の人がスイートの中にいる事の方が気になる。

「えーと、あの人たちは?」

「総理は案件1個だけで訪米しないよ。

 自動車関係とか農産物関係の担当者も来ていて、それぞれブリーフィングする。

 ここに居るのは、アメリカに何らかの『お土産』を渡せる者たちだ。

 分かるな」


外交は総理が来る前に大体決着が着いている。

何を譲歩し、何を勝ち取ったのか、既に報告が入っている。

大統領との会見は、それらを聞いた上での儀式に過ぎない。

逆に言えば、お土産も無しに大統領と会ったって時間の無駄である。

今回はこれまでにかなりの土産を交換出来る為、パフォーマンス込みでの首脳会談と記者会見となった。


「え? じゃあ、実物大模型(モックアップ)に乗り込んだり、宇宙センターの有人管制センター見学とかは?」

「パフォーマンスだよ。

 画になるからそうしただけ」


……総理は宇宙計画を結構軽視してる気がする……。

……それでも、知らん人が見れば『宇宙開発に熱心な政治家』『宇宙なんてものにムダ金遣ってる政治家』に映るんだろうなあ。


他に

「あのガタイが良いのはボディーガード。

 格闘技好きな大統領が好む、元五輪選手だから、見た事あるだろ?

 あっちは後援会の人」

「後援会?

 総理の私的な交友関係の人っすか?」

「……という触れ込みだが、実はとある地方都市、宇宙センターの一部機能を誘致してるのだが、そこの関係者らしい」


小野は総理がよく分からなくなったが、

「とりあえず私たちと打ち合わせだ。

 大体の事は分かったし、君の言って来た数字も通るけど、記者会見で細かい事を突っ込まれるかもしれないから、総理へのレクチャーが必要だ。

 何を聞かれても答えられるように、こっちも厳しく質問するから、よろしく!」


1年目のペーペーのコミュ障には辛い時間が続く。


「青い海が一体何だって言うんだーーー!!!」

フロリダ半島で小野は人知れず、文句を海に叫んでいた。

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