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のちの世で、伝説の序章と呼ばれることになるワンシーン

「よかったら私が知っているチームに来ないか?」


「えっと、よく知らない人には気をつけろって言われてるんで……」


 うれしいけど一応は注意した方がいいよね。

 おじさんはハッとする。


「ううむ、そうか。じゃあ名刺を渡すから親御さんに見せてくれ。許しが出たら連絡をほしい」


「親が連絡するとしたら、土日になると思うけど」


「問題ない。土日なら基本的に対応できる」


 おじさんはそう言って白い名刺をくれた。

 そこに書いてあったのは「イン〇ルミラノ・サッカースクール・ジャパン所属、マリオ・バーシ」と書かれている。


「イン〇ルミラノ?」


「おお、知っていてくれたか」


 もちろん知っている。

 イタリアを代表する強豪クラブチームのひとつだ。

 そこのサッカースクールが日本にもできていたんだ。

 これだったらもしかすると、父さんを説得できるかもしれない。


「ところで君はいったい誰に教わったんだね?」


「えっと、自分ひとりで練習していて……教えてもらったとかじゃないです」


「リアリー?」


 えっとどういう意味だろうか。

 とにかく驚いているらしいことは伝わってくるけど。


「でも君はクラブを辞めたと言っていなかったかね?」


「ええ、じつは……」


 事情を話すとおじさんは悲しそうな顔をした。


「こんな才能に気づかないとは……この国は才能を発掘する才能の重要性に目を向けるべきだな」


「とにかく親に言ってみます」


「うん、じゃあ、また会えることを楽しみにしているよ」


 僕は手をあげて立ち去るおじさんの背中を見ていた。

 もしかしたらもうちょっとサッカーができるかもしれない。

 さっきまでの暗い気持ちはすっかり吹き飛んでいた。

 ワクワクドキドキしながら家に帰って、さっそく母さんに名刺を見せて頼む。


「ねえ、母さん。僕、ここに行ってみたい」


「あんた、合わないからって辞めたばかりなのに。インテリア? 変な名前ねえ」


 母さんは興味なさそうな返事だった。

 どうやらイン〇ルミラノを知らないらしい……。


「父さんがいいって言ったら、いい?」


「父さんが言えばね。街クラブはタダだったけど、こういうところはお金がいるんでしょう? あんたはお父さんが頑張ってお仕事をしてくれたお金で暮らしているんだよ?」


「う、うん」

 

 それを言われると弱い。

 サッカー選手になって、お父さんがしんどいのに無理して仕事行かなくてもよくなるくらい、稼いで楽をさせてあげたいんだけどなあ。

 でも、今はそんなことは言えないや……。

 父さんが帰ってくるまで待って、話をしてみる。

 父さんは僕が寝る前に帰って来てくれたので、さっそく言ってみた。


「イン〇ルミラノだって!? すごいクラブじゃないか!」


 父さんはスポーツ好きだけあって、イン〇ルミラノのことを知っていた。

  

「でもあなた、お金が……」


「うーんでもなあ、匡がやりたいと言っているわけだし、チャレンジさせたらいいじゃないか。駄目で元々、だろう?」


 父さんがそう言うと母さんは困った顔をして僕を見る。


「見込みがなさそうだったら、考えますからね。見込みがあるなら続けてもいいけど」


 この分だととりあえず何とかなりそうだ。

 ありがとう父さん。

 父さんはその場で携帯を取りだして連絡していた。


「もしもし……」


 この時間帯で? と思ったけど、マリオのおじさんは普通に出てくれたらしい。

 

「今度の日曜、連れてきてくれだって。一応ミニゲームをやって資質を見るそうだ」


「ほら、やっぱり」


 母さんはちょっと嫌そうな顔をする。

 あれ、そんなことマリオさんは言ってなかったけど……。


「匡、頑張ってこい。駄目だったら帰ってきたらいいんだからな」


 父さんの言葉にうなずき、僕は部屋へと引っ込んだ。

 


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