記者たちの意見
「最後はチームの差で東京選抜が勝ったか……まあサントスは思い知っただろ、サッカーはチームスポーツだって」
火野上先輩はそう言っていた。
「そう言えばそうですね。十番対ファリザのデュエルが多くて忘れそうになりました」
「おいおい」
先輩はあきれ顔をしたのであわてて言い訳をする。
「いや、でもサントスってブラジルのチームなのに、個人プレー主体じゃないですか」
「ブラジルはなぁ、ナショナル代表からしてそういう傾向がある。組織として完成されている時はあっさり敗退するくせに、能力高い選手ばかりだがチームとしては問題だらけって時はワールドカップで優勝したり……意味が分からん国だよ、あそこは」
サッカーはチームスポーツだっつうのと先輩は苦い顔で言う。
団体競技に対してよほどの思い入れでもあるんだろうか、この人は?
「もうひとつはバルセロナが勝ち上がってきましたね」
「言ったら悪いが予定調和な感じはあるな」
まあバルセロナは世界的強豪だし、年代別世代での強さはトップクラスだもんな。
最近はじまったユースのチャンピオンズリーグで優勝しているし。
「東京選抜とバルセロナ、どっちが勝つと思いますか、先輩?」
「バルセロナ」
即答された。
「即答するんですね、先輩」
「そりゃな。バルセロナは組織力は正直並ぶチームがないレベルだ。それに来栖のような超絶個人技の持ち主を封じ込める戦術を、伝統として受け継いでいるんだ。クラブとしての歴史が違う」
そういうもんなのかなあ。
日本人としては異をとなえたいところなんだが。
「不満そうだな」
「ええ。個人技が勝つかもしれないじゃないですか?」
「何を言ってやがるんだ。個人技だけで勝てたサッカーなんてもう過去の話だぞ。たしかに来栖ってやつは脅威だよ。信じられねえことをやっていると思う」
先輩はそういいながらも、自説を覆そうとはしなかった。
「だが、あいつと互角だったファリザもチーム力の差で負けたじゃないか。個人の力を輝かせるにはチームの力が必要なんだよ。そして東京選抜じゃバルセロナ相手に来栖を輝かせるのは無理だ」
そうなのかなあ?
先輩は納得しない私に舌打ちをする。
「お前だって記者やっているんだから、聞いたことあるだろ。クラブじゃ活躍できるのに、代表じゃ活躍できない選手なんてけっこう多いことを」
「そりゃクラブだと毎日練習しますが、代表だと練習はかぎられますよね。それにクラブは監督の哲学や戦術でメンバーを選んでチームを作り上げられるのに対し、代表だとビッグネームはとりあえず呼ばなきゃいけないというか、落選したら騒ぎになりますよね」
監督が自分のやりたい戦術にフィットした選手をそろえられるのがクラブチーム。
いる選手で戦術を構築するのが代表チーム。
というのが私の見解だし、しかも後者のほうが練習にとれる時間は少ないんだから、最初から圧倒的なハンデを抱えていると思う。
「まあな。だから代表とクラブチームの戦術が大きな差がないような国が強豪だったりするんだろうな」
そんなものかなぁ?
スペイン、ドイツ、イタリア以外ってどうなんだろ?
そもそもそことイングランド、フランス以外はそこまでナショナルリーグが強くないかな?
あとはトルコとかポルトガルとか、オランダとか……。
ベルギーやスウェーデンってリーグは強くないけどナショナル代表はけっこう強くない?
まあ安定した強さを維持しているチームってリーグも強いという意味なんだろうか?
「来栖は明らかに浮いているよ。まあ東京選抜って性質上、そんなチーム作りをするわけにもいかなかったんだろうが、あいつがいない時のほうが組織としてはまとまりがある」
「でも来栖がいるほうが攻撃力は圧倒的にすごいですよ」
「そりゃひとりで敵ディフェンスを叩き壊せる奴がいたら、敵のシステムや戦術はそれだけで機能不全に追いやれるからな」
東京選抜が弱ければもっとやりようはあるのかもしれないが、東京選抜の守備はなかなか組織的で堅実である。
ボールを奪ってからのカウンターは大したものじゃないだろうか。
「先輩、来栖に批判的ですよね。何がそんなに気に食わないんですか?」
「馬鹿、俺は一度も来栖を否定してねえよ。俺が言ってるのは単なる事実だけだ。つまり圧倒的すぎる個人ってのは組織をいびつにしてしまうリスクがあるってことだ。本人に悪気はないんだろうがな」
それが代表で活躍できないスター選手の話につながるんだろうか。
東京選抜にそんな空気は見られない。
いいチームだと思う。
だからこそあんな楽しそうにプレーしているし、決勝まで勝ち上がってこれたんだと思う。
バルセロナ相手でも頑張ってほしい。