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来栖VSファリザ

 後半がはじまってすぐにざわめきが起こった。

 サントスボールになった時、すぐに僕がファリザのマークについたからである。


「十番がファリザをマーク!?」


「たしかにそれしか……」


「カウンターはどうするんだよ!?」


「というか止められるのか!?」


 いろいろな声が生まれるが気にしない。

 できればファリザへのパスをカットするのが一番なんだろうけど、個々のスキルではサントスの選手のほうが上だからどこからパスが来るのか読み切れなかった。

 そもそもファリザ自体が自由に動き回るので、しっかり見ておかないといけない。

 三人がかりで敵の十番の動きを封じたところで、股の下を通してのパスがファリザに入った。


「入った! 東京選抜、十番に任せたぞ!」


「デュエルだ!」


 ファリザはステップが速く体を回転させるスピードが速く、一歩めから加速できるしフェイントも上手い。

 だが、ここでパスはないのだから守るほうとしてはまだ楽である。

 高速サイドステップには高速サイドステップには、回転には回転で、ダッシュ力にダッシュ力で応戦しながらサイドラインへ追い詰めていく。


「抜けない! ファリザが抜けない!」


「あの十番、ディフェンスもすげええぞ!?」


 当のファリザは驚くどころか、満面の笑顔だった。

 僕との一対一が楽しくて仕方がないと言わんばかりである。

 簡単に抜ける相手ばかりでつまらなかったんだろうな。

 かくいう僕も楽しい!

 こんなにボールを奪うのが難しい相手がいるなんて!

 世界は広いなあ!

 ライン上の攻防が一進一退のまま一分、二分、とすぎていく。

 そして最後にファリザはボールをヒールで蹴り上げて、背中に隠してしまった。

 やばい、ボールを見失った。

 そのままファリザは一回転して僕を抜ける。

 僕は地面を見てボールの影を探して、ファリザの体にまとわりついていると気づく。

 そして彼を追いかけたところでファリザはシュートを撃った。

 けんめいに伸ばした足が当たり、シュートは枠外へそれていく。

 審判は気づいていたらしく、コーナーキックの判定を下す。   


「なんだ今のー!?」


「ファリザが抜けきれなかった!?」


 みんながざわめいているけど、東京選抜のメンバーは違っていた。


「来栖が止めきれないなんて……」


「やっぱりあいつはとんでもねえバケモノなんだな」


 僕が仕留めれきれなかったことにショックを受けているらしい。

 ファリザってすごいなあと思ってすませているのは僕ひとりのようだ。

 これは反省して、敵の攻撃を抑えることに専念しなきゃ。

 コーナーキックを蹴るのはファリザじゃなくて敵の十番だ。

 彼が蹴ったボールは弧を描いて、ジャンプした敵味方の頭をすり抜けて、ゴールの右上隅に吸い込まれる。

 僕はそれをヘディングでクリアした。

 誰もいないところに転がったのを、吉川くんが拾う。

 そしてカウンターアタックをくり出す。

 ブラジルは三人しか戻っていないし、こっちは四人になっていた。

 最後は倉田くんが押し込む。


「東京選抜、勝ち越しー!」


「サントス、ちょっとは守備をやれよ……」


 僕らが勝ち越したことにどよめく人と、サントスが攻撃特化のままなのをあきれる人がいる。

 取られても取り返せるって判断なんだろうね。

 たしかにサントスの攻撃を抑え込むのはかなり大変だ。

 サントスの選手は何やら集まって相談している。

 そしてファリザがボールを持ったので、僕が行くとファリザは敵の十番にパスを出す。


「えっ?」


 思わず固まると、ファリザはダッシュして十番が彼に強くて長いリターンパスを出した。

 しまった。

 あわてて追いかけたけど、ファリザとの差が縮められない。

 そしてファリザを僕に任せるつもりだった味方ディフェンスをかわし、ファリザはシュートを決めてしまう。

 あっという間に同点にされた。


「三対三! サントス、アッというまに追いついた!」


「東京選抜、これはきつい!」


 何点取っても追いつかれそうなのはやばいね……。

 でもこれくらいのほうがゲームは楽しいよ。

 僕らのボールでスタートになる。

 味方は僕にボールをあずけてきて、ファリザが僕のマークにつく。


「さっきのお返しだ」


 とファリザの笑顔が言っていた。 


「また一対一だ!」


「攻守逆転だ、東京選抜の十番は抜けるのか!?」


 うん、抜くのは難しいな。

 だってお互いのスペックはほぼ互角なんだから。

 ……と思っていたけど、ファリザは守備スキルは高くなかったようで、意外とあっさり抜けた。


「え、今のは<エラシコ>か!?」


 決め手になったのは練習していた<エラシコ>という技である。

 アウトサイドでボールを動かし、相手の重心移動を見ながらタイミングよく逆方向へとかわす。

 

「ファリザをかわした!」


 ファリザが抜かれると思っていなかったのか、サントスのディフェンスがあわてて僕を止めに来る。

 そこを右サイドにボールを蹴り出し、味方にボールをあずけて前へダッシュしてペナルティーエリアに侵入する。

 そこへ味方からの早くて強いパスがきたので、左足でトラップしてそのままシュートを撃った。

 ファリザの足の先をかすめながらシュートはネットの左下に突き刺さった。

 そして試合終了のフエが鳴った。


「やった! 勝った!」


 勝てたけどやばかったなあ。

 一瞬でもシュートを撃つのが遅れてたらブロックされていただろうし。

 

「サントスが負けた!」


「今年の東京選抜つえええ!」


「東京選抜がっていうか、あの十番がやばい」


「あんな速い縦パスをこともなげに止めて、無造作に点を取ってるもんなあ」


 ファリザが僕の前に立ってユニフォームを脱いで差し出してきたので、僕もユニフォームを脱いで交換して握手をしてハグをした。

 ファリザは他のサントスの選手と違って笑顔だった。

 一方、もう一つの準決勝ではバルセロナが四対〇で勝った。


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