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一回職員たちで体験してみた

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

後期訓練は、飛行士(船長)、ミッション・スペシャリスト(工業、農業)、料理人という編成で、実践に即したものとする。

その訓練メニューをスタッフが製作している。

実運用を想定する為、太陽フレアからの避難や宇宙塵スペースデブリ衝突時の避難と修理、怪我発生時の対応。

また、宇宙ステーション地産地消は3回実験の予定だが、準備用の飛行フライトがあり、第三次隊は半年以上後になる為、一旦解散して貰う。

よって、後期訓練に直ぐに入るのは8人だが、その人選作業が行われている。


一方で、日露共同飛行で、ジェミニ改・ソユーズドッキング実験も再開している。

以前のアポロ・ソユーズドッキングの時にアポロ宇宙船が付けたアダプターに該当する役割を、中間輸送機「のすり」で行うが、その製作も終盤に掛かっている。

(地産地消計画にあまり関わらないロシアスタッフが居るのは、こっちの計画の為)


最近はスタッフも事務に慣れて来て、秋山はかなり楽になっている。

そんな秋山に、魔の誘いの声が……。


「一遍、我々も乗って、体験してみないか?」


NASAから派遣された職員が言い出し、ロシアスタッフも賛成した。

そしてフランス、CNESからの常駐であるミュラ氏も賛成。

かくして日米露仏のオッサンチームが、封印・メンテナンス中の農業モジュールを外した現訓練機に3日くらい滞在してみよう、という事になった。




「広いなあ」

と感じ、半日後には

「狭いなあ」

と感じる。


二階建てになった宇宙ステーションは、容積で見れば随分広くなった。

しかし、外に出られないとなると、窓の小ささも手伝って閉塞感を覚える。

そして、高速バスサイズのトイレと、コインシャワー室並の浴場。

「無重力ならまだ良いかもしれない」

が、訓練機シミュレーターは地上にあるので、サウナスーツに湯を溜めて温浴も、立ってするしか無い。

ベッドを確かめたが、

「こうして寝てみると、日焼けサロンって言われたのがよく分かる」

前期訓練の時は「棺桶」だったのだが。

カプセル以上、電話ボックス未満のサイズに大型化され、ある程度は手足を伸ばしも出来るようになった。


「そろそろ食事だな」

「箱開けて……」

「まさか、宇宙食食うのか?」

「ダメかい?」

「作ろうよ」

「僕は作れないぞ。

 それに宇宙食は結構美味いぞ」

「アメリカ人の君はそれで良いかもしれないが、

 折角生の食材が有るのだ。

 それを食べないのはおかしい」


アメリカ人とロシア人が議論する。

聞けば2人とも元宇宙飛行士だとか。

最新の宇宙食は美味いが、だからそれで良いというアメリカ人と、それでも食材を料理しろというロシア人。

そしてアメリカ人が「そこまで言うなら、自分も美味しいもの食べるのに問題は無いからね」と妥協した。

きっと逆は無いであろう。


「じゃ、ムッシュ、よろしくな」

「待て! 君が作るんじゃないのか?」

「元宇宙飛行士で元軍人の僕じゃ、美味いボルシチは作れない。

 折角フランス人が居るなら、料理して貰おうか」

「私はヘルシーな和食でも良いぞ、ミスターアキヤマ」

「私まで巻き込まんでくれないか……」


こうなるとプライドにかけて引かないフランス人。

「良かろう、我がフランスの実力を見せてやるよ」


そして携帯電話を手に取り

「シェフ、大至急訓練機に来て欲しい。

 皆が君の料理を求めている」

「おい、汚いぞ!」

「それ、有りか?」

「私は『フランスの実力』と言ったのだ。

 私の実力とは一言も言っていない。

 それに、折角プロが居るのだから、プロに頼んだ方が合理的じゃないか!」


どうせ体験乗り組みだし、5人目の搭乗も良しとなった。

横でNASAの職員が

「常駐はさせない、輸送機ミッションの時だけ、

 デリバリーシェフってのはアリだな……」

とブツクサ言っている。


今回は持ち込み制限は無い。

卵を持って来て、宇宙食のサーモン缶を具とし、ソーモン・オムレツ小松菜添えと、ジャガイモとグリーンピース(持ち込み)のトマトコンソメスープをささっと作ってみせた。

無重力想定で、皿料理はプロテインで剥がれないようにし、スープはパックに入れて吸えるようにしてある。

美味い美味いと食べている横で、持ち込みのバゲットにハンバーグ風の肉料理とミニトマトのカットを挟み、ラップで包んでいた。

「明日の朝、レンジにかけて温め直して食べて下さい」

そう言ってシェフは帰っていった。


「ハンバーガー風のとは気が利いているじゃないか!」

「サンドイッチだよ!

 どうだい、我がフランスのシェフの腕前は!

 NASAでも雇ってみないかい?」

「検討に値するね。

 一週間程度なら派遣しても良いな。

 ニューヨークの名店にスカウトに行ってみるよ」

「いや、パリの料理人使えよ!」

譲らない両者。


言い争っている2人を無視して、秋山からロシアの職員に話しかける。

「ロシア料理としては言う事は無いかい?」

「うむ、次のミッションなんだが、我々は日米に負けじとスペシャルな奴をソユーズに乗せるよ」

「ロシア料理のシェフかい?」

「宇宙飛行士だよ。

 ただ、彼には特技がある」

「何だい?」

「いくらでもウォトカを飲める、底無しなんだ。

 日本には、彼が宇宙でどれだけ飲めるか確かめるべく、ウォトカを大量に持って来て欲しい!」

「それ、スペシャルなロシア人じゃなく、

 一般的デフォルトなロシア人じゃないのか!?」

ロシア人は意味深に微笑むだけだった。

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