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〇ンテルミラノ・スクールの試験

 日曜日、父さんに連れられて〇ンテルミラノ・スクールへとやってきた。

 天然芝のグランドに男子が十人、女子が七人いる。

 僕に名刺をくれたマリオさんが僕らを笑顔で迎えてくれた。


「やあ、来たね!」


 近くには何人もの外国人と日本人の大人たちがいる。

 この人たちがコーチなんだろう。


「あれがマリオがほれ込んだ少年か」


「ああ、興奮しすぎて名前を聞き忘れたという」


 何やら声が聞こえる。

 そう言えば僕、おじさんに名乗った覚えがなかったぞ。


「こんにちは。来栖匡と言います……えーっとショウ・クルス?」


 外国人だと名前が先だとどこかで聞いたので、言いなおしてみる。


「ショウか。素敵な響きだな。さっそくだがアップしてくれるか。ミニゲームで君のプレーが見たい」


「はい」


 僕が体操服を着ているので、着替える必要はないと判断したのだろう。

 アップを済ませると赤色のゼッケンを手渡される。


「七人制サッカーは知っているか?」


「七人制ですか?」


 サッカーって十一人でやるものじゃないの?


「スペインやイタリアでは小学生は七人制を導入されるようになったんだ」


「そうなんですか」


 さすがにそんなの知らないよ。


「来栖は攻撃型ミットフィルダーを頼もう。時間は二十分。あとは自由だ。習うより慣れろでやってみるといい」


 えっ? いいの? ポジションは? フォーメーションは?

 僕はびっくりしたけど、みんな何でもないような顔をして散らばっていくので、仕方なくあいている空間に入る。

 コーチのひとりが笛を鳴らして、いきなり試合がはじまった。

 顔を上げて周囲を見ていると、八番の子がパスをくれる。

 背後から白の六番がマークに来ていると気づいていたので、ペナルティーエリア付近にいる十一番の子にワンタッチでパスを出す。


「えっ?」


 何か声が聞こえたけど、集中集中。

 十一番の子の右足に当たり、彼はあたふたともたついてディフェンダーにボールを取られてしまう。

 取りにくいパスだったのかな。

 失敗したと言うべきなのか、味方の名前も知らなければ特徴も知らないのにいきなりは無茶だから気にせずにいるべきか……。

 絞首が逆転したので、とりあえず誰もついていない白の十番をマークする。

 すると他の子にパスを出される。

 白の九番にボールが渡りそうだったけど、赤の三番が出した足が邪魔をし、白の六番がボールをとった。

 ボール欲しいけど、白の十番がおかえしとばかりに僕の右斜め後ろにぴったりとマークにつく。

 普通なら無理しない方がいいんだろうけど、きっと僕はいまテストされているんだろう。

 ちょっと無理でもいいところを見せておかなきゃと、ボールを要求する。

 味方の子たちは不安そうにしながら僕の足元にパスをくれた。

 左足でトラップした後、そのまま回転してマークをかわして前を向く。


「あれは<ルーレット>!?」


 うん、僕のあこがれの選手のひとりジーダヌの得意技である。

 普通ならペナルティーエリア付近で待っているフォワードふたりのどちらかにパスを出すべきなんだろう。

 でも、さっきのことがあるからなぁ……ここはドリブルさせてもらう。

 そのまま攻め上がると、右斜め前からディフェンダーの五番が詰めてくる。

 左方向にパスを出すと見せかけて、インサイドで右斜め前にボールを蹴り、上体をひねって方向を変えた。

 パスカットしようとしていた五番を置き去りにして僕はペナルティーエリアに侵入する。

 

「今度は<クライフターン>か!?」


 別にいま使う必要はなかったけど、使えるアピールをしておきたかったんだ。

 僕がふたりかわしたおかげで人数はこちら側が有利になった。

 キーパーはどうするだろうと思っていたら飛び出してきたので、彼の手が届かないようにループシュートを撃つ。

 ボールはきれいな放物線を描いてゴールネットを揺らす。


「す、すげえええ!」


「なんだ、いまの!?」


 赤組はもちろん、白組の子たちも集まって来る。


「わたし知ってる。<クライフターン>だよ、あれ」


 赤組のフォワードをやっていた女子が目をキラキラさせて言う。


「もうひとつのは<ルーレット>だよな」

 

 白組の男子が言う。

 ここの子たちは物知りだった。


「ゲームで使えるやつ、初めて見たよ!」


「とんでもないやつが入ってきたなあ!」

 

「基本全部ワンタッチだし!」


 僕がやっていること、やりたいこと、全部分かってくれるんだ。

 うれしくてジーンとしていると、審判をやっていたコーチが苦笑しながらやってくる。


「やれやれ、ゲームどころじゃなくなったな」


「ごめんなさい」


 みんながあわてて謝って散ろうとするのを、コーチは笑って止めた。


「いいんだ。テストは終わり。来栖は合格だよ」


「本当ですか!?」


 僕は合格できたのか!

 喜んで聞き返すと、コーチは言った。


「ああ。特待生として来てくれ。月謝は全部免除だし、ボールもシューズもスクールキット一式も、必要なものは全部こちらで用意しよう」


「あ、ありがとうございます」


 お金がかからないなら、母さんもきっと反対しないよ。


「特待生!? マジで!?」


 他の子たちも驚いている。


「これからよろしくな、来栖!」


「うん!」


 ここだと楽しくサッカーができそうだ。

 みんなサッカーが好きなんだなって思えるし。


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