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17/27

東京トレセン

 東京トレセンの練習は思っていたより普通だった。

 緊張していたけど、すぐにみんなと仲良くなれた。


「あの変態ドリブラーか」

 

 と言われたのだけは納得がいかない。

 教えてもらえる練習に関してはインテルミラノと差がないというか、スクールのほうがレベル高くない? とちょっと思ったけど、余計なことだろうから黙っておく。

 ただ、食事内容についていろいろ教えてもらえたのはよかった。

 そしてゲーム練習がはじまると、やっぱり楽しい。


「来栖を止めろぉ!」


「来栖にパス入れさせてるんじゃねえええ!」


 何やら絶叫が起こっているけども、東京ヴェルベットよりもレベルが高い。

 僕がボールを持つとすぐにマークがふたりつくのだ。

 前にいるのはディフェンスが三枚と味方のフォワードがふたり。

 マークをかいくぐってパスを出すか、それとも自分で持っていくか。

 いままではこのふたつのパターンがほとんどだったけど、このチームは違う。

 味方のサイドバックがあがってきてくれる。

 今回は右サイドバックの片山くんがきてくれたので、そっちにパスを出す。

 片山くんがそのままドリブルで攻めあがると、敵のディフェンスがひとりそっちに回るので、中にスペースが生まれる。

 そこに僕が走り込み、片山くんからパスをもらう。

 マークのふたりは最初のダッシュで五十センチほど離しているので、これはチャンスだ。

 もっともグズグズしていると追いつかれるため、ワントラップをしてそのままシュートを撃つ。

 僕が撃ったシュートは敵ディフェンスの横をすり抜け、大きく揺れながら落ちてキーパーの手をかいぐくってネットを揺らす。


「いま、球が揺れたぞ?」


「<枯れ葉シュート>ってやつか!?」


「来栖、あんなのも撃てるのかよ!?」


 じつは毎日こっそり練習しているんだよね。

 得点が期待できるミドルシュートを撃てると攻撃に幅ができるし、敵のディフェンスを振り回せる。

 

「お前、本当に十一歳か……?」


「そうだけど」

 

 四月が誕生日なので、正真正銘の十一歳である。

 敵の反撃になったので、まずはスペースを埋める。

 ディフェンスは正直大変で苦手だ。

 スペースを埋めて、パスコースを消して、ノーマークの選手がいないか気を配らなきゃいけない。

 味方の選手と協力し合う必要があるんだけど、これがかなり難しいのだ。

 毎日同じチームで練習していたら違うのかもしれないけど、トレセンってめったに集まらないもんなあ。

 それにパスカットはけっこう得意だと思うけど、みんな僕がとれる範囲にパスを出さなくなったんだよなあ。

 味方のセンターバックがボールを奪ったので、カウンターアタックの時間がやってくる。


「走れ!」


 フォワードふたりと僕が走り出す。

 左サイドに蹴り出されたボールに追いついたのはフォワードの吉川くんで、彼が中央を走っている僕にパスをくれる。

 そして僕はワンタッチで右を走っていたフォワードの倉田くんに出した。

 敵チームは四人が残っていて、サイドバックとセンターバックの二枚で倉田くんを止めに行き、後の二人で僕と吉川くんをマークするつもりらしい。

 後ろから敵選手が戻ってきてるから、もたついているとカウンターは失敗になる。

 倉田くんは倒されながらもペナルティーエリアまで来た僕にパスをくれた。

 センターバックが僕の左側から来ていて、さらに倉田くんについていたセンターバックが走ってきている。

 <枯れ葉シュート>を出すためにはシュートコースの左半分が消されているのが痛い。

 右半分しかない状況で撃っても、枠外に飛んでいく可能性があるんだよね。

 まだそこまでのコントロールはできないんだ。

 じゃあどうすればいいのかと言うと、ドリブルで敵をかわしちゃえばいいんだよね。

 サイドバックをかわせばキーパーと一対一にできるということで、僕はシュートを撃とうとして止める。

 まんまと引っかかってシュートコースに飛び込んできたサイドバックの左側をひょいと抜けていく。

 よし、キーパーと一対一になった。

 吉川くんのマークについていた選手があわてて戻ろうとしているけど、もう遅いよ。 

 本日二回目の<枯れ葉シュート>だ。

 やっぱりキーパーは止められず、ゴールネットを揺らす。


「あれはやべえわ」


「俺らフォワードより得点力があるってどういうことよ?」


 僕はチームメイトたちにもみくちゃにされる。

 別に自分で点をとりたいわけじゃなくて、撃てる時に枠内にシュートを撃っておけば敵のディフェンスに脅威になって戦略が増えるんだよね。

 僕ばかり点をとっちゃってごめんなさいって気持ちはあるけども。

 

「新戦力がフィットできるか心配していたけど、余計なお世話だったな」


 横山くんがあきれたような顔で言う。


「もう完全に来栖のチームになっちゃってるよな。これ、ワールドチャレンジでもいけるんじゃね?」


「ワールドチャレンジ?」


 聞き返すと横山くんが教えてくれる。


「Uー12ジュニアワールドチャレンジカップグランプリだよ。俺らは東京選抜で出場枠があるんだ」


 あ、夏にやるやつか。

 東京選抜って予選ないんだ。


「バルセロナとかリヴァプールとかボカジュニアーズとか来るんだぜ。やっぱり対戦したいよな」


「U−12は世界大会がないから、こういう大会じゃないとヨーロッパや南米の強豪とは対戦できないもんな」

 

 それはそのとおりだね。

 バルセロナ、今年も来るのかなあ。


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