トレセンの結果
CチームとDチームの戦いは、Cチームが勝った。
時任くんがゴールを許さず、一点をとったのである。
ゲームが終わった後、僕らは集められて合格発表を待つ。
「……十一番、時任守……四十二番来栖匡。以上二十三人だ」
僕と時任くんは選ばれたが、高野先輩は選ばれなかった。
「合格者は今後、召集に応じてもらう。一緒にトレーニングしたり、他県のトレセンチームと交流試合をしたりしてもらう」
東京ヴェルベットの安藤って人とか、僕とAチームで対戦した人とかも選ばれていた。
あの人たちと一緒にサッカーできるんだね。
ちょっと楽しみだけど、先輩に申し訳ない気がしてならない。
解散になった時、先輩はこっちを見ずにとぼとぼとひとり歩いていく。
その背中はいつになく小さくて、いたたまれない気持ちになる。
そんな僕の肩を時任くんがぽんと叩く。
「いまはひとりにしておけよ。お前がはげましたりなぐさめても、たぶんつらいだけさ」
「……うん」
サッカーはとても厳しい。
つらくて悲しいことがあり、自分にはできないことがある。
空を見上げると、晴れ渡っていた。
いつもは気持ちよく見えるのに、いまはちょっと目が痛い。
「帰ろうぜ」
僕らが歩いていると途中で話しかけられた。
「よお、さっきはやられたよ」
声の主は横山って人で、隣には安藤って人もいる。
「フレンドリーマッチで思ったけど、お前はやっぱりバケモノだな」
安藤くんはあきれた顔で評価した。
「まさか俺が年下に手も足も出ないなんて……お前、どこ住み? どこのクラブ?」
「インテルミラノスクールです」
「……ああ、ここ最近できたってスクールか」
安藤くんは知っていたらしい。
「やっぱりすごいこと教わってるのかな。インテルミラノだもんな」
横山くんもつぶやく。
「そこのスクールのチームと対戦したことあるけど、来栖以外はわりと普通だよ。こいつひとりだけバケモノなんだ」
時任くんが横から会話に参加する。
「事実、フレンドリーマッチを無失点でおさえられたしね。こんなのがあと二、三人いたら何点とられるか分からないよ」
「それは言えてるな」
「ちょっと安心したぜ」
安藤くんと横山くんはホッとしたようだった。
なんだか僕って人間扱いされていないような……?
「来栖はレベル高すぎて、周囲とかみ合ってないんだよな。東京トレセンのメンバーでようやくかみ合うんじゃないのか?」
時任くんはそう言ってくれる。
「あんだけ飛びぬけてたら、いままでストレスだったんじゃないのか?」
「……サッカー楽しいよ?」
何を言われているのかよく分からなかった。
たしかにけっこう怒られるけど、スクールはたくさんのことを教えてもらえるから楽しい。
背面トラップの練習やダイレクトブレ球シュートの練習もつきあってもらえるしね。
「自覚ないのか……」
「そう言えばレベルが違うわりに、不満そうなプレーをしていなかったな」
時任くんが何かを思い出すように言った。
「不満? 別にないけどなあ」
仲間とサッカーできるだけでうれしい。
「まだそういう段階じゃないのか」
「そりゃサッカーは楽しいけどよ、楽しいことばかりじゃないだろうに」
そんな日がいつか来たりするのかな。
それはちょっとやだなあ。
「じゃあ練習で」
僕ら軽く手をふって別れ、それぞれ親のところへと向かった。
「お帰り翔、どうだった?」
「残ったよ」
父さんに笑顔で報告する。
「すごいじゃないか! 東京で二十三人ってことだろう?」
「うん」
「それからどうなるんだ?」
父さんの問いに僕はちょっと困った。
「えっとみんなでトレーニングしたり、情報交換をしたり、交流試合をやったりするらしいよ」
「他の選抜チームと試合をしたりするのか」
「たぶん」
まあ僕が出られるか分からないけどね。
何しろ初めての参加なんだし。
「送り迎え大変だけど、大丈夫?」
「もちろん!」
父さんは胸をどんと叩いた後、小さな声で言った。
「あ、でも、母さんにもちゃんと説明して許してもらうんだぞ」
「うん」
母さんは許してくれるだろうか。
許してくれなかったらどうやって説得しようか。
なんて心配していたけれど、杞憂に終わった。
「東京選抜に合格したの?」
「うん」
トレセンと選抜チームの違いは正直僕もよくわからなかったので、適当に流すことにする。
「仕方ないわね。それにしても意外ね。翔にそんな才能があったなんて」
「才能じゃないよ、毎日サッカーの練習をしていたおかげだよ」
僕は口をとがらせる。
みんなが楽しく遊んでいる時間もずっとボールを蹴っていたのに、才能なんて言葉で片づけてほしくない。
「はいはい。ごめんね」
母さんはそう言う。
どこかうれしそうな表情で、それを見たら僕は抗議する気をなくしてしまった。
どうせなら父さんと母さんにも喜んでもらいたいし、もうちょっと頑張ろう。