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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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ジェミニ宇宙船が蘇った裏側の話

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

指導教官の先生。

いつかの先生の言葉が近頃、よく頭に浮かびます。

お前のためにチームがあるんじゃねえ チームのためにお前がいるんだ。


ここでは誰も僕に仕事をくれません。


今おめおめと帰るわけには行きません。

まだ頑張るつもりです。




……と、バスケ漫画風の一人芝居しながら、アメリカ派遣中の小野は今日もB社のオフィスに入る。

本当にここは、ボケーっとしてても仕事をくれない。

それどころか、仕事無いなら定時には帰れと言って来る。


小野は仕事が無い訳ではないが、同じように派遣された日本人で、コミュニケーション不足の為に孤立してしまい、日本に辞表を送って消えて行った者を見て

(アメリカってこれなんだよなあ)

と思っている。


ちなみに、アメリカ人の技術者からしたら、小野がしている事も仕事とは言い難い。

マニュアル書いたり、翻訳したり、データ落としたりというのは「業務の中の一作業」であって、大学院を出てポスドク研究員で粘っていたくらいの学歴の人間が、わざわざする仕事ではない。

清書とかきちんとした翻訳は、そういう役の人にさせれば良いのだ。

企画を出したり、仕様をまとめたり、上流工程の仕事に大学院卒ならば入ってくれば良いものを……。


この辺は日米で考え方が違う。

アメリカ人は新卒でも、自分に意見があれば主張する。

日本人は、新卒というのを過度に重んじ、まずはそこの社のシステムの理解から始める者が多い。

日本で最初から偉そうに上のやってるやり方に口出しするのは、大概何も知らない馬鹿なのだ。

だがエリートは本当にエリートなアメリカだと、新卒でも下手したら天才が入って来るから、おろそかには出来ない。


小野は、アメリカ人社員からは「何を下っ端の仕事しているんだか」と思われている仕事を、就業時間からすれば過労で倒れる事は無いが、その時間内で集中し過ぎて脳がオーバーヒートするくらい頑張って、どうにかクリアした。


(いやあ、集中力が3分しか持たない自分にしたら、本当に頑張ったわ)

と思う小野だったが、やっと仕事をするスタート地点に辿り着いたに過ぎない。




小野はコミュニケーション能力にやや問題がある。

まず、自分が集中状態に入ると他人と口を利かなくなる。

そして結論から話すのは良い事なのだが、急に前触れも無く話す為、周囲は困惑する。

さらに自分の仕事に入ると、他人と協調しないで全部自分でやろうとする。


……これくらいのコミュニケーション能力難はアメリカじゃ可愛い方だった。


「ボス、JAXAの有人シップについて、明らかに高額・検査に時間がかかり過ぎて来年には間に合わないんじゃないですか?」

突然声をかけて来た日本人に驚く開発責任者だったが、

「おいデイヴ、日本人のえーと、オーノがコストについて意見があるそうだ」

とあっさり対応された。


(いや、オーノじゃなくてオノだよ)

と思ったが、本人も名前とか別にどうでも良いタイプだったので、そのままにした。

……結果、OnoなのにOhno扱いされる事になる。

……それで大して支障も出なかった。


「書類休憩は終わったのか?」

「はい、これ」

「うん、うん、あー、うちの仕事のやり方と連邦運輸安全委員会のチェック期間から逆算し、間に合わない時間と足りん金額計算してたのか。

 そうだよ、間に合わないし、高くするよ」

「それじゃ日本が納得しないだろ」

「納得しなかったら余所の機体を選んで貰って結構。

 うちはチープに済ませるような誇りの無い企業じゃないんでね。

 安いって事は安全性に問題が出る。

 うちのブランド背負った宇宙船が安全性に問題があるとか世界に知れたら、本業にも支障が出るからな」

「じゃあ、それを日本に納得させるようプレゼンするのが俺の仕事か?」

「なんだ、君がやるのか。

 じゃあ頼むな。

 うちの仕事のやり方も分かったようだし、うちは安売りはしないからね」




B社にとっても、競合他社がいる内は余裕があった。

「嫌なら他にしてくれ」と言えるからだ。


状況が変わったのは、競合他社が抜けたと知れてからだ。

会議では

「うちだけだとしたら、5年後の打ち上げと倍の費用を認めなければ引き受けられない。

 日本が納得しないなら、うちも手を引く。

 オーノ、契約するかしないか判断させるのは君だ」

という流れになった。


(うわ、エライ面倒な役が振られたな……)


そう思った矢先、CEOの方から

「日本はうちの飛行機、武器を更に購入すると言って来た。

 それもあって大統領から、出来るだけ応じてくれ、という半分脅しが入った。

 出来ないならペナルティもあるぞ、と」

「ペナルティ……、例えば」

「そのうちに回って来た飛行機と武器の発注、本来は競合他社のものだったのだが、大統領がこっちに回した。

 日本の要望を、他を優先させる形で裏切ったようなものだからね」

「じゃあ、うちが何とかしないと?」

「うちへの別発注も消滅するだろう」


会議が一瞬沈黙する。

アメリカの会議は沈黙を嫌い、一瞬そうなってもすぐに誰かが意見を言う。


「他の部門で儲けられるからって、俺たちの部門で赤字なんて嫌だぜ。

 それをどうにかしたい。

 誰かアイディアは無いか?」

本来オブザーバ参加で意見を言う資格が無い小野だが、つい口から

「20機だと赤字だけど、40機でトントンになり、60機からだと黒字になりませんかね」

という言葉が出た。


「おい、オーノ、なんだってそんな遠い席に居るんだ?

 もっと近くで言えよ。

 ほら、そこ開けて」

(いや、経営会議だから『意見は言えないが、聞くだけ聞いといて日本政府やJAXAに話を通してくれ』とか言ったのあんただろ)

そう思いつつ、経営陣の近くに椅子を移動させられる小野だった。


「オーノ、君は上を説得させられるのか?」

(曖昧な返事をこの人たちは好まない)

そう判断し

「プラマイ分岐点の40機までなら説得できる。

 それ以上は難しい。

 黒字にするなら、40機受注までの中で安上がりにすれば良い」

と言った。


根拠が無い訳でもない。

第二次計画があるとは日本で聞かされていた。

もっともそれは数年後の話だが。


(だから、第一次計画を遅延させて、第二次でまとめて40機とかになるかな)

と計算していた。


そんな中、別な技術者が発言する。

「オーノ、安全性について俺たちは妥協出来ないが、それ以外でなら何とか出来る。

 居住空間とか犠牲になるが、それで日本は納得するか?」

「俺は仕様を決められる権限を持っていない。

 決まった仕様を日本に呑ませるだけだ。

 余りにも酷いものでなければ、説得するさ」

(失敗したら、その時はその時だ)


「よし、オーノがそう言ったのなら良い。

 俺に案がある」


かくして、既に検品が通った部品や設計を流用しまくって、旧式機に新型技術を入れる「ジェミニ・リサイクル案」が通った。

実はジェミニ計画終了後に、アポロ計画の他の「2人乗り宇宙船としてジェミニ発展型を作ろう」という計画があり、それは一回お蔵入りになったのだが、基礎構想までは出来上がっていたという。

合併によって、ジェミニを作成した旧M社を吸収していたB社ならでは強みと言えた。


「それで日本を説得してくれ、オーノ、頼むぞ」

(ジェミニって1960年代の機体かよ……、エライ約束してしまった……)




教訓:能力があって、アメリカに馴染んで来ようと、安請け合いはしてはならない。

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