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トレセン

 僕と高野先輩はトレセンの選考会に呼ばれることになった。

 女子は優海ちゃんが選ばれていたけど、男子と女子では日時も会場も別だった。

 今日僕は指定された会場に父さんに車で送ってもらった。


「じゃあ怪我するなよー」


 保護者は立ち入り禁止らしいので、時間までどこかでヒマをつぶしてくるらしい。

 キョロキョロしているとポンと肩を叩かれた。

 振り返ってみると時任くんがニコニコしている。


「よお、やっぱり来たな、来栖」


「こんにちは。これってどういう順番で何をやるの?」


 知り合いがいるというのは安心ができるし、質問もしやすい。


「ああ。まずは簡単なダッシュ、パス、トラップ、ドリブルのテストをやって、ゲーム形式のテストをやるんだよ」


 僕の問いに時任くんが教えてくれる。


「前回選ばれたメンバーでも普通に落ちるから、油断はできないぜ」


 そうは言っても彼には緊張がなく、自信にあふれているようだった。


「時任くんもやるのかい?」


「ゲーム形式は一緒だけど、それ以外は別メニューさ。だってキーパーにパスやドリブルを求めても仕方ないだろう?」


 そりゃそうだ。

 プロの中には攻撃参加したりフリーキックを撃つキーパーもいるけど、あれは例外だろうし。

 できないよりはできたほうがいいんだろうけどさ。

 

「来栖ならヘマしないかぎり余裕だろ。ヘマするなよ」


「やってみないと分からないよ。緊張はしていないけど」


 だって別にダメだったらダメだったらでかまわないと思っているのだ。

 東京ヴェルベットに誘われたから、とりあえず進路はひとつ確保できていると考えていい。

 日本代表とか言われても正直ピンとこないんだよねえ。


「大物だなあ」


「よう、来栖」


 そこへ声をかけてきたのは高野先輩だった。

 この人はすでに緊張している。


「お前、落ち着いてるなあ」


「先輩、緊張しまくってますね?」


「そりゃできるならトレセンメンバーに入りたいからな。そうすれば、クラブチームへアピールになるし」


 高野先輩はそのようなことを考えているらしい。

 時任くんは大きくうなずいた。


「そりゃクラブのスカウトや関係者も来ているからな。えーと、たか……くんの考えはまっとうだよ」


「高野だよ、覚えてくれよ」


 高野先輩は情けない顔をする。

 時任くんはごまかし笑いを浮かべるだけだった。


「ゲーム形式は昼から、午前中はアップと基礎テストだけだ。それに大事なのはゲームでどう動けるかだ。午前中のミスなら、挽回できるからあせんなよ」

 

 時任くんはそう言い残して去っていった。


「あいつ、いいやつだよなあ」


「そうですね」


 高野先輩の言葉にうなずく。

 それっきり僕らは黙り込んでトレセンのコーチたちが来るのを待っていた。

 代表らしい人のあいさつが終わると、さっそくゼッケンが配られてテストに移っていく。

 まずは五十メートル走、次にドリブル、それからパスとやっていくと説明があった。

 五十メートル走の測定からである。

 僕のタイムは8秒2で、高野先輩は8秒1だった。


「これは俺らあんまり変わらないんだな」


「そうですね」


 サッカーは五十メートル走じゃないからなぁ。

 大事なのは十メートルから三十メートルくらいの距離をダッシュする能力のほうだ。

 別に高野先輩がだめってわけじゃないよ、念のため。

 三角コーナーを置いてのジグザグドリブルをやっていると、何やら周囲が沸いていた。


「誰だ、あいつ!?」


「見たことがない顔だな」


「ドリブルであんなに速く走れるもんなのか!?」


「足元にボールが吸い付くようなドリブルって言われるけど、本当にやっているやつを初めて見た気がする」


 僕のことだと分かるんだけど、まさかこんなに騒がれるとは思わなかった。


「よお、来栖、一気に有名になったな」


 高野先輩にからかわれる。


「先輩はどうだったんですか?」


 タイミングが悪くて見られなかったんだ。


「俺か……ダメだったよ。コーナーに何回も当てちゃってさ。焦ってしまってよ」


 高野先輩はがっくりと肩を落としている。


「まだまだ取り返すチャンスはありますよ」


「お、おうそうだな」


 その後パスとトラップをこなして前半が終了した。

 別にトレセンに合格できなくてもいいんだけど、どれくらいの順位にいるのかはちょっと気になるな。

 聞けるわけがないのでおとなしく支給される弁当とペットボトルのお茶を受け取って、ご飯を食べることにする。

 ひとりで食べようか、それとも高野先輩を探そうかと迷っていると、高野先輩と時任くんが左右から同時にやってきた。 


「よお、どうせだし三人で食べるか?」


「はい」


 僕らは日陰になっているところをさがして三人で腰を下ろす。

 下に何も敷かなくて平気なのは共通で、優海ちゃんには「信じられない」とあきれられていることだ。

 父さんは笑うだけなんだけど、母さんは怒る。

 男と女で違うんだなあ。


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