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敵を殴ることしか考えていないチーム

 僕たちは決勝トーナメントを勝ち上がって準決勝まで進んでいた。

 二位通過の大宮アルディーニはバルセロナとベスト16で当たって〇対二で負け、東京ヴェルベットはGグループを一位で通過したものの、準々決勝でサントスに一対三で負けた。

 僕らはそのサントスと準決勝で対戦する。

 時任くんから三点もとったチームなんて正直「うへええ」だ。

 彼以外がキーパーだったらあと四点は入ってたように思うけど。


「サントスのシステムは3ー4ー3で、全員が攻撃好きでガンガン攻めてくる。『敵を殴り倒すことしか考えていない』と言われる、超攻撃的なチームだな」


 味方のディフェンス陣がいやそうな顔をする。


「特にやばいのは敵の九番、マリオ・ファリザだ。こいつの個人技は来栖と同レベルか、それ以上だろう」


「来栖レベルだって……」


「さすがブラジル」


 みんながざわめいているけど、そりゃ僕よりすごい選手くらいいるでしょうに。


「こいつを抑えるのが条件だが、ブラジルのチームだけあって他の奴らも全員個人技がハンパない。攻撃力だけなら大会最強と見なされているバルセロナを超えている。覚悟しろ」


 ものすごい試合になりそうだなあ。

 その予感は当たった。

 まずはサントスの攻撃で、誰も彼もが積極的にドリブルをはじめる。 

 50ー70ー100ゾーンなんて誰も意に介してないみたい。

 そしてそれがすごくて、二人がかりか三人がかりか止められない選手ばかりだ。


「サントスの個人技を止めてる!?」


 観衆からざわめきから起こる。


「こっちは来栖ってバケモノのプレーに慣れてんだよ!」


「来栖以上のバケモノがそうそういてたまるか!」


 みんなそう言っているのはちょっと気になるけど、味方同士連携しあって何とか敵の攻撃を抑えていた。

 よし、カウンターのチャンスだ。

 僕はボールをもらうと前に縦パスをする。


「えっ?」


 観客から意外そうな声が上がるが、僕はちゃんとワンタッチでパスを出せるんだよ。

 それに敵の人数が多いならともかく、サントスは情報通り攻めあがってくる人数が多くてディフェンスには三人しかいない。

 広大なスペースがあり、両サイドハーフが参加すれば人数じゃこっちが有利に立って最後には吉川くんがゴールを決めた。


「来栖抜きで東京選抜が先制!?」


「馬鹿な、サントスが先制されるなんて」


 みんな驚きすぎです。


「いや、でもまだあのマリオ・ファリザがボールにさわってねえぞ」


 そう、問題はここからだった。

 どういう意図があったのか分からないけど、さっきまでのサントスの攻撃はファリザにパスが入らなかったのだ。

 でも、僕らがリードした以上は彼にボールを入れてくるだろう。

 そう思っていると、サントスは十番が右サイドの八番にパスを出し、そこからファリザにパスを出す。

 予想していたうちのサイドバックとセンターバック、さらにサイドハーフの三人でファリザを囲む。

 ところが、ファリザはあっさりと三人をかわして斜めに切り込んできて、シュートを撃った。


「ゴール! サントス、あっという間に同点!」


「やっぱりファリザは止められねえ!」


 観客が一気に沸き立つ。

 すごいプレーだよね、今のって。


「すまん、止められなかった」


「来栖相手に練習していたのに」


 ディフェンス陣が申し訳なさそうに謝ってくるけど、僕は気にしていない。


「取られたら取り返せばいいんだから平気だよ」


 今回の攻撃は僕も加わる。

 敵はフォワード三人とも守備をしない上に「殴ることしか考えていない」と言われるだけあって、ボールのキープはとても楽だ。

 そしてペナルティーエリア付近でパスをもらえたので、僕はワンタッチでシュートを撃った。


「出たーっ! ワンタッチで<枯れ葉シュート>だ!」


「これで二対一だぞ!」


「やっぱりこの試合、殴り合いになるのか!?」


 敵のチーム、こっちがリードしても全然悔しそうじゃないと言うか、全員イキイキとして反撃の準備にかかっている。

 この試合、かなり大変だなあ。

 そのあと、ファリザが個人技でディフェンスを四人ともかわされてしまい、二対二にされる。


「個人技の出し合い、点の取り合いだ!」


 決勝トーナメントは二十分ハーフなんだけど、早くも来てしまった。

 ちょっと攻撃に時間をかけすぎたかな。

 ハーフタイムになると、監督が僕らを集める。


「どうだ、やってみて?」


「強いっす。他のメンバーは人数をかけたら止められるんですが、ファリザって奴だけはどうにもならなくて」


「ほんと来栖にやられてるみたいな感覚っす」


 ディフェンス陣は悔しそうにうつむきながら感想を言った。


「あいつ止めないと勝てないけど、どうすればいいですか?」


 そんな切実な質問に監督は答える。


「作戦は一つだな。来栖、お前がファリザにつけ」


「僕がですか?」


「お前、一対一、デュエルのスキルは守備でも相当だろ」


 きょとんとする僕に監督が説明してくれた。


「たしかに負けたことないですけど……」 


 といってもスクールと東京選抜の練習だけである。

 対人経験はそんなにないので、どれくらい通用するのか分からない。


「お前がファリザを止められりゃ、一気にこっちが有利になる。うちはお前抜きでも点を取れるんだからな」


 たしかにサントスの守備はいい加減である。


「分かりました、やってみます」


 後半の作戦は決まった。

 責任重大だ、気合を入れていこう。


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