攻撃は最大の防御
「どうした、大宮! 人数かけて攻めろよ! 負けているんだぞ!」
誰かが叫ぶ。
「いや、東京選抜の十番があそこにいるから、攻めあがれないんだ」
別の人が解説する。
「あっという間に三人かわしてシュートまでもっていける奴がいるんだぜ。攻撃の人数を増やせないだろう」
そう、それこそ僕らの狙いだ。
攻撃に人数を増やして守りがうすくなればカウンターのえじきにするぞ、少ない人数で僕を止められるのかと威嚇しているのだ。
「あんなバケモノがいたらうかつには攻められないよな。同店ならともかくリードされちゃったんだし」
詳しい人がいるなあと聞き流しながら僕はボールが来るのを待っている。
「またあの十番にボールが渡ったぞ!」
「今度は大宮はちゃんと中を絞ってるからさっきみたいにはいかないはずだぞ!」
そうは言うけど、対戦した感じだとこれなら普通に攻め込めそうなんだよね。
リードしている時はチャレンジしていいと言われているので、攻め込んでみよう。
さっきよりスペースはないのはその通りだ。
大宮のディフェンスは他の四人を放置して僕を止めに来ている。
けど、ボールを足の裏で転がりながら回転して、ダブルボランチの間をすり抜けるようにかわす。
「<ルーレット>か!」
そして突っ込んできたセンターバックのふたりをシザースで抜き去る。
「四人をこともなげにかわしたー!?」
「馬鹿な、プレスが全く効かない!?」
観客のどよめきをよそに、僕は最後のふたりに挟まれながら、左側の選手の股の下を狙ってシュートを撃った。
「決まったー! 東京選抜、二点目!」
「バロンドール(世界最高選手)受賞者みたいなスーパープレー!」
「そんなレベルか? 近代サッカーを否定するようなもんだろ、今の!?」
みんなの驚きとともに前半が終わった。
「やりやがったな、このバケモノが!」
僕はふたたびチームメイトにもみくちゃにされる。
「とんでもねえことをやりやがって!!」
正直かなり痛い。
五分ハーフだから給水タイムしかないようなものだ。
ふう、生き返る。
かなり暑いもんね。
それが終わるとコートチェンジで、その時スクールのメンバーが来ていることに気づいた。
「見てたぞ、来栖。このトンデモやろうめが」
高野先輩は苦笑している。
「匡くんカッコいいー!」
「ほんとうサイコー!」
女子たちには黄色い声援を送ってもらい、後半も戦う元気をもらう。
するとチームメイトたちがまじめな顔で僕を囲む。
「なあ、来栖。あの女子たちはいったい何者なんだ? お前とはどういう関係なの?」
「同じサッカースクールの仲間だよ」
それがどうしたのかと聞くと、みんな悔しがる。
「ちくしょー! かわいい子ばっかりじゃねえか!」
「俺もインテルに通えばよかったかなぁ」
みんな何言ってるの……。
あきれながら監督のほうをちらりと見ると監督も苦笑している。
特に作戦の変更はなしか。
そのまま後半がはじまったわけだけど、はりきっているメンバーが何人もいた。
そのおかげで僕は適度に休むことができる。
二点差がついた以上、大宮は無理にでも攻めてくるしかなくなったが、そこに僕がからまないカウンターが決まって三対〇になって勝負ありとなった。
大宮はがっくりと来ているようだったけど、審判がフエを鳴らすまであきらめずにボールを追いかけ、攻めてきたので緊張感のあるゲームになった。
「三対〇で東京選抜が勝った!」
「去年ベスト4の大宮が負けた!」
「今年の東京選抜は強いぞ!」
「というか十番がやばすぎるぞ!」
驚きの声が一気に広まっていく。
おそらく同じグループの他のチームはこのゲームを見ているだろう。
僕が今回みたいなプレーをしたのは、それの対策というわけだ。
ひとりでボールを持って敵陣につっこんでいきたがるタイプの選手だと思われたら作戦成功だね。
「匡くーん!」
優海ちゃんたちが手を振ってくれたので手を振り返す。
いつものことだったんだけど、左右からチームメイトたちにがっしりと挟みこまれる。
「おい、来栖。俺たちは仲間だよな?」
「俺たちのことを紹介してくれるよな?」
え、別にいいけど……。
僕は女子たちのところへ行ってチームメイトを紹介する。
「あ、どうも」
女子たちはあきらかに愛想笑いだった。
それでも可愛いから仲間たちはデレデレと鼻の下を伸ばしている。
こういう一面があったなんてびっくりだなあ。
優海ちゃんがとがめるような目でこっちを見てきたので、謝っておく。
優海ちゃん、怒るとかなり怖いからね。
それにしても谷口くん、来てないのかな。
テレビで見てくれていたらいいんだけどなあ。