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ゲーム形式での練習

 次はゲーム形式で練習だという。

 ゲームの流れをやってよかったこと、ダメだったことを教えてもらうんだそうだ。


「来栖、スペースを埋めて」


 と注意されることが多い。

 けっこう大変だぞ、これ。


「来栖、そこでドリブルするのか?」


 と言われた時はえっと思った。


「サッカーは三つのゾーンに分けることができるんだ。チャレンジゾーン、パスゾーン、守備ゾーンだ」


 何だそれと顔に出ていたのだろう。

 コーチは苦笑しながら説明してくれる。


「守備ゾーンでは確実にパスをつなげなければならない。パスゾーンは70%の確率でパスを出す。ドリブルはボールを前に運ぶためのもの。まあ敵をかわせば決定的チャンス、という場合はかわしていいが、パスを出したほうが早いだろう?」


 そう言えば自軍のゴール前ではパスやロングキックが多いし、センターラインでドリブルするプロ選手ってあんまり見た覚えがないような?

 ドリブルするよりパスを出した方が早いというのはわかる。

 僕がミニゲームで敵をかわしたのは数的有利を作るためだし……。

 

「えっと、味方の攻め上がりを待つ時は?」


 たとえばフォワードがひとり、ディフェンダーが三人で近くに味方がいない場合はパスを出すのも難しい。

 自分で持って行った方がいいだろう。


「うん、だから例外はあるさ。だが、来栖はゾーンごとの違いを知らなかっただろう?」


 コーチはおだやかに言って聞かせる。

 それはそのとおりだったので、ぺこりと謝った。


「そのとおりです。ごめんなさい。教えてくれてありがとうございます」


「うんうん、ちょっとずつ覚えていけばいいんだよ」


 怒鳴られなくてほっとする。

 ここのコーチたちは優しいし、分かるまで説明してくれるから好きだ。

 そして練習が再開されたけど、しばらくするとまた止められる。


「来栖のパスは受けとり手に優しいけど、それだけだな。会話ができていない」


 今度はマリオさんだった。


「会話ですか?」


 パスで会話って何を言っているのかよく分からなかった。

 

「そうだ。手本を見せよう」


 僕らが外に出てかわりコーチたちが中に入る。

 そしてマリオさんが仲間にパスを出す。

 

「私が右足にパスを出したのは、彼の左側にマークがいたからだ」


 次に別のコーチが他の人の足元にパスを出した。


「彼が右利きでマークに囲まれていたから、足元に出したのだ。右足でとれるように出すというのは、来栖はすでにできているな」


「……つまり出されるパスで、周囲の状況が分かる?」


「そうだ。それがパスで会話するということだ」


 疑問形で答えた僕の言葉を、マリオさんが言う。


「<ルックアップ>をしていると言っても、ゲームの中で実際に把握できる状況はかぎられてしまうだろう。だからパスの出し方でどこから敵が近づいているのか、周囲がどんな状況なのかを教えるのだ」


 全然知らなかった。

 だけど言われてみれば、僕が大好きな選手のトラップ動画、右足側にマークがいる時は左足側にパスをもらっていた気がする。

 そうか、だからあの選手はあのプレーで左足側にパスを出していたんだ!

 ゆっくりしたパスは近くに敵がいない、速いパスは敵がいる、あるいはスペースに向かって走れって意味になるのかな?

 知らなかった。

 意識してやってみよう。

 ゲームが再開されて僕は左足にパスをもらう。

 左の背後にマークがいるんだなと思い、ワンタッチでフォワードの右足に出す。

 彼の左側にマークがいるからだ。


「そうだ、それでいい」

 

 意識してみると、パスで会話をするとパスがつながりやすくなった気がする。

 そうか、パスで意思疎通ができれば、カットされないためにはどうすればいいのかも考えられるのか。

 これもまた「相手のことを考える」というやつなのかもしれない。

 あと、ドリブルをする回数が減ったかな。

 ドリブルをしてボールをとられたことはなかったんだけど、パスで隙を作ってシュートにもっていくのって気持ちいいんだよね。

 ドリブルだと僕ひとりの力なのに対して、パスだとみんなの勝利って感じ。

 無理しなきゃいけない場面以外で無理をするのは自重しよう……。

 練習が終わると、コーチにほめられた。


「来栖はボールを持ち過ぎだったが、だいぶよくなったな。どうだった、パスだけでシュートにいくのは?」


「とても気持ちいいですね。みんなで頑張ったことが上手くやれたって感じで。ゴールが決まればもっと気持ちいいです」


 別にシュートを外したことを皮肉ったんじゃない。

 ちらりと見るとフォワードの子は気にしていなさそうで、ホッとした。


「うん。ひとりよがりにならない方が、チームのリズムもよくなるだろう。来栖、成長したな」


 そう言って解散する。

 仲間たちと更衣室に向かうと、男子が話しかけてきた。


「ほんと、来栖急に上手くなってなかった?」


「来栖くん、もともとテクニックあったものね。戦い方を覚えたら、一気に強くなっちゃう感じ?」

 

 優海ちゃんに感心されたのでうれしい。 


「いままでごめんよ。無理にドリブルしたりして」


 僕が謝ると、男の子たちは笑った。


「別にいいよ。俺らも教えてもらうまで知らなかったしな」


「そーそー、大沢くんなんて初めて来た時はドリブルばかりで、パスできなかったんだよ」


 優海ちゃんがそう言って大沢くんをからかう。


「うるせー」


 大沢くん、トラップはあんまり上手くないけど、パスもシュートも上手いのに。

 意外だなあ。


「来栖がおかしいんだよ。<宇宙人>か何かじゃないの?」


 大沢くんがそう言うと、優海ちゃんがちょっとムスッとする。


「やめなさいよ、そういうの」


 彼女はかばってくれたのに悪いけど、僕にとって<宇宙人>は悪いイメージがない。

 だってあのジダーヌのあだ名だったからだ。

 誰にもまねできそうにないスーパープレーを連発するから、違う惑星からやってきた規格外の人間って意味を込めて<宇宙人>と呼ばれたらしい。

 僕もジダーヌくらい上手くなりたいなあ……。

 更衣室は男女で別れてるので、優海ちゃんたち女子とは途中で手を振る。


「来栖くん、大沢くんまたねー」


 笑顔で手を振る優海ちゃんに手を振った。


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