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引きこもりと雪少女  作者: 詩和翔太
1/5

出会い

短編ですが、何部分かに分けて投稿します。ご了承ください。

「さっむ……! これだから外は嫌いなんだよ……。もう帰りてぇ……」


 真っ白な雪がしんしんと降りそうなくらい、はぁと息を吐けば白息(しらいき)となるくらい寒い中、八雲晴斗(やくも はると)は久し振りの、というか一年振りになるかもしれない外出をしていた。


 因みに、時刻は午後六時くらい。この時期になると、外は薄暗くなり、寒さもより厳しくなる。普段引き籠って布団でぬくぬくしてばかりいる晴斗からしてみれば寒いのも無理はないだろう。


 目的地としては、自宅から一番近い――暫く外に出ていなかったので一番近いと晴斗が思っている――コンビニエンスストアである。


 普段ならば、学校に行かなくていいと優しい言葉をかけてくれる――もしかしたら呆れているだけかもしれない――両親が、晴斗にとってはある意味で必需品なコーラを買ってきてくれるのだが、生憎と今日はそんな両親が不在。保存していたコーラも底を突いてしまった。なので、外出に対する恐怖をどうにか抑え、コンビニまで行くことにしたのだ。


 晴斗はうろ覚えな道をたどたどしい足取りで道を歩く。道中、見知らぬ建物やこんなのあったっけ? という場所に道があっているのか不安になりながらも、無事(?)お目当てのコンビニへと辿り着いた。この時点で、晴斗のHPは赤ゲージに突入してしまっている。久し振りの外出だ。瀕死になるのも仕方ないのかもしれない。いや、貧弱過ぎやしないか?


 暫く見なくても何も変わっていないコンビニに何故か知らないけどほっとしつつ、店内に入るべくドアへと向かうと、店の前でかがんでいる女の子が一人。薄青色のスカートのようなものの上にコートを羽織っている。スカートはどこかで見覚えのある気がした。が、どうでもいいだろう。かがみながらうろうろしているから、何か落とし物でも探しているのだろうか。


 普通の人なら、優しく声を掛けて一緒に探してあげるなどするだろうが、生憎と晴斗は極度のコミュ障な上に、引き籠っていたいわばニートである。そんな晴斗が女の子に声を掛ける。無理に決まっているではないか。コミュ障を舐めないでもらおう! そもそも、同性相手でも緊張するんだから! 異性とか無理だから!


 話しかけて一緒に探してあげるという一般の人からしてみればさも当然といった感じで出来るのであろうことをすることが出来ない晴斗は、少しの罪悪感を抱きながらもスルーすることを選んだ。ヘタレ? クズ? なんとでも呼んでくれ。その通りだから。


 そうして、出来るだけ女の子と離れた場所を通ってコンビニに入ろうとすると、足元に落ちていたものを蹴飛ばしてしまった。


 晴斗は蹴飛ばしてしまった何かを確認するために拾った。すると、それは鍵だった。だが、ちょっと普通じゃない鍵だ。何と言えばいいのか……、鍵付きロッカーのある銭湯の腕に付けられるタイプの鍵と言えばいいだろうか。番号が書かれたものが付いているタイプの。そんな感じの鍵だった。


 この普通じゃない鍵が女の子の落とし物とは考えにくいが、そうじゃないと断定も出来ない。ならば、この鍵が探し物かどうか本人に確かめればいいのだろうが……。


 長い時間も引き籠っていたこんな俺が? コミュ障なこの俺が? 女の子に話しかける? さっきも言った通り無理に決まってるだろ!


 だけど、見つけてしまったものをそのままには出来ない。気付いてしまったことに気付かないフリは出来ない。引き籠りでも、コミュ障でも、世間的にはクズと称されるようになってしまっているとしても、人間としてクズになったつもりはない。


 晴斗は意を決して話しかけることにした。こうなりゃどうにでもなれ! と。どのみち、一回きりの外出だ。二度と会うことはない。恥をかいたところでどうにでもなる! きっと! うん、きっと!


 す~は~と深呼吸をし、晴斗は女の子の傍へと近付く。


「あ、あの……」


 振り絞ったにもかかわらずぼそぼそとなってしまった声に、女の子は気付いて晴斗の方を見やり、こてんと小首を傾げた。いきなり話しかけられたのだ。その反応も無理はないだろう。


「何か落とし、物したりして、ませんか?」

「……は、はい。その、鍵を探していまして……」


 途切れ途切れになってしまった晴斗の質問に、女の子はちょっと間があったけど丁寧に返答してくれた。自分でもわかるほどの挙動不審ぶりだったのに返答してくれるとか、優しすぎない? でも、何この人とか思ってるんだろうなぁ。きっと、うん、きっと。


「その鍵ってさ、もしかして、これ、だったり、しない?」


 女の子の探しているものが鍵だったということに安堵し、やっぱり途切れ途切れになりながらも晴斗はそう言いながら先程拾った鍵を見せた。女の子の探している家の鍵(、、、)が銭湯とかでよく見る感じの鍵とはやっぱり考えられないのだが……。


 女の子は、晴斗が手に持つ鍵を見て、


「! これ、これです……! あの、どこで拾いましたか……?」

「え、えっと、あっちの方、です」


 女の子の質問に、晴斗は拾った場所を指で指示した。言葉で言い表せるほどのコミュニケーション能力を晴斗は持ち合わせてはいないのだ。引き籠りを舐めないでもらおう!


 今も、心臓が爆発しそうなほど脈を打っている。それほど、緊張しているのだ。人と、しかも女子と話すなんて本当に久し振りなのだ。緊張しないわけがないじゃないか! 引き籠りを舐めないでもらおう! 大事なことだから二回言いました。


 晴斗は女の子に鍵を渡した。正直、早くコーラ買って帰りたいというのが晴斗の本音だった。そして、さっさと寝たい。もうHPは枯渇寸前である。回復薬を持っていない今、早くベッドにダイブしなくては……!


「あの、鍵ありがとうございます……! これで、帰ることが出来ます……!」

「あ、それはよかった、です」


 女の子は晴斗にぺこりと頭を下げると、何処かへと行ってしまった。どうやら、女の子の探していた鍵は晴斗が拾った鍵のようだった。見つかって何よりである。


 晴斗は、人に感謝されるという経験があまりなかったので、“ありがとう”という言葉の響きに少し感動していた。


 コーラを買うために外に出て、最初はスルーしようとした面倒事に首を突っ込んで、得られたのが女の子からの感謝の言葉。これ以上の対価は、引き籠りでコミュ障な晴斗には考えられない。それほど、女の子の言ってくれた“ありがとう”は嬉しかった。


「こんな俺でも、人に感謝されること、出来たんだな」


 そんなことを独り言ちながら、晴斗はコンビニの中へと入って行った。


 そして、目的であるコーラを購入し念願の部屋に辿り着いた晴斗は宣言通りにベッドにダイブした。外が寒かったせいか、布団がいつもより暖かく感じる。


 そのまま布団に包まってぽかぽかしていると、つい我に返ってしまった。そして、次第に頬を赤く染め、じたばたと手足を動かす。


「うわぁぁぁああぁぁああ! はずかしいいぃぃぃぃぃいぃぃ!」


 コミュ障だった故に上手く喋られなかったことが! 滅茶苦茶挙動不審だったことが! 物凄く恥ずかしいのだ! 久し振りに外に出ただけでどうしてこんなに恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだ! おかしいだろ!


「でも、ありがとう……か……」


 その後、別の意味でじたばたと手足を動かした後、肉体的とか精神的とか精神的とかの疲れのお陰でぐっすりと眠れた。

はじめましての方ははじめまして。そうでないない方はども、詩和です。

さて、この度は『』をお読みいただきありがとうございます。

詩和初の短編の第一部、いかがでしたでしょう。楽しんでいただけましたか?

まぁ、友からの協力を得たので俺だけの作品ではないんですけどね。お恥ずかしい限りです。

書いたことのないジャンルに挑戦ということで、楽しく書けました。お陰で、連載作品を書かずにやってしまいました。楽しみにしていた方に申し訳ない。

さて、ここで宣伝(?)を。本作品以外にも、『兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。』、『黒の死神と白の吸血姫』などを連載しております。そちらも、ぜひお読みくださると幸いです。

この度はこの辺で。

ではまた。

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