後世、一つのターニングポイントと語られることになるエピソード
僕たちは後半も同じように戦い、そしてバルセロナに〇対三で負けてしまった。
バルセロナは強かった。
僕は世界レベル相手だとまだまだなのだと思い知らされてしまった。
それでも涙が出てくる。
悔しくて悔しくて、もう一回勝ちたかった。
もっと上手くやれたらよかった。
どうして僕はもっと動けなかったのだろうと思った。
負けることがこんなに悔しいことだなんて知らなかった。
苦い気持ちがいっぱいあふれてきた。
どうして僕はこんな程度なのだろうと自分が自分で情けなかった。
吹いても吹いても涙が止まらない僕の肩を、バルセロナの十番が優しく抱いてくれる。
何か言われたけど、スペイン語は全然分からない。
ただ、慰めてくれてもらっているというのは何となく伝わった。
肩を落として引き上げる僕らを、大きな拍手が出迎える。
「東京選抜、すごかったぞー!」
「泣くな十番、個人で言えばお前がナンバーワンだ!」
その大きさに僕はびっくりした。
「お前以上のバケモノなんていねえよ!」
それでも涙は止まらなかった。
優海ちゃんにかっこ悪いところを見られてしまうと思っても、この悔しさはおさまらない。
「うわあああああああああああん!」
人目をはばからずに号泣していると、仲間たちが集まってくる。
「来栖……」
「ごめんな、足を引っ張ってしまって」
違うんだ!
悪いのは僕なんだ!
僕が点をとれなかったから、みんな必死に守って、僕にパスをくれたのに!
僕が点を取れたらみんなの頑張りに応えられたのに!
「お前だけのせいじゃないよ」
「だからもう泣くな来栖……」
表彰式が行われ、僕らは銀メダルをかけてもらった。
いろいろとあいさつがあったけど、ボーッと聞いていた。
最後に集まって監督が話をはじめる。
「最後は残念だったが、これもサッカーだ。お前たちの人生はまだはじまったばかりだ。今日の負けを糧にしてレベルアップに励んでほしい」
解散して僕らは親のところへ行く。
豊島監督はなんだか少し変だったな。
負けたのにあっさりしているような、もう少し作戦を考えてくれてもよかったのに。
父さんと母さんのところに谷口くんと優海ちゃんたちがいた。
「お疲れ様」
優海ちゃんは優しくねぎらってくれて、ひかえめに言って天使だった。
「来栖、お前すっげープレーをしていたよな。あれを見ると俺もサッカーをはじめたくなっちゃったよ」
「谷口くん……」
白い歯を見せる彼を見てとてもうれしくなる。
負けた悔しさは簡単には消えないけど、少しは緩和されたように思う。
「世界は広いな。あれがバルセロナか」
父さんはどこか遠くを見ていた。
サッカーが好きだと言っても、仕事仕事であんまり見られていないはずだ。
それでも少しはいいプレーを見せられたのならうれしい。
「やりきったじゃない?」
母さんはそっけなかったけど目は優しかった。
「不思議ね。あんたは元気だったらそれでいいと思ってたけど、あれだけ悔し泣きしているのを見せられたら、こっちまで悔しくなってきちゃう」
「母さん……?」
びっくりした。
正直母さんは僕に興味がないんじゃないのかと思っていたからだ……。
今の僕にできることは全部やれたと思う。
それでも悔しい。
バルセロナのほうが上だった、強かった。
それだけの話だ。
でもやっぱり悔しい。
僕はまだ五年生だから来年もチャンスがある。
選抜に選ばれるのか、選抜が出場できるのか分からないけど、もしも出場することができたなら、今日のリベンジをしたいものだ。
来年もバルセロナが招待されるのかも分からないんだけどね。
……選ばれてほしいな。




