決勝戦
「バルセロナはここまで十九得点失点〇という完璧すぎるゲーム運びで勝ち上がってきた」
監督の言葉に僕らは仰天する。
一九得点はともかく無失点かあ。
すごいチームなんだなあ。
「現時点世界最強チームかもしれないな。そんなチームと戦う権利をお前たちは勝ち取ったんだ、おめでとう!」
やったね! 世界最強チームとの戦いだって!
監督に言われてガッツポーズをしたのは僕ひとりで、他のみんなはシンとしている。
あれ、みんなどうしちゃったんだろう?
まあいいや。
バルセロナの選手たちは決して大柄じゃないけど、なんだかとても雰囲気がある。
決勝が始まってバルセロナのパス回しがはじまった。
速くて正確で、しかも狭いところでも平気で通していく。
50−70−100と言われるエリア別パスの成功率も、バルセロナには関係ない。
何とかパスカットをと僕らは頑張っているが、バルセロナの攻撃は嘲笑うかのようにすり抜けていく。
それでも何とかシュートコースを限定し続けることで、失点を防ごうとする。
バルセロナも無理にシュートを撃とうとはせず、ボールを持ち続けていた。
これがポゼッションサッカーってやつなんだろうか。
こっちの陣地に攻め込まれている状況でひたすらボールを回され続け、ゲームの主導権を握られ続けるというのはなんていやな展開なんだろう。
強引にボールを取りに行くことを考えたいけど、それをやったら致命的な失敗になってしまうこわさがあった。
これがバルセロナか!
やがてバルセロナのシュートが出たけど、枠を外れていきゴールキックになった。
ようやくバルセロナの攻撃が終わった時、味方の選手は何人か疲れはじめていた。
ずっと攻められ続けていたんだから無理はない。
早く先制点をとって楽にしてあげたかった。
でも、バルセロナはディフェンスもすごかった。
僕がパスをもらった時、他のパスコースがあっという間に消されてしまい、ドリブルのスペースも与えてもらえなかった。
バックパスを出すのが無難という状況で、僕はドリブルを選択する。
強引でも局面を打開したかったのだ。
ところが、それは甘かった。
二人抜いてもすぐにディフェンスが現れて、タックルを決めたのだ。
「東京選抜の十番が止められた!?」
「あいつがボールを取られたのは初めてじゃないか!?」
そう、僕は自分ひとりの力でどうにかできないディフェンスと初めて対戦することになった。
「そ、そんな……」
「来栖がボールを取られるなんて、俺たちはどうすれば……?」
味方の動揺もすごかった。
そのままカウンターを食らい、敵の九番にゴールを割られてしまう。
「バルセロナ先制!」
「東京選抜が先制されたのは大会初めてだぞ!」
そうだよね、いつも僕らは先制点を取っていたもんな。
それができなくて追いかけなきゃいけなくなった。
バルセロナの選手たちは引き気味のポジションになったけど、守りに入る気はサラサラなさそうだった。
僕らのボールでゲームは再開し、すぐに僕にボールが来る。
隙らしい隙がないので、味方にパスを出しながら様子をうかがう。
少しずつ敵陣に近づいていけば、プレッシャーが激しくなってくる。
僕には敵の七番がぴったりとマークについていた。
味方からのパスが来たのをワンタッチで右サイドにいる倉田くんにパスを出す。
けど、倉田くんはあっという間にふたりに囲まれてしまい、ボールを取られた。
すごいプレスだな。
これが世界基準のディフェンスってやつなんだろうか。
敵の反撃になったので、僕らはまたみんなで自陣に戻って守備に追われることになる。
何とかパスカットして、そのままカウンターを出す。
僕が足元にボールをもらった直後、ふたりの選手に挟まれてしまう。
体当たりが激しいながらも何とか左サイドにパスを出して逃げた。
そのまま前に向かって進んでリターンパスを受け取るものの、やっぱり激しいチャージとタックルを食らう。
まるでひとつの生き物のように、次から次へとディフェンスが止めに来るのだ。
「うわああ、東京選抜の十番がボールを持てねえ!」
「バルセロナ、すごい守備!」
またしても延々とパスを回され、ついに守備を崩されて二点目をとられた。
そして前半が終了する。
「二対〇!」
「東京選抜、自分たちのサッカーをさせてもらえない!」
「バルサつええええ」
観客たちは盛り上がっているものの、僕らの空気は悪かった。
「来栖が何もできないのはやばいな」
「これが世界トップの強さなのかよ……」
あきらめムードになってしまっているメンバーもいる。