普遍的で不変なはずの日常
キーンコーンカーンコーン・・・
いつもの様にチャイムがなり生徒達は長い授業から解放され、各々の目的のために動き始める。
俊哉の場合はいつも寝ていた。
彼は人見知りだった。
幼い頃から内気だった俊哉は、小学校の時は幼馴染みと呼べる存在が三人ほどいたものの、歳を重ねるほど会う機会は無くなり高校生になっても交友があるのは一人だけである。
そんな俊哉は、やはり自分から友の輪を広げることは出来ず、幸運にも席が隣だった澄真に救われていた。
そのため俊哉の休み時間は寝るか溜まった課題を終わらせるかの二つしかなかった。
そしてそんな学校生活に終わりを告げるチャイムがやってきた。
チャイムと同時に帰宅の準備を始める。
「シュン!行くか!」
澄真の声だ。幸運にも澄真と帰り道は同じであり、彼は中学まで所属していたバスケ部には入部していなかったようだ。スポーツは趣味の範囲で行いたかったらしく、今では校外のクラブチームで楽しく活動しているそうだ。
バッグを持ち、正門に行くとそこでもう一人の人物と再会する。
「お待たせー!」
小走りに近付いてくるポニーテールの女の子は他クラスの須野田莉子である。
莉子は俊哉の幼馴染みの一人で、澄真とは高校で知り合ったが澄真の優しい性格は円滑にこのグループを形成してくれた。その上、俊哉の人見知りな性格と澄真の純粋さで、少し危ういはずの三人グループは壊れずに済んでいた。
「友達とテストの点数で盛り上がっちゃってさ」
「こっちも俊哉の点数が悲惨らしいぞ」
「もうその話はいいってーー」
テスト直後はいつもこの話題である。そしてこの後追試までの勉強計画を立てられるまでがテンプレであった。
それから一週間の勉強計画が練られ、全て俺の家で行う事になった。
そのため帰宅した俊哉のやることは多かった。まず、数週間しっかりと整理していなかった部屋を綺麗に片付け、親には追試になったことを告げ、その勉強会を行う許可を得なければいけなかった。
ちなみに俊哉の母親はハーフであり、母自身も日本では成績が良くなく、楽天家だったために、父親ではなく母親に追試から勉強会の流れを伝えればそこまで咎められることはなかった。
一番の問題は部屋の片付けであった。ポジティブに考えれば部屋を掃除する良い機会なのかもしれないが、それを明日までにやらなければならないというのは、明日までずっと過去の自分を恨み続けるということに等しかった。
そして今日が終わり、やっと過去の自分を恨まずに済むようになった日の朝になった。
いつもの様に気だるく体を起こし、用意された朝食を食し、登校の準備を完了させ自転車に乗る。あの二人と会うまでの短い距離を行くために軽快に漕ぎ始める。
確かに前日の掃除は疲れたのかもしれないが、意識が飛びそうという程でもなかった。
ただ、そう、今日という日がどうなるのか想像していた。
もしかしたら最初に見る友の顔を想像していたとか、最初に見る花を思い浮かべたのかもしれない。
ただいつもの日常を見ていた。
日常を・・・
瞬きをするとそこは暗く、腹部がとても熱く、痛かった。その痛みを忘れたいと願うと目の前は暗くなり、自然と痛みは無くなっていた。