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スクールでの初練習

 初めての練習の日、僕は母さんに来るまで連れて行ってもらった。

 レッスン料やらスパイクやらのすべてが無料ということに、母さんはとても満足したようだ。

 そして早めに着いた僕は着替えをすませると、コーチのひとりに簡単な説明を受ける。


「このスクールはインテルミラノの公認組織だが、同時に東京ヴェルベットとも提携している。ここでレッスンを受けた選手は、東京ヴェルベットのユースチームのセレクションを優先的に受けられるんだよ」


 東京ヴェルベットは東京に拠点を持つ、Jリーグのチームだ。


「推薦枠もあるし、他のクラブも見に来たりするしね」


 プロの傘下チームに入れれば、プロ選手への足掛かりになるだろう。


「プロになるチャンスがあるんですね」


「そうだ。頑張るといい」


 はじまった練習はパスとトラップが中心だった。

 強くて速いパスを相手の右足元に正確に出し、そしてそれをトラップする。

 トラップとはボールを止めて、次に移りやすい位置に移動させる動作のことだ。

 パスとトラップは基本のひとつだから、みっちりやるらしい。

 いままでひとりで散々やってきたのだけど、誰かとやる練習は楽しかった。

 僕と組んでいる男子はパスは上手いけど、トラップはちょっと苦手らしいので取りやすいパスを考える。

 ふと思って、左足を狙ってみると上手にトラップするようになった。

 ああ、彼は左利きだったのか。

 右足を狙わなければならないと指定されているわけじゃないので、左足を狙っていこう。

 返ってきたボールを胸でトラップし、左足でパスを出す。

 するとコーチがほめてくれた。


「よし、来栖、いまのはいいぞ」


「はい?」


 見られていたのかと思って返事をすると、コーチは解説する。


「来栖は大沢が左利きだと気づいて、大沢がトラップしやすいように左足を狙ってパスを出すようになった。相手を考えてパスを出すとはこういうことだ」


「あ、そうか!」


「だからいきなり左ばかりにパスが来るようになったのか」


 大沢くん(いま初めて名前を知った)も感心している。


 両方の足を使えることは武器になるので、できるだけ両方の足でパスを出すように練習する。

 

「来栖、お前やっぱり上手いなあ」


 僕と組んでいる男子がそう言うと、僕の左隣で練習している女子がうなずく。


「上手い選手はまずパスとトラップが上手いってコーチが言ってたけど、本当なのね」


 ここだとみんなが褒めてくれるんだよなあ。

 やっぱり練習して上達したことをほめてもらえるのはうれしい。


「来栖くん、あんまりボール見てないじゃない。<ルックアップ>もできているのよね」


 特に隣の女子の優海ちゃんはかなり可愛いので、余計にうれしかった。


「<ルックアップ>の練習はたくさんしたからね」


 ボールしか見ていないよりもずっとプレーしやすくなるのだ。

 

「俺も頑張らないとなあ」


 他の子たちもそう言う。

 

「みんなプロになりたいの?」


「そうだよ。だからここに来たんだよ」


「私は決めてないかも。女子って男子と比べたらいろいろと不利だし。サッカーは好きだけどね」


 優海ちゃんは複雑そうな顔だった。

 パスとトラップの練習が終わると、次はドリブルの練習だ。

 三角コーナーを置いてドリブルしていく。


「顔を上げて! そう、来栖のように!」


 僕が手本になっていた。


「来栖、本当にすげえな」


「ああいうやつがプロになるんだろうな」


 みんなそう言いながら頑張ってドリブル練習する。


「来栖、どうやればいいんだ?」


 そう質問してくる子もいたけど、僕は返事に困ってしまった。


「ボールがどこにあるか、どうしているか足の感覚で分かるから、後はコーナーを避ければいいんだよ」


「見なくても感触で分かるようになるまで、ずっとボールを触ってればいいんだよ」


 何とかこのふたつをアドバイスする。


「感触だけで分かるようになるもんなのか」


 ずっとボールを蹴っていた結果なので、そんな簡単にはできないだろうけどね。

 一日二日でできるようになる子がいたら僕がへこんじゃうよ。

 

「来栖君、ずっと練習しているの?」


 優海ちゃんに聞かれてドキドキしながら答える。


「うん、ボールはずっと蹴っていたよ」


 寝る時とかごはんを食べる時は違うけど。


「そうなんだ。じゃあ私もそうしよっと」


「俺も」


 みんな僕のまねをすると言い出す。

 何だかてれくさいなあ。

 この中だとドリブルは僕が一番上手いのか。

 友達がいなくてドリブルの練習をたくさんしていたのがよかったのかな。

 ちょっと悲しくなったけど、いまは仲間ができてうれしい。


「来栖は飛びぬけているから、上のカテゴリーで教えてもいいんだが」


 コーチが何かぶつぶつ言っている。

 すると別のコーチが言う。


「パス、ドリブル、シュートはともかく、それ以外はちゃんと教えた方がいいだろ」


「それもそうだな」


 コーチたちは聞こえていないと思っているんだろうけど、聞こえちゃったんだよなあ。

 パス、ドリブル、シュート以外はたしかにあまりやったことがない。

 相手のことを考えてパスを出せと教わったけど、考えようにも相手がいなかったもんなあ。

 むしろここで練習している子たちのほうが上手だろう。

 たくさん勉強して、もっと上手になっちゃうぞ!


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