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訓練計画も変更

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

現在、訓練機2機で4人ずつ8人の搭乗員候補が、3ヶ月の滞在訓練中である。

農業プラントで採れた野菜を食べ、循環した水を使い、閉鎖された室内で仲違いする事無く生活する。

その訓練が折り返し地点に入った時、管制室から寝耳に水の報せが入る。


「6人生活に変わったから」


聞いた瞬間、全員がポカーンとした表情になった。

それはそうだろう。

計画が発表された時から数ヶ月を4人だけで生活する、換えはいないから一通り何でも出来るようにしておけ、その上で専門分野は抜かり無く、といった具合で訓練して来た。

広くなった船内で、割と好き勝手に寝たり出来た。

それが急に2人増員されると言うのだ。


「なんか、プロデューサーに『メンバー追加します』と言われたアイドルグループ1期メンバーの気持ちが分かったような気がする」


これで行きます!と言われ、決意をしてやって来たのに、あっさり「増やします」だと複雑な気分になるのだ。

別に追加メンバーに含むところは無いのに。


「では6人にして、訓練やり直しですか?」

であればウンザリする。

幸い答えは違った。

「2人は短期の実験を行う為、2週間滞在したら帰還だ。

 その後、また2人と2週間過ごして、君たちも訓練終了して貰う」


南極観測隊の夏隊と越冬隊のようなものなのだ。

長期滞在のメンバーと、短期滞在のメンバーが混在する。

実運用では、3人が長期滞在として約3ヶ月生活するが、その間2週間おきに3人が交代しながら入れ替わり滞在する事になる。


「今いるチームは4人ですが、1人は交代する訳ですよね?

 誰になりますか?」

「その時の様子を見て決める。

 怪我や病気発症ならその人。

 どうしても買い出しが必要なら料理人。

 一番は、機体の管理で負担が大きい操縦士かな」


という訳で、5日後には3人が搭乗し、操縦士が外に出る事となった。




その間、秋山たちは急ピッチで短期滞在メンバーの選出に入っていた。

履歴書、研究申請書から手当たり次第に電話連絡、メール送信をする。

急遽つくばまで来られるか?

審査に参加出来るか?

審査に通ったとして2週間休みを取って、閉鎖環境訓練に入れるか?


候補を多くしていて良かったと言うべきかもしれない。

審査に来られる人数は30人程いて、面接してすぐにでも訓練に入りたいのを8人選抜。

他に、次期訓練から参加の12人を選抜した。

4日目には必要な物を持ってつくばに来て貰い、その時から24時間の消毒兼隔離兼観察。

簡易だが病気を発症しないだろうという診断の元、交代宇宙飛行士と2人の短期ミッションスペシャリストが訓練機に入る。


その日は7人になったが、歓迎会と交代する船長(飛行士で宇宙ステーション全体の機械を管理)への送別会が行われた。

交代の3人は

「宇宙食、もっと違うのを想像していた」

と驚く。

そりゃパリの星付きレストランの副シェフだったり、そういう料理人に審査会で勝った何でも作れるおばちゃんが、いい加減船内にも、そこで採れた野菜にも、使える器材にも慣れての料理である。

想像以上に美味い。


交代の宇宙飛行士は大丈夫だが、ミッションスペシャリスト候補の研究員は、宇宙ステーションの寝所に苦戦した。

棺桶から日焼けサロンにまで広くはなったが、そんな中で寝るのは慣れない。

蓋を開けて寝ると、明るい。

長期滞在メンバーは普通に生活している為、新参のメンバーは、改めて宇宙ステーションという環境で生活する辛さを理解した。




さて、交代で外に出た宇宙飛行士である。

別に「お疲れさん」で出されたのでは無い。

以前予定していた機体メンテに比べ、作業項目が増えたので、そのレクチャーと訓練が課された。

「二酸化炭素吸着フィルターのサイズが変わり、交換間隔も短くなるから」

「電池の交換も回数増えるんで」

「要員交代時に、地球に運ぶゴミの量も増える事が予想されます」

「トイレのタンクの処理も増えますが、それだけに塩素を厳重にしなければなりません」

人が4人から6人に増えるというのは、中々面倒な事なのだ。


さらに……

「ソユーズのシミュレーターが来たんで、操縦訓練ね」

「こちらはアメリカの新型宇宙船のシミュレーター。

 こちらは地上管制で特に何もする事無いけど、搭乗訓練、脱出訓練はしといて下さい」

扱う機体が増えていた。

それらからの荷物運び出しも行うし、逆にそれらとのドッキングシミュレーションも行う。

宇宙飛行士は宇宙飛行士でやるべき事が増えたのだった。


とりあえず、アメリカもロシアも金を払うなら自国の宇宙船は使わせてやっても良い、こちらの都合で計画変更させたから、それくらいは協力するとの事だった。

輸送船調達の目処も立った。


「忙しくなりますね」

「いい迷惑だよなあ」

地上管制官、宇宙飛行士、ミッションスペシャリスト、全員が計画変更に振り回されていた。

それでも「建設的な計画変更」の名の下、打ち上げに向けて微調整から大規模修正まで仕事しなければならないのであった。

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