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もしも日本が他動的な理由で有人宇宙船を打ち上げる事になってしまったなら  作者: ほうこうおんち
第1章:まったり進めようと思っていた有人宇宙飛行計画が、政治的な事情でいきなり始まった
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官公庁や政治家と関わる業務に比べて、メーカーは仕事が速い!まあ、仕様が決まってからの事なんだが

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2019年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「こうのとり」改を製作担当する企業の面々との会議の日だ。

日本初の宇宙ステーションとあって、メーカーは張り切っている。

(だり)ぃぃぃって感じの、政府やらアメリカメーカーやらに振り回されてる秋山からしたら、眩しく見える。


「実はもう、設計図を書いてまして」

 と予めファイルを送って来ているので、それを元に話し合う。


正直、小改造どころじゃない改造になっているので、予算的に大丈夫なのか、説明をしに来て貰ったのだ。


当初の予定は「そこに広い空間があって、補給物資があって、休めたら良い」くらいだった。

有人宇宙船の方もそこそこ大型を期待していた為だ。

しかし、かつてはトイレすら省略した「ジェミニ」宇宙船の後継機で、トイレは今回は付くが小型であり、宇宙ステーションの方の役割が大きくなった。

さらに「ついでだから、そこでちょっとした実験とか観測を」となり、最大1年運用となった為、改造量が増えるものと、技術畑は気づいていた。

メーカーから

「トイレ付けて、シャワー室付けて、2人分の寝床と、観測とか実験用のラックを載せる、今と同じサイズの与圧室なんて無理ですから、設計図引き直しますよ」

と連絡が来て、秋山が自分の権限でOKを出したその週の内に

「出来ました!」

と送って来たのだった。


官公庁式のゆっくりした進行に慣れていた身には、仰天のスピードだった。

「いやあ、こういうの好きでやってますからね」

非常に羨ましい発言。

秋山も

(全部自分の思う通りだったら、私もこう言えたんだが、あれをやればついでにこれも、と上から言って来るからなあ)

と自分の状況を嘆きつつ、頼もしく思っていた。


ともあれ、勝手に許可を出し、そうしたら大改修となった為、慌てて上が出て確認に来た、という訳だ。

嬉しそうにプレゼンの準備してるとこ悪いけど、金銭の話がメインになると思うよ。




簡単に言えば、直径はそのままに、与圧室と機械船が倍の長さになる。

与圧室、つまり居住部は「荷物をゴムバンドで四面に貼り付けている」輸送船の形態から、収納棚式の個室やらトイレやら実験ラックやらを置き、かつ暴露部の操作を行える操作卓(コンソール)を設置する。

さらに宇宙に出られる伸縮式のエアロックがある。

ここで本来なら暴露部のパレットに実験機器を設置し、真空・無重力での実験や耐久試験等を行い、終わったら収容する為に出入りするのだが、

「船外活動の練習と、実験装置の取り付けと、別々にしませんか?」

とメーカーの技術者が言い出した。


これまでの「宇宙服着て船外に出て、ラックに装置を持っていって取り付けたり外したりする」から、

「与圧室にラックを入れて、船内で設置してから宇宙に出す」という方式に切り替わる。

確かに宇宙服の手袋嵌めての操作よりも、中で仕事した方が確実だ。

「空気の方は大丈夫?」

運用側から当然の質問である。

宇宙で作業すると、ダストの問題は解決できる。

室内だと空気中の微細なダストが機器に影響を与えるかもそれない。


「そこは空気清浄装置をより細かにしました」

ここのメーカー、家電製品で空気清浄機とか売ってるし、民生品がそのままいけるのは日本の強みとも言える。


「はい、その通りです!

 ちょっと改造した程度の我が社の製品を使っていますが、これが宇宙でも無事稼働するなら、宣伝になりますから!」

商魂たくましい。


そういう電機製品を使う為、現在最大60日運用を見ている「こうのとり」の電池や燃料を6倍に増やす。

電池については、再充電可能とする。

太陽電池パネルをさらに改良し、大型にするそうだ。

「ISSにドッキングさせないから、相当広く展開出来ます」

「また、放熱板も増加し、船内の熱問題を解決しています」

「これにより推進モジュール、機械船部分も大型化しました」


重さが今までの単体10.5トンから、18トンにまで増大した。


「ちょっと問題がありますねえ。

 こんなに重くて、打ち上げ用のH2Bロケットで運べないんじゃないですか?」

出来るだけ既存のものを、大改造しないで済ますのが、今回の計画の重要な部分である。

ロケットまで大改修が必要なら、計画は見直したい。

(まあ、そうした方が楽だ。

 時間稼ぎで再来年以降の事業に回した方が、私は楽だ)


秋山の不埒な考えと裏腹に

「大丈夫ですよ。

 ISS軌道に運ばないで、低軌道で運用するんですから。

 高度のあるISS軌道には16トンまでのH2Bも、低軌道なら19トンと3トン分余裕が出来ますよね」

という回答。

「重量バランスは?」

「それはH2B製作の弊社から説明します」


確かに打ち上げ部分が長くなる、イコール、ロケットとして長身になり、打ち上げ時のバランスが上に偏るが、

「この程度ならば微調整で何とかなります!」

という心強い発言。


その他、浄水器(水循環装置)、二酸化炭素吸着フィルタ、電子レンジ、給湯器、等を置いたイメージ図をPCで確認する。


「なんか狭い感じだね」

「無改造なら、もっと酷かったですよ」


流石はメーカー、説得用に元のサイズで必要な設備や機械を設置したイメージ図を見せる。

「うわあ……こりゃ物置だ」

「これじゃ横になって休めないよね」

「いや、宇宙じゃ無重力だから横になるって事はなく、身体伸ばしてって事だけど、ギリギリなのかな?」


秋山は思わず「汚部屋住民」を想像した。

彼も忙しいと部屋を片付けられなくなるが、世の中には更に上がいて、ゴミの中にある僅かな空間で棲息している者もいるのだ。

だが……、

(飛行士にそれを求めるのは問題有りだろうな)


往復に使う宇宙船が既にそんな状態なのだ。

ドッキングして2週間程過ごす空間がそんなんじゃ、精神を病むかもしれない。


お偉いさんたちでひそひそ話をした後、咳払いが聞こえた。

「プレゼン、ありがとうございました。

 これはやむを得ない事と思いますので、お任せしますからその通りで進めて下さい。

 秋山君、予算の方は大丈夫??」


あれ? 渋らずに認める方針なんだ。

流石に「現状のまま使用」と「拡大改修後」のイメージ図は説得力がある。


秋山が答えようとしたら、メーカー側から

「大丈夫です。

 実は本家の『こうのとり』のチームからも、次世代機の開発の話が来てまして。

 長期運用型と重量輸送型です。

 既存機の熱が籠る問題から太陽電池パネルについても見直しが決まってますので、向こうの方からも出して貰えます」


これにはお偉いさんたち大喜び。

うちの折半って形で、大分安上がりとなった。


書類書類の仕事のうちとは違って、メーカーは仕事が速いなあ。

秋山は羨望の目で見ている。


この仕事の速さのギャップが、また一仕事入れてしまうのだから、困ったものだ。

実は作者、このモデルとしたメーカーに居た事ありまして。

今は撤退した事業で、「こうのとり」とかは関わってません。

花形の部署は仕事きっちりしてますねえ。

……自分のいた部署は…………。

悪口は書かないようにしたので、実像よりもメーカーは美化してます。

(悪口書くなら、なにあのセクショナリズム)

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― 新着の感想 ―
[一言] このモデルとしたメーカー⇒三菱様ですか?違ったらごめんなさい。三菱みなとみらい技術館のH2A(H2B?)とか見てきました。MRJのフライトシュミレーターも堪能しました。しんかい6500もよか…
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