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五年生になったよ

 五年生になってまず驚いたのが、優海ちゃんと同じ小学校だったということだ。


「あれ、翔くんじゃない」


 向こうも知らなかったみたいで、目を丸くしていた。


「優海ちゃん、同じ学校だったんだ」


「うん、私も知らなかった。これからよろしくね」


「うん」


 ふたりで笑いあっていた。

 新しいクラスになるのはいつも不安だけど、知っている子がいるというのはちょっと安心できる。

 ただし、一年がはじまってよく話したかというとそうでもなかった。

 男子は男子で集まり、女子は女子で固まるケースが多かったからである。

 僕はあまり友達ができなかったけど、スクールがあるので平気だった。

 それにひとりでいる時間が多いのは珍しくなんかないし。

 最初は体力テスト、その次はバレーだったけど、クラスのヒーローは谷口くんだった。

 何でも一番で運動神経抜群で、けっこうカッコイイからクラスの女子たちに一番人気があるみたい。

 しかも谷口くんはいいやつで、僕がバレー苦手だと分かるといろいろとフォローしてくれた。


「ありがとうね」


「気にすんな。困ったら俺に相談してくれよ」


 白い歯を見せる谷口くんはとても頼もしそうだった。

 新しいクラスになじめなかったらどうしようと思っていたんだけど、何とかなりそうな気がしてきたのも彼のおかげである。

 そんなクラス内で変化があったのは、体育の授業でサッカーがはじまってからだった。

 男子は十八人のため、九人ずつ赤チームと白チームに別れる。

 サッカーか、どうしようかなと僕は悩んだ。

 ろくにやったことがない子たちに比べて、僕は上手なのだと思うけど、実力を見せてもいいんだろうか。

 わざと下手なふりをするっていうのも、何だかいやな話だし……。

 迷っていると、味方の赤組からパスが来た。

 膝くらいの高さでしかも距離もわりには強すぎるパスである。

 とっさに膝を使ってトラップして、足元に落として止めた。


「えええ!?」


「うめええ!?」


 あっ、やってしまった……。

 敵味方を超えて驚きの声があがったので、僕は腹をくくることにした。

 周囲を見て、フリーの味方にパスを出す。

 たぶん会話はできないだろうから、取りやすさにだけ気をつける。

 そして前に走り出す。

 ワンツーリターンをやろうとしたのだけど、その子は他の子にパスを出してしかもカットされてしまった。

 ううん、やっぱり上手くはいかないか。

 ボールを奪いに行くか迷う。

 でも、ひとりで持ち過ぎてはいけないってスクールでも注意されたしなぁ。

 ひとりでサッカーはできないし、やったらいけないんだよね。

 味方がボールを取り返してくれると信じて見守っていると、白組はロングパスを出して、谷口くんにわたってしまった。

 谷口くんは経験者じゃないの? と言いたくくらい上手いトラップを見せて、そのままシュートを撃つ。

 キーパーは反応すらできずに点を取られてしまった。

 うーん、谷口くんサッカーも上手いのか。

 一連の流れを見ていた女子たちがキャーキャー騒いでいる。

 その中に優海ちゃんがいなかったのでちょっと安心した。

 その優海ちゃんは女子の中で一番上手いようだ。

 スクールの中でも、かなり上手いので当然かもしれないけど。

 そして赤組が攻める番になった時、味方の石橋くんが言う。


「おい、来栖。お前攻めてくれよ。お前、経験者なんだろ?」


 とぼけたって絶対信じてくれないだろうから、素直にうなずいた。


「あっちには谷口がいるからな。負けを覚悟したけど、お前がいたら何とかなるかもな」


 そうやって石橋くんは笑う。

 石橋くんがちょんと蹴ったボールを僕はもらい、とりあえず考える。

 ひとりでやったら怒られると思うんだけど、同点にするためにはひとりでやったほうよさそうなんだよな……。

 いや、ひとりの力で勝っても白けるだけだ。

 まずは味方にボールを出して「リターン」と言ってみる。

 今度はワンツーリターンが成功した。

 白組のメンバーが三人囲みにくる。

 どうやら僕はすっかり警戒されてしまっているらしい。

 スクールの子たちの三人がかりならともかく、初心者が三人がかりじゃ少しも怖くなかった。

 ただ、ここで三人まとめてかわすのはやりすぎなので、フリーになっている味方フォワードにパスを出す。

 すると先生がピーッと笛を吹く。


「オフサイド!」


 えええ、このゲーム、オフサイドあったの!?

 僕はまずそのことに驚いた。

 オフサイドは簡単に言うと、パスを出した時に敵の選手がいない状態だという反則である。

 いまのはたしかにオフサイドなんだろうけど、それ言うと谷口くんのも怪しいんだけどなあ。 

 先生ひとりで男子と女子の両方を見なきゃいけないのは大変なんだろうけどね。

 モヤッとしたものの、審判には逆らえないので相手ボールでゲームは再開される。

 女子も男子もほとんど何が起こったのか分かっていないようで、ルールを知っている子が説明していた。

 優海ちゃんだけは「あちゃー」という顔をしている。

 うん、経験者が未経験者と一緒にプレーしていて、とられたらまずい反則だよね。

 


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