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魔装御前  作者: 快速丸
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 マホーンのアラームが鳴り始めた。黒菜は布団の中で唸りながら、音のする方に手を伸ばした。マホーンを手に取り、時間を確認する。7時30分だった。前のスマホのアラーム設定が生きていたらしく、黒菜はいつもの時間に起きることができた。

 黒菜は眠い目をこすりながら、寝返りをうった。すると眼前にゴエモンの顔があった。黒菜をじっと見つめている。


「うわ! 勝手に人のベッドに入らないでよ!」

「誤解だぜ。お前が寝ぼけて俺を抱き寄せたんだ。いやー苦しかったぁ」


 黒菜はそれを聞き、顔が赤くなった。確かにいつもは、ゴエモンのぬいぐるみを抱いて寝ていた。今日も、いつもの癖で抱き寄せてしまったのだろう。言われてみると、寝ぼけて、ゴエモンを抱き寄せた記憶が蘇ってきた。


「ああ、そうだ。一時的に、胸を成長させる魔法もあるから、気にすんなよ!」ゴエモンは唐突に言った。


 黒菜は、自分の胸を確認した。パジャマのシワに負けた胸は、その存在を確認できない。


「気にしてないっつの!」黒菜の鉄槌がゴエモンの顔を潰した。ゴエモンは「ぶへえ!」という声を上げたものの、そこはぬいぐるみなので、すぐ元に戻った。痛みもないようで、すぐ何事もなかったように話し始めた。


「学校に行くのか? 行きたくないなら、行かなくたっていいんだぞ?」

「ああ、そうか……」ベッドから起き上がった黒菜は、ぼんやりしながら、呟いた。


 黒菜は学校を休む、という考えは思いつかなかった。なぜなら、学校は行きたくなくても、行かなくてはいけないものだと思い込んでいたからだ。だからこそ、いじめられても嫌々行っていたのだ。


「学校なんて、人生を楽しむのに必要なものじゃない。役に立つなら、いけばいいし。役に立たないと判断するなら、行かなくていいんだ。」


 ゴエモンの言葉に、黒菜はカルチャーショック的な衝撃を受けた。自分にとって、学校は世界のほとんどで、行かないと、人生を生きていけないという固定観念があったからだ。ゴエモンは、学校なんて、人生のおまけとしか考えていないのだ。


「でも、学校に行かないと復讐できないから……」


 黒菜は学校に対する、鉛のように重い感情を、腹に抱えたまま立ち上がった。


「よーし、まずは復讐したいってわけか。いじめられてた子供の中には、魔法を手に入れても、学校にはいけないって奴もいるんだが……お前は意外と図太いな。その意気やよし! さあ、制服に着替えるんだ! 俺の目の前で!」


 ゴエモンは窓から投げ飛ばされた。



 ゴエモンの意に反して、黒菜はトイレに行って、顔を洗ってから着替えを始めた。

 黒菜は着替え中、ゴエモンを部屋の外の廊下で待たせた。


 黒菜は制服に着替え終えると、姿見を見た。綺麗な紺のブレザー制服に、背中の中あたりまで伸びた髪、前髪は自然に任せて、目の当たりまで垂れ下がっている。いつも寝不足なため、目の下にクマがある。しけた顔だ。

 せっかく魔法を使えるのだから、遠慮する必要はない。いじめっ子なんて、魔法でぶっ殺してやる! という感じを出すには、なにかが足りない気がした。


 黒菜はハッと思い出し、机の引き出しを開けた。そこにあったのは、銀色に輝く二つのドクロだ。『死神探偵ドクロ御前』のグッズで、ヘアゴムに取り付けることができる。

 黒菜は、後ろ髪を二つにわけ、それをヘアゴムでまとめて、おさげにした。そして、ヘアゴムにドクロをパチっとくっつけた。二つのドクロは、黒菜の後方をにらみつけている。

 このドクロはいじめの初期段階に『キモいんだよ!』と言われ、学校にはしていかなくなった。その頃は、まだいじめが本格化していなかったので、取り上げられたり、壊されたりしなかったのだ。

 今日、学校にこのドクロをつけて行ったら、絶対に文句を言われるだろう。しかし、それに反抗するのが目的なのだ。これは、バカないじめっ子を引き寄せる餌だ。

 黒菜は、昨晩マホーンを調べまくり、発見した魔法の使い方をシミュレーションしていた。自然と笑みが浮かんできた。

 ニヤリと歪んだ自分の顔を見て、なんと邪悪な顔だろうと思った。ちょうど『ドクロ御前』もこういう笑い方をするのだ。

 黒菜は、学校に対する暗い感情が腹のなかで沸騰し、その黒い蒸気が自分のエネルギーになるのを感じた。


「なんかワクワクしてきたかも……。よーしあいつら全員ぶっ殺してやる!」

「言っとくが、魔法で人は殺せないぞ。殺せるプランもあるが、未成年は契約出来ん」

「いや、殺すってのはそういう意気込みって事だよ。本当に殺すつもりは無いよ。ってか、殺せるプランあるんだ⁈」

「あるぜ。月額二百万以上のプランだがな」

「怖……」

「安心しろ、未成年は殺せん。お前が20歳になったら、詳しく説明してやるよ」

「なんだ、良かった。じゃあ、(学校に)行くよ」

「俺も行くぜ!」

「え? 一緒に行くの?」黒菜は驚いた。ぬいぐるみを学校に持っていくわけにはいかないだろう、と思ったからだ。

「大丈夫だ! 使い魔になった俺は他人には見えない! 触れるけどな!」

 そういうと、ゴエモンは、ベッドから、浮かび上がり、部屋中をとびはじめた。


「しかも飛べるから、持ち運びの心配はないぜ!」ゴエモンは照明の周りをくるくる飛んでいる。

「うわ、便利……」

「使い魔は飛ぶべきだぜ!」

「まあ、アニメのゴエモンも飛べるから、いいか……」


 黒菜は、学校に挑戦する気持ちで、家を出た。ゴエモンは飛んで、黒菜について行った。


「あ、そうそう。何度も言うが、月額七千円のプランでは、魔法で人を殺したり、生き返らせたり、金を稼いだりはできないからな?」

「直接的には……でしょ? いいよ、殺すつもりは無いし」

「そりゃ良かった」


 昨晩何度も聞いたことだ。耳にたこができそうだ。それとも、人を殺したければ、もっと高いプランには入れ、と言う勧誘なのか? と黒菜は勘ぐった。


 ゴエモンの言葉をさらりとながす黒菜を見ながら、ゴエモンは家を振り返り、不思議に思う。黒菜の家族に一度も合わなかったことだ。


(中学生の娘を放っておいて、親はなにをしているんだ?)


 学校の下駄箱を見ると、黒菜は早速、自分の上履きがないことに気づいた。これはいじめではなく、昨日、テレポートで帰った時、上履きを履いていたからだ。今履いている靴は、昨日『取り寄せ魔法』で、下駄箱から取り寄せた靴だ。黒菜は上履きを『取り寄せ魔法』で取り寄せ、履いて行った。


 いつもの癖で、黒菜の心臓は、自殺しようとその心音を乱していたが、緊急防衛魔法のおかげで、死ぬほどの不整脈は免れていた。


 教室に着くと、ほとんどの生徒が登校しており、その中の4人が(いじめっ子)、黒菜を見て驚いている。制服が新調されている事と、切ったはずの髪が伸びている事に驚いたのだろう。

 だが、そんなことはどうでもいいらしい。いじめっ子たちは、黒菜を見ながらニヤニヤしていた。

 黒菜の机と椅子が無かった。どうやら、これに狼狽する黒菜の顔が見たかったのだろう。しかし、期待していたのは黒菜の方だった。早速復讐の機会が訪れたのだ。


「あんたの席はあそこだよ!」いじめっ子の一人が、親切にも校庭を指差した。その顔は勝ち誇ったようにニヤニヤしている。まあ、場所がわからなくても問題ないから、無駄な親切なのだが。


 黒菜は、その声に全く反応せず、自分の席があった場所に立ち、マホーンをいじり始めた。


 すると、まばたきをする間に、校庭から机と椅子が、黒菜の前に瞬間移動した。いじめっ子は、自分の目を疑った。目をまん丸にし、黒菜を見つめている。

 黒菜は、「ふぅ」と席に座り、引き続き、マホーンをいじった。

 次の瞬間、クラス全員の椅子と机が、消えた。椅子に座っていた生徒は、尻餅をつき、机に突っ伏していた生徒は、落下し、土下座した。いじめっ子達も、バランスを崩し、床に体を打ち付けた。

 残っている席は、黒菜の席だけだった。黒菜は、ニヤリと笑い、校庭の方を指差した。


「あれぇーー? 机と椅子があんなところにあるよー。誰のいたずらだろう?」


 ざわめく教室の中、黒菜は笑いをこらえるのに精一杯だった。

 黒菜にとっては、いじめに加担してない生徒も、ついでに教師も、自分を助けてくれない敵なのだ。その生徒達が、めんどくさそうに校庭から、机と椅子を運んでいる。我らニ年生の教室は、三階だ。三階まで机を運ぶのはさぞつらかろう。

 黒菜はそれを、椅子に座って頬杖をつき、無表情で見つめていた(内心は大爆笑)。

 いじめっ子達も、辛そうに運んでいる。黒菜は、そいつらに対しては、しっかり笑顔を向けた。いじめっ子達の顔は怒りに歪んだ。


 しかし、いじめのリーダー格の“伊達 麻紀”だけは違った。自分は軽い椅子だけ運び、机を体格のいい男子に運ばせている。男子に媚び媚びの笑顔を向け、男子の方もまんざらではない様子だ。本当に男というのは見る目がない。そいつは人をいじめるようなクズだぞ。


 黒菜は伊達を見て、機嫌がわるくなった。私に対しては、汚い声と言葉をかけ、おまけに暴力を振るうくせに、男子に対しては、甲高い声で、猫なで声を出す。

 気持ち悪いんだよ。黒菜はそういう顔を伊達に向けた。伊達も、負けることなく黒菜を睨み返した。


「ふーん。あれがリーダーか?」ゴエモンが黒菜に話しかけた。めちゃくちゃ顔が近い。


「そうだよ。よく分かったね」黒菜は、ゴエモンにだけに聞こえる声で言った。

「わかるぜ。あいつだけ気迫が違う。まあ、魔法にどれだけ抵抗できるかな? 面白くなってきたな」

「面白い?」

「全部簡単に行くより楽しいじゃねえか。ゲームだってそうだろ? ゲームみたいなものだと思えよ。どうせ殺されるわけじゃないんだ」

「たしかに……」


 黒菜はゴエモンの言葉に感謝した。今までは、殺される可能性があったが、今は緊急防衛魔法のおかげで、殺される可能性はなくなった。まさにゲームに近い感覚で、復讐を楽しめるのだ。


 授業中は案外平和だ。いじめっ子からは席が離れているし、先生の目もある。最初の勝負は昼休みだ。

 いつもなら、昼休みが来るのが恐ろしかった黒菜だが、今日は待ち遠しかった。どんな仕返しをしてやろうかと、考えるだけでワクワクした。


 ついに待ちに待った昼休みがきた。いつもなら、昼休みと同時にいじめっ子達が寄ってきて、いじめを開始するのだが、今回はまさか登校してくると思ってなかったらしく、黒菜の方をチラチラ見ながら、作戦会議をしていた。

 黒菜は、それを横目に見ながら、朝、自分で作ったおにぎり(直径20センチ)を食べ始めた。弁当箱は無い。捨ててしまったのだ。

 理由は、ある日いつのまにか盗まれていた(もちろんいじめっ子が盗んだ)弁当箱が、大量の虫入りで返ってきたからだ。黒菜は、その弁当箱を見るたび、箱の中で蠢く虫を思い出してしまうため、捨ててしまったのだ。

 虫を集める努力は買ってやろう。だから、黒菜もしっかり仕返しの方法を努力して考えてきた。


「よし、来ないなら、こっちからやってやる」黒菜はおにぎりを片手に、マホーンを取り出した。


 いじめっ子達は、四人分の机を向かい合わせ、楽しそうに弁当を食べている。標的は、虫入りの弁当箱を渡してきた『山田 那由子』だ。

 那由子は、メガネをかけたひょろ長い体型で、目がくぼんでおり、病的な目つきをしている女子だ。そんなイメージに似合わず、たまに父と釣りに行くらしい。だから、虫には慣れていて、弁当箱に虫を入れるなんて嫌がらせを思いついたんだろうと黒菜は推理する。

 

「さて、どうなるかな?」


 黒菜はにやけながら、那由子に魔法をかけた。


 いじめっ子達の笑い声が聞こえる。那由子も笑っている。しかし、その笑いは消え、口をモゴモゴし始めた。


「どうしたんですの那由子?」伊達が笑顔のまま聞く。


 那由子は口に手を当て、食べていたものを手にだし、それを凝視した。その瞬間……


「きゃああああああああ!」那由子は叫び出し、手の中のものを放り出した。


 手に持っていたのは、自らの歯で噛み砕かれたムカデだった。ペッペとムカデの破片を吐き出し、自分の弁当箱を見た。その弁当は、米が蛆虫に、卵焼きはスズメバチ、ウインナーはムカデに変わっていた。虫達は弁当箱の中でうごめいている。


「ちょっと、どうしたんですの? 食べ物に何か入っていたの?」


 伊達は心配そうに那由子を見ている。彼女が持つ箸の先には、ゴキブリが掴まれていた。


「い、いやああああああ!」那由子は一目散に廊下に出た。そして、口をゆすごうと、蛇口をひねった。


 蛇口からミミズが大量に出てきた。その勢いは凄まじく、またたく間にシンク内に広がっていった。


「わぎゃあああああ!」那由子の叫びは止まらない。彼女は混乱して、どこかへ走っていってしまった。


 もちろん、食べ物や、水がミミズに見えるのは、幻覚である。黒菜が幻覚魔法を使ったのだ。三人は、不思議な気持ち半分、心配な気持ち半分の表情をして、那由子を追いかけていった。その光景をニヤニヤしながら黒菜は見ていた。伊達だけは、教室を出る直前、訝しげな目を黒菜に向けてから、那由子を追いかけて行った。


「すげぇ声だったな。ありゃ本気で恐がっていたぜ」伊達が出ていった扉を見ながらゴエモンが言った。

「那由子の見てる映像、見れるんだよね?」

「ああ、見れるぜ。視界ハックって魔法だ」


 黒菜は視界ハックを那由子にかけた。那由子の視点が、マホーンに映る。


「うわ、きもい!」


 黒菜はそういうと、すぐに映像から視線をそらした。映像は凄まじいもので、視界に入る水や、植物が全て虫に見えていた。モザイクなしには見られない映像だ。というわけで、映像にはモザイクがかかっていたことにする。


「ふふふ、あぁ気分いい」黒菜はそう言いながら、大口を開けて、おにぎりを頬張った。


 後日、那由子は精神病院に入院することになった。すぐに退院しても復讐の邪魔になるので、黒菜はとりあえず、いじめっ子全員に復讐するまで、那由子の幻覚魔法は解かないことに決めた(復讐が終わったら解くとは言ってない)。

 いじめっ子はあと三人。


「次の標的は?」


 5時限目の授業中、ゴエモンが聞いてきた。


「うーん。伊達は最後にしたいから。神崎とデブかな」デブの名は横井だ。

「ほう、リーダーは最後にするのか?」

「うん、他の奴らを登校出来ないようにして、一人になった伊達を見てみたいしね」

「結構鬼畜だな、お前」ゴエモンはニヤリと笑う。

「あいつらが私にした事に比べれば、屁みたいなもんでしょ?」

「違いねぇ」


 放課後、帰りの会が終わった後、黒菜は席で待っていた。もちろん、いじめの誘いをである。

 しかし、いじめっ子達は、生徒たちが帰った後も、何やらヒソヒソと話していた。その目線は黒菜をチラチラと見ている。

 黒菜はめんどくさくなり、立ち上がった。そして、いじめっ子の方へ歩み寄り、言った。


「今日は遊ばないの?」


 その言葉を聞いたいじめっ子の一人、横井が衝動的に立ち上がった。

 横井は、上背こそないものの、横幅があり、力士のような見た目だった。顔と体のパーツ全てが脂肪でパンパンに膨れていて、指先まで破裂しそうなほど膨れている。力士が制服を着ているとしか思えない、女子としてぎりぎりラインのデブだった。その圧力は、小柄な黒菜が恐怖を感じるには十分である(魔法がなければ)。

 次に神崎が立ち上がった。神崎は中肉中背、身長も平均、見た目も美人では無いが、ブスでも無い。陸上部だが、黒菜のいじめに時間を費やしているため、練習がおろそかになり、実力がつかない馬鹿だ。

 最後に伊達が、ゆっくりと立ち上がった。立ち上がる際、金髪のポニーテールが揺れた。そのポニーテールは、毎日丁寧にロールさせていて、朝、一体どれほど時間をかけているのだろうと、黒菜は思うのだった。


 伊達は成績も良く、演劇部でそれなりの地位にいるらしい。もしかしたら部長かもしれない。いじめ、勉強、部活、美容、と全てを完璧にこなす努力家なのだ。そして、身長が168センチあり、スタイルもいい。おまけに家が金持ちときた。

 黒菜は、もし生まれ変わるなら、伊達に生まれ変わりたいと思ったことがある。まあ、これから味あわせる地獄を思えば、そんな気は湧いてこないが……。


「横井さん。こいつを運んで」伊達が澄ました顔のまま言った。


 横井は返事もせず、黒菜の襟を掴み、引っ張った。単純な力仕事は、横井がほとんどで、黒菜にあざを作ったり、骨折させたりするのは、横井の仕事だった。

 黒菜は横井の力に抵抗せず、引っ張られるままに足を運んだ。

 どうせ、旧校舎の女子トイレだろうと黒菜は思った。案の定だった。


 三人に囲まれ、黒菜は旧校舎のトイレに連れていかれた。旧校舎なので、汚いボロボロのトイレで、全て和式。窓から、夕日が差し込んでいる。

 黒菜は、いじめっ子っていうのは、何でこんなにトイレが好きなんだろう? と思った。(ああ……脳が糞で出来ているから、本能的に便器を求めるのか)


 ゴエモンはふわふわと浮かびながら、それについて行っている。


 横井は、黒菜を窓際に投げ捨てた。黒菜はつんのめったが、壁に手をつき、転ぶ事は避けた。なにせ、床が汚い。


「調子乗ってんじゃねぇよ!」横井はそういうと、黒菜の顔面に鉄拳を見舞った。


 黒菜は思わず目を閉じたが、緊急防衛魔法が発動し、鉄拳は黒菜の1ミリ手前で止まった。


「あれ?」横井は手応えのなさに不思議な顔をした。まるで空気を殴ったような感覚だった。


「待ちなさい、横井さん。黒沢さんには聞きたい事があるの」伊達が言葉を挟む。鉄拳は寸止めしたと思ったようだ。


 伊達はなぜか、いじめの相手でも『さん』をつける。癖なのか、ポリシーなのか?


「黒沢さん! あなた、那由子に何かしたでしょう? 薬でも盛ったの?」伊達の声は低く、男子に媚びるような高い声を出していた朝とは全く別物だ。


 黒菜はプッと吹き出した。


「薬って、あははは! やばい、思い出させないでよ。山田さんの顔、けっさくだったなぁ!」黒菜は、大して面白くなかったのにも関わらず、大声であてつけるように笑った。


 横井は切れて、またしても鉄拳を放ってきた。黒菜はそれを見ると、「幻覚魔法開始」と呟いた。


 横井の拳は黒菜の顔面に入り、黒菜を壁に叩きつけた。もちろん幻覚だ。

 実際は、拳は窓ガラスを割り、その破片が横井の拳に刺さっていた。黒菜はそれを見ながら、


「全然痛くない。本気でやったら?」と横井を挑発した。


 横井は憤慨し、さらに拳を窓ガラスに叩きつけた。今度は割れたガラスの尖った部分を殴ったため、拳に破片が食い込んだ。しかし、幻覚のせいで痛みを感じていないのか、横井はパンチをやめない。何度も何度も窓にパンチを繰り出し、ガラスがなくなると、窓のヘリを殴り出した。

 拳の血を撒き散らしながら、頭突きまでしている。黒菜はその様子を見ながら、「効かない、下手くそ」と挑発し続けた。

 伊達と神崎は、わけのわからない横井の暴走を、口をあんぐりと開けて見ていた。


「ちょっと、横井さん!」伊達がやっと口を開いた。

「横井! な、何してんの!」神崎の声は恐怖に震えていた。


 二人の声は横井には届かない。黒菜は狼狽する二人に言った。


「この人おかしいよ。病院に連れて行ってあげたら?」と、横井を指差し、ニヤリと笑う。


 伊達と神崎は、黒菜を憎らしく思いながらも、血を撒き散らす横井を放っておけず、止めに入った。二人は横井の腕を一本ずつ掴み、その暴走をなんとか止めようとしている。しかし、横井の暴走は止まらない。

 黒菜は三人のコントを横目に見ながら、トイレから出て行った。そして、「幻覚魔法解除」と呟いた。


 横井はやっと、自分が窓のへりを殴っていることに気がついた。血だらけの両手が視界に入る。ガラスの破片が刺さりまくり、肉が切り裂かれ、全ての指があらゆる方向に咲き乱れていた。その手が自分の手だと自覚した瞬間、横井は叫び声をあげた。


「ぎゃあああああいだいよおおおぉぉぉぉぉ!」


 黒菜は、旧校舎を離れながら、その叫び声を聞いた。叫びは泣き声に変わり、学校を出るまでその声は聞こえた。黒菜はそれを思い出しながら、いい気分で下校した。


「学校で良かったな。でなきゃ近所迷惑だ」ゴエモンは黒菜の頭に乗っている。

「本当……あ、救急車だ」


 二車線の道路を救急車が走っていた。もう暗くなった空の下、赤いランプをくるくる光らせながら、学校に向かっている。黒菜は救急車にむかって「本当、お疲れ様です」と言った。


「でも、言葉で言うだけでも、魔法を使えるなんて便利だよね。マホーンを使ってるところを見られる心配ないし」

「基本的にマホーンは、スマホの機能を応用してるからな。スマホの機能を魔法で強化してるんだ。今回のは、いわゆる音声操作だ。タイマー機能だって使えるし、カメラも魔法と組み合わせれば、地球の裏だって撮影できる。いろんなアプリと組み合わせてみろ、おもしろいぞ」

「うん」黒菜はマホーンを見ながら歩いた。しかし、歩きスマホをしている人間にぶつかられ、ムカついた経験を思い出し、マホーンをポケットにしまった。


 黒菜は、テレポートを使わず帰ってきた。自宅についたところで「そういえば、テレポート使わなかったな。なんでだ?」とゴエモンに言われた。「早く言ってよ!」黒菜はテレポートを使えばよかったと後悔した。


 自宅はやはり真っ暗で、家族は帰っていなかった。ゴエモンは、首をかしげた。


「おい、親は何やってんだ? いつになったら帰ってくるんだよ?」

「さあね、仕事が忙しいから……」黒菜はゴエモンを見ようとしない。


 黒菜は家に入り、真っ先に台所に向かった。電気をつけ、冷蔵庫を開ける。目的は飲み物だ。

 紙パックのオレンジジュースを取り出し、コップに注ぐ。オレンジの爽やかな香りをかぎながら、オレンジジュースを一気に飲み干した。「ぷはぁ」と満足げにコップを置くと、その隣に1万円札とメモが置いてあることに気付いた。


『ゴメンね。また何日か帰れそうにない 母より』メモにはそう書いてあった。


 黒菜は一万円札をポケットにしまい、メモをクシャクシャに丸め、ゴミ箱に向かって投げた。メモは壁に反射し、ゴミ箱にすっぽり入った。


「ナイッシュー!」ゴエモンが短い手で拍手をする。ポンポンと布同士が当たる音がした。

「いい親だな、一万円もくれるなんて。飯代って事だろ?」

「小遣いも入ってるよ」黒菜は無表情で返し、「いつも私にはお金だけ」と付け加えた。


 ゴエモンは、黒菜の機嫌が少し悪くなっていることに気がついた。階段を上がる足音も、心なしか大きくなっているような気がする。


 黒菜は部屋に入るなり、扉を閉めた。ゴエモンはまだ部屋の外だ。


「着替えるからまってて」扉の向こうから声が聞こえる。

「だから、お前の裸を見ても、俺は何も感じないって言ってんだろ?」

「いいからまってて!」


 ゴエモンは扉の前で肩をすくめた。


 扉を開けた黒菜は、暖かそうなパジャマ姿だ。ゴエモンは部屋に入ると、早速ベッドに飛び乗るのであった。


「なに? そこ気に入ったの?」

「いや、元からここにあったぬいぐるみだからな。ここにいるのが落ち着くのさ。俺も、お前も」

「ああ……」なるほど、と黒菜は思った。使い魔の性格は、自分に合うものが選ばれる、と言う意味が少し理解できた気がした。……しかし、本当の意味はまだ理解できていない。


 黒菜は、ゴエモンを背中で潰しながらベッドに寝っ転がった。「むぎゅぅ」と言う声がした。

 寝ながら、マホーンを見て、今日の成果を思い出した。

 たった1日で、山田那由子と横井デブ(名前忘れた)の二人を病院送りに出来た。黒菜はそれを思い出し、ニヤリと笑った。


「ふふ、あいつら今頃悔しがってるだろうなぁ」

「悔しがってるところ、実際に見れるぞ」

「え? まじで?」黒菜は上半身を起こし、ゴエモンを見た。

「魔法の種類で、『機械を操る』ボタンを押して、『自分のマホーン』を選べ」


 黒菜は言われるがまま操作した。


「で、カメラをタップ。そしたらマップが表示されるだろ? そこに観察したい対象の名前を入力する」

「わかった……」


 言われるがまま操作すると、マップに横井の居場所と、顔写真が表示された。場所は病院だ。そして、横井の顔写真をタップすると、『この人を表示しますか? はい いいえ』と出た。 黒菜は『はい』を押した。

 すると、病室が映し出され、ベッドに寝ている横井が映し出された。カメラの視点は、真上だった。


「カメラの位置も調整できるぞ。あ、言っとくが、実際にはカメラは存在しないから、相手に見つかる事はない」

「ふーん、じゃあちょっと斜め上にしようかな」


 黒菜はそう言い、視点を操作した。視点が動くと、ベッドの横に人がいるのがわかった。横井の両親のようだ。

 横井の母親は、病院食を横井の口に運んでいる。横井は、上半身だけ起こして、包帯でぐるぐる巻きの手を膝に置き、病院食に食らいついていた。心なしか、少し嬉しそうな顔をしているような気がした。

 横井がうっかり手を動かし、痛がると、両親は心配し、横井の肩を撫でた。

 黒菜はそれを見て、なんだかイライラした。


「ねえ、ゴエモン。カメラ越しに魔法をかける事ってできるの?」

「出来るぜ。そいつの両親に魔法をかける事もできる。便利だろ?」

「うん、それじゃ……」


 黒菜は、横井の両親の顔を見た。こいつらが、自分をいじめる横井を産んだのか。


「両親に無視される魔法でもかけてやるかな。ふふふ……」黒菜はそう言うと、カメラの映像を画面の半分に押しやり、魔法を選び始めた。上半分が横井の映像、下半分が魔法を選択する画面になっている。


「おい、もう帰るみたいだぜ」


 ゴエモンに言われ、黒菜はカメラを全画面に戻した。確かに、横井の両親は帰るようだ。

 

「魔法を選ぶのに時間をかけ過ぎちゃった……」黒菜はそう言いながらも、心のどこかで安心していた。


「まあいいや、次行こう」


 次に黒菜は、那由子の様子を見た。こちらは大した怪我もなく、ベッドで本を読んでいた。ただ、食べ物が運ばれてくると、狂ったように叫び声をあげ、病室内を逃げ回るので合った。

 

「こちらは順調だね」黒菜が言った。

「いや、さっきも順調だったろ?」ゴエモンが言うと、黒菜は「まあ、そうか」と返した。


「でも、もしかして……」黒菜はそう言い、病室の外へと視点を移動した。


 案の定、那由子の両親が病室の前で医者から話を聞いている。母親は泣きながら話を聞いている。


「ったく。どいつもこいつも……」

「普通のことじゃねえか」

「だって、私が骨折させられた時には……」


 黒菜はそこまで言うと、言葉を止めた。


 黒菜は、横井に手を踏みつけられ、小指を骨折した時があった。その時は、歩いて病院に行き、親からもらったお金で治療代を払った。それだけである。両親には報告していない。包帯がまかれた手を、両親が見る機会は無かった。

 自分が報告しなかったから、両親は黒菜の骨折の事実を知らない。しかし、報告しても、仕事が忙しくて構ってはくれないだろう。構ってくれたとしても、仕事の邪魔をするなと怒られるだろう。そんな思いから黒菜は報告しなかった。


「とりあえず、次は伊達をみよう」黒菜はイライラした気分を変えるべく、マホーンを操作した。


 マップに映った伊達の家は、まさに『お屋敷』だった。真上から見るマップの視点だと、市役所と見紛うほど大きい。他の住宅からは、森で分断され、かなり距離を取っていた。


「お高くとまってますねー」黒菜は思わず呟いた。


 黒菜はゴロンと転がり、仰向けになった。


 伊達は部屋で勉強をしていた。部屋は洋式で、フローリングの上に、高級そうなマットが敷いてあった。そこは勉強部屋らしく、机と本棚以外はない。かなりスペースが余っていた。


「まじめに勉強してるねー。それとも、私をいじめる作戦でも練ってるのかな?」

「いや、数学みたいだぜ?」ゴエモンが口を挟んだ。

「わかってるよ。言っただけ!」


 伊達は勉強をしているだけで、何も変化が無く、つまらなかった。


「つまらないなぁ……なんかいたずらしようかな……」

「いじめの復讐はしないのか?」ゴエモンは黒菜の顔を覗き込んだ。

「復讐は学校で本格的にやりたいの。学校でってのがポイントなの。わかる?」

「わからん」ゴエモンは肩をすくめる。

「学校でやることによって、いじめの天罰って感じを出したいの! 今やったら、ただの不幸な出来事になっちゃうでしょ?」

「ああ、そう言う感じか……なんとなくわかった」ゴエモンは黒菜と一緒に寝転び、マホーンを見た。


 黒菜がどんないたずらをしようかと考えていると、伊達に動きがあった。椅子に座ったまま背伸びをし、スマホを手に取ると、立ち上がり、電話をかけ始めたのだ。ちょうど七時くらいだ。


「あ、電話かな? 誰にだろう?」

「カメラを近づけてみろ。聞こえるようになるぜ」ゴエモンが指を指す(猫のぬいぐるみなので指はないが)。


 伊達は呼び出し中、ソワソワと落ち着かなく歩き回っている。


「え、もしかして彼氏かな?」

「ありえるな」


 彼氏だったら、それを利用した復讐を考えるのも面白い、と黒菜は思った。しかし、その考えはすぐに裏切られた。


「お父様、そろそろ仕事が終わる頃だと思って電話したのですが」


 電話の相手は父親だった。


『ああ、麻紀。すまないな、まだ仕事中なんだ。最近忙しくて……』電話の向こうから、会社のものと思われる喧騒が聞こえる。

「あ、ごめんなさい。ちょっと声が聞きたかっただけですの……」

『悪いな。誕生日には日本に帰れるから、いい子で待ってるんだぞ』伊達の父親の声は、心を撫でるような声で、黒菜が男に対する印象を覆すほど、優しかった。

「もちろん、当然ですわ……」

「いじめをするのがいい子なんですかね?」黒菜がつぶやいた。ゴエモンはそれを聞いて、プッと吹き出した。

『じゃあ、夜更かししちゃダメだぞ……おやすみ』

「おやすみなさい」伊達はそう言うと、電話を切った。そしてすぐ、違う人に電話をかけた。


 伊達が次に通話したのは、母親だった。


「もしもし、お母様?」

『あら、麻紀。どうしたの?」

「いえ、そろそろ仕事が終わる頃かと思って……」

『そうなの、ごめんね。今仕事が立て込んでて、時間がないの。ここのところ、パパの部署はトラブル続きで……』母親は伊達を気遣うような声だった。その声には疲れがにじみ出ている。

「あ、それならいいですわ。ちょっと声が聞きたかっただけですから……」伊達は笑いながら言った。

『ごめんね。でも、誕生日には帰れるから安心して。パパの飛行機ですっ飛んでいくからね!』


 どうやら、母親も海外のようだ。話から察するに、父親と同じ場所にいるようだ。


「じゃあ、頑張ってください。おやすみなさい……」

『うん。おやすみ……』電話が切れた。


 伊達はスマホを見ながら、ため息をつき、部屋を出て行った。

 黒菜は「なるほどねー」と言いながら、足を組み直す。


「いい情報が手に入ったね。誕生日に、親が帰るのを邪魔しなきゃ」

「まずはそこだよな。誕生日わかるのか?」

「いや、わからないよ。でも、魔法で調べられるんでしょ?」

「もちろんだ。でも、その必要はなさそうだぜ」

「どういうこと?」

「ほら」ゴエモンはそういうと、スマホの画面に手を当てた。「このカレンダーを見てみろ」


 黒菜が言われるまま画面を見ると、伊達の机の目の前にカレンダーがあり、それにしるしが付いていることがわかった。視点をカレンダーの前に移すと、11月11日に丸がつけられている。5日後だった。


「ああ、これが伊達の誕生日かぁ。ふーん」黒菜はニヤリとうなづいた。


「とりあえず、それまで徹底的に、伊達に仕返ししてぇ……落ち込んでぇ……親に慰めてもらおうって時に、帰ってこなくなるっていう地獄パターンかな?」

「黒菜ぁ……お主も悪よのう……」ゴエモンは口に手を当て、笑い出した。

「いえいえ、お伊達さまにはかないませぬ。ホッホッホ!」黒菜もゴエモンの小芝居に乗った。


 ゴエモンと黒菜の笑い声が、部屋に響いた。黒菜は笑いながらも、少しだけ心に引っかかるものがあった


“いじめをする奴は人間じゃない、悪魔だ”


 そういう感情で仕返しをしていたのに、彼女たちの家族や家庭環境を見てしまうと、いやでも相手は人間だという事を理解してしまう。むしろ、家族に関わらず、一人で家にいる自分の方が、人間じゃない気がしてくるのだった。

 黒菜は、いじめっ子たちの家庭を覗いた事を少し後悔していた。だから、無意識のうちに神崎を見る事を忘れたのだ。

 

 マホーンを覗き込む黒菜の腹が鳴った。ゴエモンはそれを聞くなり、黒菜の腹に耳を当て「ん? なんだ? 飯の時間だって?」と腹の声を翻訳した。

 黒菜はゴエモンの額にチョップをし、ゴエモンをベッドから落とした。


「カップラーメンでも食べようっと」黒菜はそう言いながら、ベッドから立ち上がった。

「せっかく一万円もあるんだから、出前でも取ったらどうだ? 俺はピザがいいな」

「この一万円は、何日分かわからないから、贅沢できないの! 買いに行くのもめんどいしね。それとも、ゴエモンが買ってきてくれるの?」

「その必要はないぜ!」ゴエモンは机の上に飛び上がり、ポーズを決めた。


 黒菜は、そのポーズを見て直感した。


「魔法で買い物できるの?」

「もちろんさ!」


 黒菜は早速、ドッスンと椅子に座り、ゴエモンを真正面から見た。


「簡単に言うと、商品をその辺のスーパーから、瞬間移動できるんだ!」

「え? それって盗むってこと?」


 ゴエモンはチッチッチと舌を鳴らす。


「そんなわけないだろう? そこは魔法だ。ちゃんと金は払うし、向こう側の商品管理のデータもしっかり操作する」

「商品管理のデータだけ改ざんすれば、お金かからないのにね」黒菜は冗談交じりに、悪い笑みを浮かべた。

「こらこら、魔装少女が全員金払わなかっったら、経済がめちゃくちゃになるだろう?」

「今でも結構やばいと思うけど」

「もっとやばくなるんだよ! 使い方は知りたいか?」

「知りたい!」


 使い方はとても簡単で、通販と変わらなかった。違うところは、選んだ商品を買い、お金を空中に差し出すと、そのお金が減り、代わりに商品が目の前に現れるのだ。今回は一万円札を使ったので、一万円が消え、千円札と小銭がかわりにでてきた。

 価格チェック機能も付いていて、商品を選ぶと、一番安いお店を選べた。しかも、どれだけいろんな店で買っても、ビニール袋は一つだった。エコだ!

 黒菜はチルドのピザと、アイスを買った。

 ピザはオーブンで温め、ゴエモンに一切れあげた。ぬいぐるみであるゴエモンが、ピザを食べるのを見て「どこに入っていくの?」と聞くと、ゴエモンは「お前の胃だ」と答えた。


「……勝手にもの食わないでね?」黒菜は自分の体重の心配をした。


 今日の夕食は、黒菜にとって、久しぶりに楽しい食事になった。今まではずっと一人だったし、昨日は食べなかった。誰かと話しながら食べる食事が、こんなに楽しいものだと思い出すことができた。

 黒菜は、すこしだけ人間性を取り戻せた気がした。

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