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もっと上手くなりたい

 スクールに顔を出すと、僕と優海ちゃんが東京トレセンに残った話題で持ちきりだった。


「ふたりともすごい」


「匡くんなんて、トレセンの現レギュラー相手に無双していたらしいわよ」


「本当、しょうくんって異次元のプレーヤーよね……」


 女子たちにチヤホヤされてうれしかったけど、男子たちは高野先輩とかへの遠慮しているようだった。

 ただ、僕のプレーを見ていたのは高野先輩くらいしかいないはずだから、先輩が女子たちに話したんだろう。

 その先輩がやってきた。


「よお、来栖。トレセンがんばれよ」


 先輩は吹っ切れたような顔で話しかけてくる。


「あ、はい」


「そんな顔をすんな。俺はあきらめたりしない。いつかお前がいるステージに追いついてやるからな。モタモタしていると、ぬかしちゃうぞ」


 高野先輩は強がっているようにも見えたけど、普通に接してくれたのでとてもありがたかった。


「ま、負けないよ。僕は世界一のプレーヤーになりたいんだ」


「来栖が言うと夢だって笑えねえよな……」


「こいつならマジで世界一になれるかもしれないもんな」


 六年生はそう言う。

 練習はいつものメニューを終えて帰る時間になったんだけど、高野先輩がいなかった。

 いつもは他の六年生といるんだけど……。

 居残り練習でもしているならつき合おうと思って探していたら、コーチたちと話をしていた。


「俺がトレセンに残れるためにはどうすればいいですか? 教えてください」


 ギクリとする。

 悪いと思いながらおそるおそる聞き耳を立てていると、コーチが答えた。


「高野、お前が来栖のようにハイレベルなステージへ行きたいというなら、厳しいことを言わなければならない」


 苦く、何か迷っているような声だった。


「かまいません。俺はもっと上へ行きたい! プロになりたい、日本代表になりたいと思っているんです!」


 僕に対してのものとは違ってすがるような、泣きそうな先輩の声に胸が痛い。

 

「お前はポストプレーができない。ディフェンダーを出し抜く動きもできない。足は速くダッシュ力はあるが、飛び出すタイミングが上手くなく、オフサイドをとられやすい。テクニックはあるが、それを活かせるプレーができていない」


「……はい」


 容赦のない指摘に先輩はうなだれているようだ。


「お前がプロになるなら死ぬほど練習するか、それともそうだな。他のポジションに回るという手もある」


「他のポジション、ですか?」


 先輩だけじゃなくて僕にとっても予想外だった。


「お前ダッシュ力もスタミナもあって、守備を頑張れるタイプだからな。セントラルミットフィルダーならあるいはと思う」


「セントラルミットフィルダー……」


 先輩は困惑しているようだった。

 いままでフォワード一筋でやってきた人だもんな。


「いまのままじゃプロになれないとは言わないが、代表に呼ばれることはないだろう。お前たちの世代、フォワードは人材が多いし来栖がいる。あいつがいれば得点能力がけた違いにアップすることが期待できるのは、高野なら理解できるな?」


 僕の名前が出てドキリとした。


「分かります。あいつ、トレセンでも圧倒的でした。味方に同レベルがいなかったせいで空回りしてましたけど」


「そうだ。来栖がいるかぎり、前線はあいつと相性がいい選手、呼吸が合う選手を並べるというのはひとつの答えとなるはずだ。そういう意味じゃ、お前にもチャンスは残されていると言えるな」


「……考えてみます。ありがとうございます」


 先輩は何やら考えているようだった。

 それにしてもこれじゃ出ていけないよ。

 聞いちゃってごめんなさいと謝るのも勇気がいるので、こっそりと立ち去る。

 高野先輩、本当にプロになりたいんだな。

 僕は正直そこまで真剣に考えたことがない。

 申し訳がないというのは何だか違う気もする。

 僕もプロを目指してみたいなという気持ちが少しずつ出てきた。

 先輩に負けていられないと思うからだ。

 優海ちゃんもプロになりたいらしい。

 僕だってふたりに置いて行かれたくはなかった。

 そのためにはトレセンでも頑張ろう。

 どんな練習をするのか分からないけれど、時任くんや横山くん、安藤くんがいるんだから聞いてみようか。

 あ、そう言えば三人の連絡先知らないや。

 当日になってからでも大丈夫かな……?

 とりあえず迎えに来てくれた母さんの車に乗り、おそるおそる切り出してみた。


「母さん、僕サッカー選手になりたいんだけど、なってもいい?」


「あんたねえ」


 母さんはあきれたようにため息をつく。


「プロのサッカー選手なんて、なりたいと思ってなれるようなものじゃないでしょうに」

 

「う、うん」


 そうだよねと思う。

 東京トレセンに選ばれただけじゃ難しいんだろうか。


「でもまあ、目指すだけなら自由だしね。ダメだった時のことはちゃんと考えておくのよ?」


「うん、ありがとう!」


 母さんには反対されなかったのがうれしくて、笑顔でお礼を言う。

 でもダメだった時かぁ……どうすればいいんだろう。

 考えないとダメなんだろうけど、何も思いつかない。

 


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