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引きこもりと雪少女  作者: 詩和翔太
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元引きこもりと雪少女

 それから一週間後、六花は約束の場所へと来ることはなかった。その一週間後も、その次の一週間後も。


 そこで、晴斗は六花と初めて会った日のことを思い出した。


 コートの下に履いていた薄青色のスカート、探していた普通じゃない鍵。


 仮にこう仮定しよう。あの鍵が家の鍵ではなく、別のどこかの鍵――病室の鍵と。


 そうすれば、番号の書かれたものが付いており、腕に付けられるようになっていた鍵のことも、薄青色のスカートに見覚えがあり、それが病院で入院するときに着用する病衣と酷使していたのも納得がいく。


 それに、あの時六花は、これで帰れますと言った。そう、家に(、、)帰れるなんて一言も言っていないのだ。


 もし、この考えが正しいのならば、六花は入院していたということになる。


「この辺で大きい病院ってどこだっけ……?」


 晴斗は何か聞けるかもしれないとスマホのナビに頼って近所で大きい病院を巡った。そして、三つ目の病院で六花が入院していたという情報を得た。


「え? 六花さんはもういない……?」

「はい。もう入院されていませんね」

「えっと、退院した、ってこと、ですか?」


 人と話すのはやはり慣れていないのか、久し振りに挙動不審になりながら晴斗は尋ねた。


「いえ、そういうわけでもないんです。ここだけの話ですと、私達もどうして雨宮さんが入院されていないのか聞かされていないんです。亡くなったのではという噂もあるんですよ……」

「亡くなった……?」


 晴斗は情報をくれた看護師さんに感謝を告げ、病院を後にした。


 そして、公園のベンチに一人で座る。本来なら、隣に六花が座っているのだが、今日はいない。いや、これからもいない。


「死んだ? 誰が? 六花さんが? なんで?」


 晴斗は一人ぶつぶつと呟いていた。傍から見ればただの変人である。警察に通報されてもおかしくないほどにやばい光景である。


 六花は最後に何かを言いたげだった。もし、それがもうそろそろ死ぬかもしれないということを伝えようとしていたのなら、言いにくかったのも納得がいく。いくが、そんなことを納得したくはない。してたまるか。


 だけど、六花は約束の場所へと来ない。それに、看護師さんには退院かどうかさえ知らされていない。どうしてかは知らないが、もしそれが六花が死んでしまったからだとすれば、辻褄は合うのだ。合ってしまうのだ。


 そうじゃないと信じたい。六花は死んでいないと信じたい。ずっと一人だった晴斗にやっと出来た心から信じることの出来た友達(六花)が、死んだなんて思いたくないのだ。


「どうして、どうして来ないんだ……」


 晴斗の頬を涙が伝う。それは、先日流した嬉しさ故の涙ではなく、悲しさ故の涙だ。


 その後、六花が来ることはなかった。


 季節はもうすぐ春。雪解けとともに晴斗の前からいなくなった六花は、名前の通り雪のようだった。




 それから約一年という長い年月が過ぎていた。人によっては一年が長いかどうかはバラバラだろうが、晴斗にとっては長い一年が経っていた。


 季節は冬。丁度、あの頃、久々に外出をした頃と同じくらいの時期だろうか。雪がしんしんと降りそうなほど、はぁと息を吐けば白息となるほど寒い。まるで、六花と初めて出会ったような日と同じようで、時期も丁度去年のこのくらいで、あれから一年も経ったんだなと感慨深く感じてしまう。


 実は、あれから晴斗は少しずつ、少しずつではあったのだが学校に行くようになっていた。最初の頃は一週間に一回とかだったが、日が経つにつれ、一週間に二回、三回と増えていき、今では毎日通っている。昔の自分じゃ考えられないことだ。


 例の両親も、晴斗が学校に行くようになった! と泣いて喜ぶほどだ。親に殺意すら抱いたのはあの時が最初で最後かもしれない。というか、そうであることを祈りたいし願いたいし望みたい。


 さて、どうして今は、といっても一年前なのだが晴斗が引き籠らなくなったのか。それは、六花と出会ったことがきっかけである。六花と他愛もない話をしている内にふと思ってしまったのだ。このままでいいのか? と。


 そして、六花が入院していたと知った時に確信したのだ。このままでいいはずがないと。


 思えば、六花はよくどんなところに行ったのか? とか、どんなことがあったのか? など場所や行動を尋ねていた。その時はただの興味本位故に聞いていたのだと思ったが、それは間違いだった。入院していたということは、碌に外にも出かけられず、碌に遊ぶことも出来ない。だから、六花はそれらについて聞いていたのだ。興味本位というところは同じだが、目的が違う。


 ならば、六花が出来ないことを晴斗がやろうと思ったのだ。今度会った時にお土産話として聞かせられるように。人のために行動しようなんて初めて思ったが、友達のためと思うと不思議と嫌な気はしなかった。それどころか、六花のためならと思うとやる気さえ出てきたりもしている。え? 気持ち悪い? うん、自覚してる。


 そして、今は学校の帰り道。因みに、一人で帰っている。学校生活でも、悲しいことに一人である。つまり、ぼっちだ。友達? 六花さん以外いないよ?


 いじめの方も、大分マシになり、今ではほとんどなくなっている。引き籠ったことと、何も反応が返ってこないことからつまらないと判断したのだろう。それが本当かどうか、そんなものは晴斗には知りえないことだが、とにもかくにもいじめはほぼ消えた。それに関してはよかった。まぁ、あってもなくても行きはしただろうが。いや、ほんとだよ?


 今の晴斗には、六花という大切な友達がいるのだ。友達百人より親友一人。信じれる友が一人でもいればそれで事足りる。それで十分じゃないか。え? 蒼真? そんな奴いたっけか。もう忘れた。


 そんな下校中、晴斗はあのコンビニの前を通った。通学路なのだ。しかし、一つ困ったことがある。


 このコンビニは六花と初めて出会ったところ。故に、思い出してしまうのだ。あの頃のことを。


 確か、病室の鍵を探していたんだよな……とあの頃のことを思い出す、思い出してしまう。一年も前の話だ。だというのに、昨日のように思い出せてしまうのは、それほどあの出会いが晴斗の中で大きいものだからなのだろう。友達との出会いだ。忘れる方がダメな気がする。そもそも、友達との思い出がほぼない晴斗だ。むしろ、忘れる方が難しい。


 晴斗はコンビニの中へと入り、未だに変わっていない必需品なコーラを購入した。挙動不審な行動言動もマシになっている。コンビニ店員さんとも会釈くらいは普通に出来る。いや、日常会話も出来るよ? 言葉の綾って奴だからな?


 その後、コンビニ近くの公園へと立ち寄った。三日に一回は足を運んでしまうのは、六花が来ているのかもしれないと心のどこかで信じたいからなのか、それは晴斗にもわからない。でも、そうなのだろうとも思っている、否、確信している。


 事実、晴斗はまだ信じているのだ。六花は死んでいないと。ここに来てくれるのだと。約束したのだ。それを信じないでどうする。何が友達か。


 そして、公園の中を見渡すとベンチに一つの人影があった。距離が離れているため、誰かはわからなかったが、晴斗はもしかして……! と駆け寄った。六花がいるのではないかと思ったのだ。


 しかし、現実はそううまく出来ていない。まぁ、何が言いたいのかというと、人影は六花のものではなかった。ようは人違い、晴斗の思い込みが激しかっただけである。夢の見過ぎとも言えるだろうか。


「……そうだよな、そんなわけがないよな……」


 晴斗はため息を一つ、その場を後にするべく後にしようと歩き出した。


 すると、


「……えっ、晴斗、君……?」


 後ろから、微かにだが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。吐息混じりで、鈴の音のように優しく凛としていて、可憐な声音だ。その声を、晴斗は知っていた。それは、まさしく彼女の声。晴斗が会いたかった彼女の声。


 晴斗は振り返った。すると、そこには彼女がいた。晴斗の唯一の友達、六花が。


「――……久し振り……、六花さん……」


 晴斗は六花の名前を呼んだ。声が上擦っており、目尻には光るモノが溜まっている。目にゴミでも入ったのかな? なんて野暮なことは言わない。それは、紛れもなく涙だった。久し振りに流した、嬉しさ故の涙だ。色々な感情が綯交ぜとなって、形容しがたい気持ちを抱いていたとしても、嬉しいということだけはわかる。


「久し振りです、晴斗君……」


 六花も晴斗の名前を呼んだ。微笑みながら涙を流す彼女は、とても可愛らしくて綺麗だった。六花も嬉しさ故に涙を流しているということに、晴斗は心が温かくなった。ここまで温かいのは友達と言ってくれた時以来かもしれない。


 晴斗と六花は、再会を嬉しむようにお互いに微笑み合った。この時間が、永遠に永久に続けばいいのにと、心の底から思った。


 上空からひらひらと雪が舞い降りる。まるで、晴斗と六花の再会を祝うかのように。

ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけましたか?

とりあえず、最初に感謝を。ここまで読んでいただきありがとうございました。

『引き籠りと雪少女』、いかがでしたでしょう。初の短編ということで、どう書けばいいのかとかわからず、まぁ、『展ラブ』や『死姫』となんら変わらないんですけど、どう纏めればいいのかとか難しくも楽しかったです。

最終的にジャンルはラブコメにしときましたが、未だにこの作品がなんのジャンルかいまいちわかってません。でも、告白とか好きって言葉がないとしても、こういう形のラブコメもあっていいのでは? と思います。

引き籠りで孤独を歩む少年と、病弱で優しい名前の通り雪のような(?)少女。この二人がこの後どうなるか、それは俺にもわかりません。ただ、待ち受けるのはHappy ENDだということはわかりますかね?

この二人のその後も書いてみたい気はしますが、それはまた今度ということで。

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。

『展ラブ』や『死姫』も『引き籠りと雪少女』同様よろしくお願いします。

さて、今回はこの辺で。

それでは他の作品でお会いしましょう。ではまた。

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