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はじまりの村

…壺、それは勇者にとって割らずにはいられない魅力的なもの。

陶器で出来た壺を高く持ち上げ、床へと叩きつける。

中にはお金が入っているか?薬草が入っているか?覗き込むのではなく、割ってみないと気が済まない勇者にとって魅力的なもの。

ーーー割らずにはいられない、それが壺。


はじまりの村。ここは、勇者の生まれることと壺の生産が有名な村だ。近くの森には、女神の祠があり伝説の剣が岩に突き刺さっており、主に子供達の遊び場にもなっている。普通であれば、女神の祠で遊ぶなんて罰当たりだと思うところだが、ここの女神は大層な子供好きで村の伝承にも子供が遊ぶことがどんな祈りや祀りに勝るものだと記されているそうだ。


そんな、勇者の生まれる村で今日も悲鳴が響き渡る。

「やめろぉ!この壺は今日出荷しないといけないものなんだ!」

「離して!この壺は僕が割るんだ!」

「割るなっていってるだろ!」

自分の頭よりも大きな壺を持ち上げた叩き割ろうとする少年を必死に止める父親。この村ではごくごく当たり前な光景だ。

「お前は勇者だろ!何、村人困らせてるんだよ!」

「勇者たるもの壺割らずに何割るっていうのさ?!」

「割るんじゃなくて魔物倒せ!魔物を!いい加減旅立て!」

「嫌だ!魔物退治よりも壺割りたい!」

必死の形相で壺を割ろうとするのは、今代の勇者であるティアール。普段内気で泣き虫な彼は、勇者の宿命からか、本人の性格なだけかわからないが壺を割ることに対して凄まじい執着を見せる。もはや魔物退治そっちのけだ。主に犠牲になるのは、壺職人の父親の作った壺だ。失敗作から表面に細かな花の模様の入った美しい壺だろうがティアールにとっては関係なく全て壺ということで地面へと叩きつけられる。作る度に起こる攻防戦は、今回は父親の勝ちのようだ。一瞬の隙をついて取り返し同年代よりも小柄なティアールの手が届かないように、己の頭上へと持ち上げる。

「お父さん!酷いよ!」

「酷いのはお前だ!作るたびに壊しやがって」

大きく溜息を吐き、ティアールの頭に大きなゲンコツを落とす。


「お前も、いい加減祠に勇者の剣を抜きに行け」

「でも、僕…自信ないよ」

さっきの必死さはどこへいってしまったのか、弱々しく俯いてしまう。壺さえ絡まなければ、まだまだ内気で泣き虫で勇者とは程遠く親としても旅立たせるのは不安でしかない。だが、そうも言ってはいられないのだ。

300年ぶりに魔王が復活してからというもの、大人しかった魔物が活発になり被害が出ている。今はまだ町が襲われてはいないが、田畑が荒らされ、森へと入った旅人が何人も教会へと運ばれており、被害は日に日に増えている。この村は、女神の加護のお陰で被害は出ていないがそれもいつまで続くかはわからない。

可愛い我が子を魔王討伐なんて危険な旅には行かせたくはないが、世界を救えるのはこの子しかいないのだ。心を鬼にしても、旅だ出さなければいけない。

「ティアール、お前だってわかってるだろ?」

「でも、でも…」

自信なく俯いていたって、どうしようもないことぐらいティアール自身もわかってるのだろう。父の腰へとしがみつきメソメソしていようが、勇者である自分しか世界は救えないというのは本能的にわかっている。

しがみつく手を離させ、目線を合わせるようにしゃがみ込み俯いた顔を上げさせれば、まだメソメソとする涙を拭い目を合わせる。

「お前ならできる。父さんは信じてるよ」

内気で弱虫だが心優しく、ティアール自身が気づいてないだけで勇気がある事を父は世界で誰よりも知っている。そんな息子なら世界を救えることだってできると信じている。ほら、涙で滲んでいるが何かを決意するようにきゅっと唇を噛み締めた。やっぱり、お前はれっきとした勇者だよ。


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