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種明かし

「来栖、お前は経験者だろ。経験者は厳しめにいかないとな」


 先生はそう解説してくれた。

 それはそうだなと思う。

 ただ先に言っておいてほしかったなあ……。

 というか、それだと谷口くんは経験者じゃないってことになる。

 あんなに上手いのになあ。

 白組ボールで再開される。

 さてと、敵の頼みは谷口くんで、しかもオフサイドが適用されないとなるとかなり厄介だぞ。

 だからと言っていきなりボールを取りに行くのも、みんなを信用していないみたいでダメだ。

 近くにボールが回ってきたら奪おうと思っていたら、こっちには来ない。


「来栖上手いからな。来栖の近くにパス出すなよ!」


 谷口くんが大きな声で指示を出している。

 認められてうれしいけど、ちょっと複雑だ。

 しかし、パスが回ってこなくても我慢しないと。 

 味方のほうも谷口くんのマークが増えたので、さっきみたいなプレーは生まれない。

 ボールを赤組が取り返したので、僕は下がってボールをもらいにいく。


「来栖、頼む!」

 

 白にとられないようにと強めのパスがやってきた。

 

「オッケー」


 それを左足でトラップして前を向く。

 

「来栖を止めろ!」


「ドリブル上手いのか?」


 半信半疑ながらふたりにマークをされている事実に苦笑しそうになる。

 ひとりは正面に、もうひとりは右側からボールを取りに来た。

 <クライフターン>でボールを左に出してふたりをかわすと、左からさらにひとりが距離を詰めてきたので、ボールを守るためにその彼に背を向けてから回転してかわしきる。

 <ルーレット>は本当使うタイミングが多いなあ。


「えええ、何いまの?」


「すごーい」


 女子たちの間から歓声があがったけど、喜んでばかりはいられない。

 学校の授業で<クライフターン>と<ルーレット>を出すなって怒られるかなと心配なくらいだ。

 近くにいる味方にパスを出し、前に走る。

 

「パス!」


 オフサイドにならないように注意しながらリターンパスを受け取り、ワンタッチでシュートを撃った。

 あ、強かったと思ったけどもう遅い。

 キーパーが反応できずにボールがネットに突き刺さる。


「すげええ!」


「来栖うめええええ!」


「何なんだいまの!?」


「あんなのありかよ!?」


 やばい、やっぱりやりすぎたかな。

 ちらりと先生を見ると苦笑していた。

 

「お前はバケモノかよ!?」


「何なんだよ!」


 敵味方両方から言われてゲームどころじゃなくなってしまった。

 女子のほうも僕のプレーを見ていた子が多かったらしく、黄色い声があがっている。


「来栖くんのプレー見た!?」


「すごかったね!」


「来栖くん、あんなに上手かったんだ!?」


「どうしてあんなに上手なの!?」


「かっこよかったよね!」


 驚いたりキャーキャー言っている子たちの中で、優海ちゃんだけ苦笑していた。

 ……優海ちゃんもやりすぎだと思っているんだろうなあ。

 反省しよう。

 その後、ゲームは再開されたけどやたらとパスが来たり、敵は僕の近くを徹底的に避けたりして大変だった。

 反省したのでボールが来ても二度と同じようなプレーはせず、パス主体に切り替える。

 ドリブルをはじめるふりをするだけで白組はあわてて止めに来るので、パスをさばくのはとても楽だった。

 ボールが来ない時にどうするのかが僕の課題のひとつだってコーチは言っていたけど、そのとおりなんだろうね。

 授業が終わった後、みんなに囲まれた。


「お前、何であんなに上手いの? サッカーやってんの?」


「うん、じつは……」


 隠せないと思って僕はスクールに通っていると白状する。


「スクール? クラブチームじゃなくて?」


 誰かが変な顔をした。

 クラブチームの存在は知っていても、インテルスクールのような存在は知らないらしい。


「うん。そういうスクールがあるんだ。ヨーロッパの強豪チームの公認スクールなんだって。コーチも外国人だったりするんだよ」


「へええ!」


 コーチがサッカーの本場から派遣された人だと言うと、目を輝かせる子たちがいる。

 

「道理でクラブチームで見たことないはずだよ」


 誰かが言う。

 たしかかなり上手い子だ。


「沢井くんはクラブに入っているの?」


「ああ。一応東京ヴェルベットってところに」


 東京ヴェルベットは聞いたことがあるな。

 たしかクラブの仲間もセレクションを受けたいって言っていた。


「来栖は来ないのか? お前なら六年にまじってもやっていけそうじゃないか」


 すでにスクールで混ざっているとは言わなかった。

 五年じゃレベルが違うから練習にならないと言われたのは、自慢に聞こえちゃうから黙っているほうがいいよね。


「えーっと、たしかうちのスクールからセレクションを受けられるって聞いた覚えはあったような」


 詳しい話はまだ聞いていない。


「そうなのか。じゃあ一緒にやれるかもしれないな。俺がジュニアチームにあがれたらの話だけど」


 沢井くんはそう言うと、全員が上のカテゴリーにあがれるわけじゃないのだと話す。


「うちのスクールも中学生部門はないらしいんだよね」


 だから中学に進む時までにどうしたいのか決めておくように、コーチからアドバイスされた。

 

「まあ来栖なら、ウチじゃなくて浦和レイズとかでもやっていけるか……? でも地元のクラブってウチくらいだろう?」


「うん、そうだと思う」


 東京に拠点を置いているジャパンリーグチームがひとつしかないからね。


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