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ゲーム形式で無双しちゃった

 昼からはゲーム形式でのテストで、結果よりも内容を重視されるらしい。

 

「四十四人いるから四チームに分け、交代で対戦してもらうぞ」


 そういう風にできるように人数を調整したのだろうなと思う。

 僕はBチームでAチームとの対戦で、高野先輩と時任くんはCチームだった。


「来栖と対戦しなくていいのは助かるな」


 時任くんはそんなことを言ったけど、僕だって時任くんと対戦は避けられてうれしい。

 普通にやってたらまず点をとれないからね。

 

「今日は変な縛りもないからな。無双しちゃえよ、来栖」


 高野先輩が僕をそそのかしてくる。

 試合がはじまったけど、パスが来ない。

 そもそも攻め込まれる回数が向こうのほうが多くて、こっちはなかなかボールをとれない。

 仕方ないから自分でとりにいこうか。

 ボールを奪う能力だって評価項目のはずだよね。

 赤の十番をつけている子がボールをとったタイミングで、斜め後ろからタックルを決める。

 相手は倒しちゃったけど、ちゃんとボールに行ったのでファウルは取られない。


「横山がボールを取られた!?」


「東京トレセンの司令塔が一瞬で!?」


 周囲がざわめいたあたり、どうやらすごい人だったっぽい。

 気にせずパスを出そうとしたけど、前にいる誰もパスをもらう動きをしてくれていなかった。

 近くにいる子にパスを出して、リターンをもらってもパスコースが消されてしまっている。

 これじゃドリブルで運んでいくしかないか。

 

「あいつがドリブルをはじめるぞ!」


「ドリブルテストですげえドリブルをしていたやつだ!」


 外野はどうも僕の顔を覚えているらしい。

 止めにきたひとりめを<クライフターン>でかわし、そのまままっすぐに攻め上がり、左右から挟んできたふたりもかわして、ペナルティーエリアに侵入していく。


「ひとりで持っていくつもりか!?」


「いくら何でも持ちすぎだ!


 僕はパスを出さないと思ったのか、残りのディフェンダーふたりに後ろから追いついてきた人と三人で囲まれてしまう。

 そこでフリーになっているこっちの十一番にパスを出すと、十一番がシュートを撃ったけど枠を外した。


「外した!」


「決定的チャンスだったのに!」


 今のは決めてほしかったな……相手のキーパーは時任くんじゃないんだから。

 

「すげえぞ、あいつ!」


「Aチームって東京トレセンの正式メンバーが五人もいるのに、まったく相手にしてねえ」


「というか、ミットフィルダーが中央突破って……近代サッカーなのに」


「リヴァプールのストライカーみたいなスーパープレーじゃないか!?」


 ざわめき以外にも何やらビビっているような空気がある。

 敵チームもビビってくれたら、こっちはプレーしやすくなるんだけどな。


「いや、いまのはAチームのポジショニングが悪いよ。あんな横に間延びして、スペースを作ってたらダメだろ。もっとコンパクトにしないと」

 

 もっともな指摘も出た。

 たしかにコンパクトな守備で次々にフォローする選手が出てこられるときつい。

 でもなあ、味方のプレースタイルなんて分からないし、だからと言ってスタンドプレーに走るのはまずいな。

 相手の攻撃になったので、とりあえず横山って人をマークする。

 相手からのボールが普通に送られてきたから、カットした。


「ああ!?」


「いまのは安直なパスだったろ」


 うん、僕のこと気づいてなかったよねって断言してもいいくらい、単純すぎるパスだった。


「また出るのか、あのドリブルが!?」


 外野がさわぐと左から衝撃を感じる。

 横山って人がチャージしてきたのだ。

 こういうパワープレーは苦手なんだよなあ……バランスを崩しそうになるのをこらえつつ、ひとまずマークがついている味方の十一番にパスを出す。

 体幹をきたえる練習もしていてよかった。

 マーカーは右側にいるよって情報をこめておく。

 その人は前に進もうとして素早くカバーしてきたディフェンダーに挟まれ、ボールがとられそうになる。

 うーん、敵チームとこっちのチームに差がある気がするなあ。

 新戦力の発掘を目的としたら、仕方がないかもしれないけど。

 劣勢状態でも輝ける選手をほしがっている……と仮定すればね。

 また敵のターンだけど、今度は僕がいないサイドへの縦パスが出され、すぐにショートパスがつながれていく。

 

「あれ、縦パスを使うようなサッカーだっけ?」


「あいつだ、横山をあっさり止めた、あのバケモノドリブラー。あいつがいるせいで、中盤は飛ばしたいんだろ」


「中盤はあいつひとりに制圧されたようなもんだからな」


 うーん、これって東京ヴェルベットの時と同じだなあ。

 勝負してほしいけど、これも戦術だしな。


「まああいつひとりすごくても、チーム戦力の差は明らかだ。サッカーはひとりじゃできないからな」


「孤立さればいいわけだ」


 外野の言うとおりだった。

 この後、僕は孤立してしまい、パスが回ってこなくなった。

 敵が僕へのパスをカットしようとするのはわかるけど、味方も僕にパスを出そうとはしてないように思える。

 ……どうして僕にパスを出してくれないんだ?

 ゲームが終わると、僕は泣きそうになるのを我慢して、顔を上げてピッチの外に出ていく。

 その先には時任くんと高野先輩がいた。


「お疲れ。本当に無双しちゃったな、お前」


 先輩はあきれているようだった。


「腐るなよ、来栖」


「時任くん、なんで僕へパスが来なくなったの?」


 聞いてみると時任くんは苦い顔をする。


「お前が規格外すぎて、やっかまれたんだろ。普通、そんなことをしても自分の評価が下がるだけだからやらないはずだが、お前はそんな当たり前の判断力を奪うくらいのバケモノだったわけだ」


 怪物的プレーは敵の平常心を奪うものだが、僕の場合は味方の平常心すら奪ってしまったのだと言われた。


「まあ、トレセンレギュラーが四人がかりだったのに、お前相手じゃいいところなしだったもんな。俺は慣れちゃったけどよ、普通はビビるか卒倒するぜ?」


 高野先輩が肩をすくめる。

 そんなこと、考えてもみなかったなぁ……。


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