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そもそも対米貿易黒字を減らす為にアメリカが得すれば良いのだから

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

きっかけは職員の何気ない一言だった。

「ミッション・スペシャリスト増やすのは良いですが、そもそも訓練機で運ぶの自体想定外ですよね」


聞いていた一同は

「だから4人乗りに改造したのをB社に発注したじゃないか」

と突っ込むも

「何人乗りだろうと、あれは宇宙飛行士を育てる為の宇宙船ですよ。

 1人教官で1人訓練生ってよりも、2人または3人訓練生が乗れた方が効率良いですが、1人教官1人訓練生2人研究員なら、訓練中は研究員暇を持て余しますし、2人しか研究員を運べないなら宇宙ステーションのスケジュール消化が難しいかな、と思いましてね」

「そうだな。

 3人研究員を運ぶなら、宇宙ステーションの方のローテーションは上手く行くけど、訓練は出来ないから、今いる11人の宇宙飛行士を使い回す事になる」

「それでもいいんじゃないですか?

 この計画、今の総理の肝煎りで、交代したら無くなるかもしれませんからね。

 そうなったら、宇宙飛行士を日本で訓練して次世代まで育てる必要も無くなるでしょうし」

「……醒めた事言うなよ」

「次の内閣でも継続かもしれないだろ」

「アメリカの赤字対策なら継続案件だろうし」

「国際的な約束も……」

「待った! 話がズレて来た。

 訓練機と研究員の話に戻そう」


秋山が話題を元に戻した。

「要は、研究員はジェミニ改を使って運ぶ必要無いって事です。

 アメリカの新型宇宙船7人乗りでしょ。

 あれをチャーターした方が良くないか、って事です」

一瞬沈黙。

「じゃあ、ジェミニ改はどうする?」

「訓練に使いましょう。

 訓練計画だけなら国内でどうにでもなります。

 しかし、研究員を運ぶ、それも長期と短期のミックス、更に輸送機も、となると管制センターがパンクしますよ」

「今年みたいに病気で渡航禁止とかになったら?

 アメリカ頼みだけだと危険だぞ」

「その時はジェミニ改を使いましょう。

 それに、そういう時は計画も縮小しますから、回数も人員も少なくて済みますから」

「まあ確かに。

 南極観測隊なんかも、晴海から出港するのは荷物と砕氷艦の乗組員だけで、

 研究者は飛行機でオーストラリアに移動して、そこから砕氷艦に乗って昭和基地に向かうもんな。

 うちのスタッフたる宇宙飛行士と、他所様の研究員は、宇宙ステーションで合流出来ればよく、一緒のスケジュールを過ごす必要は無いかもね」

「南極といえば、観光で行く場合もあり、その時は外国の船で行ったりする。

 確か、うちにも観光宇宙飛行の引き合いが来てたよな?」

「来てる来てる。

 中国からも来てるぞ。

 なんで自国のに乗らないんだ?」

「話がズレそうだから、中国の話はおしまい。

 とりあえず、確実な話だけすると

・実験スケジュール消化が厳しい

・国内だけでは確実に不可能

・射場建設も今から始めても稼働は最短で来年夏以降

・宇宙飛行士は30人確保したが、20人はまだ宇宙未経験で訓練計画は見直し中

 という事か」

「秋山さん、料亭通いさせられてるのに、まだまだ射場使えないんですね」

「嫌な事思い出させないように。

 開発反対とかで土地や海域が確保出来ない場合もあるし、その時の為に顔を繋いでるとこも有るんだから」

「その時の為?」

「JAXAが海域利用で漁師さんに迷惑かける時、どうしてる?」

「一緒に酒飲んで、なあなあにして済ませます!」

「言い方は悪いが、その通り。

 今回だって、反対が出たら地主さんと飲まないとならないし、土建屋さんと手打ちさせないとならない。

 あちらの政治家とも顔なじみになっておく必要がある」

「……秋山さん、段々官僚っぽくなって来ましたね」

「気にしてるんだから、言うな!

 こういうのは他に適任いる筈なのに……」

「まあ愚痴は置いといて、そういうリスクも無くする為にも、アメリカ船をチャーターしましょう」

「ソユーズもね」

「なんで?

 確かにロシア用ドッキングポートは付くけど」

「今まで、ロシアが口挟んで来なかった事有ります?」

「無いな……。

 だが、一歩譲歩すると二歩目も要求して来るぞ」

「かもしれませんが、先手は打っておいた方が良いかと」

「採用する。

 夏季にはソユーズも使わせて貰おう」

「冬は?」

「冬のロシアに行きたいか?」

「いえ……」

「そういう事だ。

 よし、諸君、訓練機は訓練機として使う、で計画練り直そう」


かくして、多数あるドッキングポートを活かし、基本はアメリカ船をチャーターしての輸送と決まった。


総理に報告すると

「アメリカは満足しますかね?」

と聞いて来た。

「NASAではなく、アメリカの民間企業と契約する事になりますが、そこは問題無いでしょう。

 諸経費込みでも、少し安くなります。

 そこが不満出ると思いますが、回数でカバーしましょう。

 何にせよ、総理に斡旋して貰い、顔合わせしている県も、今から作っても間に合わないので、来年度はどんな形であれ、アメリカ頼みにならざるを得ません」

「分かりました」

「それと、ロシアの件ですが……」

「そちらは大丈夫ですよ。

 ただ、芝居には付き合って貰います」

「芝居?」

「ロシア大統領から言い出した形にします。

 あちらに花を持たせる事で追加は防ぎます」

「それでしたら、よろしくお願いします」


かくして計画は再々修正となった。

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